#6
ルピナスとの戦闘後、ルチルとメアは暁の館に帰還した。
「帰って来たな。おかえり」
館の扉を開けると、広間の真ん中で暁が立っていた。
「はぁ……聞きたい事しか無いんだけど。」
「僕からも、質問が……」
2人は暁に同じ質問をしようとした。
「とりあえず聞いてくれや。あんたらに依頼する時、俺は報酬を出すって言ってたろ。ほれ、俺の後ろにあるこいつがその報酬だ。」
2人がそれに被せてある黒い布を払うと、大きな手と鋭い足の形をした黒い金属で出来た装備が置かれていた。
「ガントレットはルチルの、その脚はメアのだ。」
2人がそれぞれ装備してみると、その武器は2人の手足にしっかりとハマり、そのまま消えた。
「消えた…!?」
2人が驚愕するや否や、暁は軽く武器について語り始めた。
「コイツぁ特別な素材を使っててな、使用する本人の意志に連動して形を変えるんだ。あんたらに付けさせたそれは、あんたらの意志に反応して出て来る。まぁ普段生活する分には重量も触ってる間隔も感じないから安心しな。」
「そんで次だ。俺も焦ってたもんだから大事な事を何もかも説明出来ずに居たもんな。全てを教えてやる。ついて来な。」
暁は2人を手招きし、客室へと案内した。人数分の茶を入れソファーに腰掛けると、茶を一口飲み、暁は2人に自分の身に起こった事について話し始めた。
「まずは2人共、お疲れ様、だな。ニゲラのことに関して何も収穫がなかったのは残念だが、まぁ、そこはこっちで引き続き調べておく。」
「そんで次だ。今は別室で寝かせてるが……お嬢…ルピナスの話だ。お嬢は俺の仕事仲間の娘の友達でな。ある日たまたま精神科の前通りかかった時に、頬にアザが出来ていた。まぁ、早い話虐待されてたんだろう。倉庫の中で、自分の居場所はここしか無いと言わんばかりの事を言ってたのも、両親からの過度な虐待を受けた為。人をさらってたのも、自分の頼れる人間がどこにもいなくて寂しかったからだろう。ルチル、あんたがさらわれて、お嬢があんたと話してた時、嬉しそうだったろ。まぁ、そこまで想定してて説明して無かったわけじゃないが、そこは不幸中の幸いかな。おっといけね、あんたを労わないとだったな。改めて2人共、ご苦労だったな。」
暁は茶を飲み切ると、席を立ち部屋を出ようとした。
「待ちな。」
部屋を出ようとする暁を、メアは引き止めた。
「まだアンタの説明は終わってないよ。倉庫に居た時にアンタが使ってたアレについてだ。」
「そっちの説明もだったな。まぁあんたらには教えといて損はないだろうな。」
暁は部屋を出ようとした足を180°回転させ、再びソファーに座ると、懐から倉庫で飛ばしていた結晶と裁縫針を取り出した。
「あんたら、神子って知ってるか?」
「ミコ…?」
2人の頭上にハテナが出た。
「あぁ、この島を守ってる4人の神子。この辺りは秩序の神子ってのが守ってる。さっきあんたらに渡した武器の話にも繋がってくるんだが、俺がこの館に住み始めて間もない頃に訪ねてきてな、この裁縫針と結晶も、神子に貰ったものだ。秩序の神子は、こう言ってたんだ。
『彼女を助けてあげて欲しい』
ってな。精神科で働いてた頃の俺は、何も出来なかった。だがここに来てから、あんたらに出会ってから、やっと行動に移せた。そう言う点でも、あんたらには感謝しないとだな。」
「ふーん……で、その針どういうもんなのさ。」
メアが針を指差して問う。
「…コイツはな、『生き物の記憶を操作できる』モノだ。」
2人の頭に再びハテナが浮かぶ。
「まぁ戸惑うのも無理はねぇ。普通人の記憶ってのは制御が効かねぇからな。それを制御すんのがこの針だ。あまりにも頭がこんがらがるから、さわりだけな。そこにある結晶、これで四肢を貫いておでこにこの針を刺すと人の記憶を抜き取ることが出来る。お嬢は今まで辛い経験を送ってきた。人をさらったりしたのも表面ではなんとも思ってなくとも、心の奥底では罪悪感で埋め尽くされてるんだろうさ。結局自分で自分の首を絞めて、自分ではどうする事もできなくなっちまったんだ。んで、コイツで記憶を抜いて、その苦しみから解放してやろうって思った訳よ。そうだ、あんたらに出会ってから頼み事ばっかりだったよな。俺からの頼みは一旦済んだから、暫くは街を見て回ったり、ここでゆっくりしていくと良い。まぁそう言うことだ。んじゃ、俺は部屋でやる事があるから、またな。長話聞いてくれてありがとよ。」
暁は話を終えると、今度こそ部屋を後にした。
「……えっと………」
残された2人は気まずくなりながら、取り敢えずメアはルチルと話してみることにした。
「自己紹介とかしたほうが良い?」
「え、あぁ、僕の名前は……」
「ルチルでしょ。私はメア。加賀知メア。呼び方は好きにして。」
少し無愛想にメアが話す。
「そっか、よろしく、メア。」
ルチルは笑顔で答える。メアが気まずそうにしてるのに気付いたからか、今度はルチルが話し始める。
「そうだメア、一緒に出かけてみない?」
「……はい?」
「お互い、出会ったばかりだ。この街の理解を深めておくついでに、せっかくだから親睦を深めようと思ってね。」
ルチルの提案にメアはひとまず乗ってみることにした。
「分かった……じゃあ、出かけようか。」
「うん、そうだ…!前に主にご馳走になった美味しいケーキの店があるんだ!良かったら案内してあげるよ。」
「ケーキ……?」
「うん、ケーキ。凄く甘くて美味しいんだ!まぁ説明するよりも食べてみた方が早いと思うから、とりあえず行こうか。」
2人は館を後にし、スイーツの店に向かった。
街に出て、しばらく歩いていると、突然誰かに呼び止められた。
「加賀知さんとこの弟子さんじゃないかい!調子はどうだぃ?」
声のした方を向くと、肉屋の店主が手を振っていた。
「…知り合い?」
メアが首を傾げる。
「うん、前にある………カイヤさんと街を散歩してた時に知り合ったんだ。ところで今何を?」
「今日は店が休みだからなぁ、久々に外に出てみようと思ってな。普段は家から出ねぇんだが……」
「そうだ、あんたの名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
「私がルチルで、この娘がメアです。」
「そうかぃ!改めてよろしくな!ルチル!メア!っといけね、カミさん待たせてるんだった。また今度ゆっくり話そうや!じゃあな!」
「……なんか、忙しい人だな…………。」
2人は肉屋に手を振った後、再びスイーツの店へと向かった。
「いらっしゃいませ〜♪」
歩き疲れた2人は、店内の冷房で涼みながら、ショーケースの中に並んだスイーツを眺めていた。
「前来た時は確かこれを食べたから……今回はこっちにしてみようかな」
ルチルが選んでいる横で、メアもスイーツを目の当たりにして目を輝かせていた。
「メアはどうする?」
「じゃあ……これで」
会計を済ませケーキの入った箱を受け取ると、2人は店を後にした。
「今日は暑いから、帰ってる間にクリームが溶けそうだな……そうだ、近くにテラスがあるから、そっちで食べよう。」
少し歩いて、2人は海沿いのテラスで腰掛けると、買ったケーキを食べながら景色を眺めていた。メアも初めて食べるケーキの味に、無意識に笑みを浮かべていた。
しばらくして2人はスイーツを食べ終えると、突然メアが口を開いた。
「……アンタ、どんくらい強いわけ?」
「え……?」
突然の質問に、ルチルは首を傾げた。
「暁から聞いたよ。街に現れたバケモン倒したって。聞いた当時は言葉の意味が全く分からなかった。だからアンタの口から聞きたい。そのバケモノってどれくらい強かったの?」
ルチルは答える。
「そうだね……カラダの大きさは……まず横幅が4車線の道路とほぼ同じくらいで、首は伸ばせばビルの2階に届きそうだった。足や翼から生えてる鉤爪は、まともに引っ掻かれたらひとたまりもなさそうだったよ。私も最初対面した時はとても勝てるとは思えなかった。」
「ふーん………じゃあさ」
メアは真剣な顔になる。
「アタシとアンタが戦ったら、アンタは勝てると思う?」
「えっ……?」
突然のメアの質問にルチルは困惑した。メアは続ける。
「暁から装備も貰ったし、その性能を試すついで。倉庫の時に操られたアンタと戦ったけど。やろうと思えばあっさり倒せたし。そこまで強くないんでしょ。アタシが鍛えてあげる。ほら、あそこの公園。そこなら全力出せるでしょ。行くよ。」
メアはルチルの腕を掴み公園へと向かった。
「本当にやるの……?」
ルチルはまだ納得できていないのか戸惑っている。
「はぁ……アタシが本気じゃないとでも?」
そう言いながらメアは、脚につけた装備を具現化させ、腕から刃を伸ばしルチルに向ける。ルチルもようやく理解したのか、ガントレットを出し、腰を落として構える。
「……本気なんだね。」
「当たり前でしょ。」
言葉をかわし、刹那の間の静寂の後、両者同時に間合いに入り、互いの装備をぶつけ合った。
「っ……!!」
ルチルのガントレットに弾かれたメアは、ガントレットを踏み台にして宙を舞い、自分の首元の痂を剥がし、傷口から血液を飛ばした。ルチルはそれを躱し、再び構える。メアは地面に着地すると同時に地面を蹴り、ものすごい速度でルチルに接近した。
「これは……!」
予想外の装備の性能に、一瞬戸惑ったが、そのままルチルに向かって刃を伸ばす。ルチルは再びガントレットで攻撃を弾き、もう片方のガントレットでメアを押し返した。
「少しはやるようね。」
「キミこそ。今度はこっちから行くよ…!!」
ルチルは後頭部から管を伸ばし、ガントレットの後部にある穴に刺すと、自分のエネルギーを少しだけ注入した。管を抜き、拳を強く握ると、管を刺した後部から熱波が出始めた。
「はぁっ……!」
ルチルが拳を突き出すと、ガントレット後部から勢い良く空気が射出され、ルチルの身体は一瞬でメアに接近した。
「うおっ!!?」
このままではメアに怪我を負わせてしまうと考えたルチルは、咄嗟に握った拳を開き、張り手のようにしてメアを突き飛ばした。飛ばされたメアは受け身を取り、構えた後、ルチルを睨みつけた。
「……今、手加減したでしょ。」
「え……?」
「本気で来いって言ったよね。アタシを殺す気でかかってきなよ。特訓にならないでしょ?」
#6、おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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それでは、また来週。