#7
「いや、それだと……」
「いいから本気でかかってきなさいよ!!」
メアの怒号にルチルは黙り込む。
「アタシ、アンタのそういうとこが気に入らないの。だからあっさりルピナスなんかにさらわれちゃうんでしょ?まぁいいわ、本気でやれないなら、本気にさせてあげるから!!」
メアの怒号が止むと、先程よりも段違いのスピードで、ルチルの後ろに回り込み、ルチルの背中に向かって回し蹴りを命中させた。ルチルは公園の林の中に飛ばされ、なんとか体制を立て直し、メアに向かって再び構える。
「……確かに、私はキミの言う通りまだまだ甘いのかもしれない。だけど、だからこそ、とことん特訓に付き合ってもらうよ!!」
「そうこなくっちゃ!!じゃあ……」
メアはルチルに言葉をかけながら、木々の間を反射して、ルチルの周りを跳び回る。
「アタシの攻撃!全て見切ってみな!!」
そう言うとメアはルチルの背後を取り、再び蹴りを入れようとした。しかし、ルチルにガントレットで防がれてしまった。
「一回防いだ程度で、油断しない事ね!」
メアは再び林の中に姿をくらまし、木々の間を跳び回る。ルチルは管を取り出し、自分の周りに霧状のエネルギーを纏わせた。
(冷静に……一発一発は防げない攻撃ではないはずだ。5覚から入ってくる情報を逃すな、必ずチャンスを掴め……!)
メアは木々の間を縫いながら、今度は真正面から向かってきた。
「今だ……!」
メアがルチルの顔面に一撃入れる前に、ルチルは横に躱し、メアを突き飛ばした。
「ぐっ……!」
メアはルチルに飛ばされ、咄嗟に受け身を取った。
「少しはやるみたいね。ならこれはどう!!?」
メアが再び林の中に姿を消すと、今度は無数の赤い糸が、ルチルの周りに結界のように張り巡らされた。ルチルが再び霧を纏おうと管を伸ばした瞬間。
「っ!?しまっ……!?」
メアが刃を伸ばし、ルチルの背中を斬りつけた。ルチルはその場で体勢を崩し、地面に拳をついた。メアはルチルの前に立ち、刃をルチルに向ける。
「"殺す気"でやるって、言ったよね。」
メアは続ける。
「アタシは、アンタの主が気に入らない。研究室で生まれて、アイツに気絶させられる前、アイツの日記みたいなのを見た。アンタの事、息子みたいに言ってた。アタシは、アンタのオマケだって。それが気に入らない。」
「だからアンタには、ここで死んでもらう。アイツ、どんな顔するかな。」
突然、メアが赤い糸を手当たり次第に切りつける。メアが切った断面から、赤い霧が立ち込める。メアは霧の中に姿を消し、完全に気配を消した。
「…!?これは……!?」
「恨むなら、アンタを産んだアイツを恨むんだね。」
どこからともなくメアの声が響く。ルチルは背中の傷を管のエネルギーで無理矢理塞ぎ、その場で構える。もし本気で殺すつもりなら、首から上を狙うだろうと、体を捻り、頭を覆うようにガントレットを構えた。
(全方位の何処から来てもおかしくはない。もし死ぬとしたら、今できる一番の事を……。)
(霞の中に消えた気配が、少しずつ露わになっているのを感じる。だが詳しい位置は分からない。こちらに刃を向ける瞬間を逃すな。チャンスは1回だけだ。)
赤い霧が少しだけ晴れ、周囲の木々がかろうじて見えるようになったその時。
「死ね!カガチルチル!!!!」
刹那の間、メアがルチルの首に刃を入れようとしたその瞬間。
「はぁっ!!!!」
攻撃を受け流し、薙ぎ払うようにメアを上に突き上げる。中を舞ったメアに、ルチルはガントレットの力を存分に解放し、メアを全力で殴り飛ばした。飛ばされたメアは、木に強く打ち付けられ、その場に倒れた。
「………はは………………」
全身ぼろぼろになったメアに、ルチルが歩み寄る。
「殺せよ。私を生かしておくメリットなんて無いだろ。」
ルチルは首を横に振る。
「………はぁ?アンタこの期に及んで………ってそっか……。アンタ、最後まで本気じゃなかったもんね。結局、誰からもナメられっぱなしな訳ね。」
「……君は強かったよ。」
ルチルが続ける。
「それに、生かしておくメリットならあるよ。」
「はぁ……?……はぁ。聞くだけ聴いてやるわよ。」
「私は、主に生み出されて、一緒に暮らして、すごく楽しかった。キミに主は冷たく当たったのかもしれない。だけど、私はどうだったかな。」
「………?」
「少なくとも、私は今日キミと過ごしてみてすごく楽しかったよ。それに、スイーツ一緒に食べた時、凄く優しい顔してた。こうして対峙した時は冷酷な殺人鬼みたいな顔してたけど、キミには優しい所もあるよ。」
「………」
ルチルのかける言葉に、メアはすっかり黙り込んでしまった。そしてそのまま、意識の奥底へと沈んでいった。
「えっ……あっ………。ちょっとやりすぎたかな………えっと………はぁ………。取り敢えず、暁さんの館まで運ぶか。」
霞が晴れた公園を、ルチルはメアを抱え、後にした。
〈日が暮れる頃。暁の館〉
「おかえり。……って、何したんだよあんたら………」
「アハハ……ごめんなさい……。」
「まぁ、あんたも疲れてるみたいだし、今日はもうゆっくり休みな。メアは俺が手当しとく。そこのソファーに寝かせといてくれ。」
ルチルはメアをソファーに寝かせると、寝室へと向かった。
「ってあんたもかよ………背中見せな、手当してやる。」
「あ、はい」
「ったく……まぁ、何があったか聞くのは明日の楽しみにとっといてやるよ。本当に、人騒がせな奴だよ。」
#7、おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
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それでは、また来週。