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#5

夜が明けた。メアは支度を済ませ、暁を玄関で待っていた。すると、待たせた割には軽装の暁が玄関にやってきた。


「オマエ……待たせた割には何にも持って来てないみたいだけど、その格好で行くの?」


メアの問いに暁は少し気まずそうに答えた。


「待たせた上に悪ぃが先行っててくれねぇか?準備すんのにもうちっとかかるもんでよ」


「はぁ………早く来いよ。」


いつものように怒鳴るかと思いきやあっさり納得したメアは玄関の戸を開け、山奥にある倉庫へと向かっていった。


「さてと、取り敢えず向かわせたは良いんだが……間に合うかねぇ、こりゃ。」


メアを見送った暁は頭を掻きながら、自分の部屋に戻り、再び裁縫道具をいじり始めた。


〈数分後、山奥の廃倉庫にて〉


「はぁ………はぁ………ちょっと休憩………ったく、私だって…生まれたばっかなんだから………少しは労ったら……………はぁ……………」


急な坂を無理矢理登った反動で、メアは倉庫の手前でバテていた。坂道に座り込み休憩してる間、ふと街の方に目をやる。


「………私が生まれた場所、街、よくよく考えればちゃんと見る機会なかったな。手掛かり探すときも、探すことに夢中で視野を狭めてたし。アレを片付けたら、改めて街中歩き回ってみようかな。」


メアは休憩を終えると、再び倉庫へと向かった。


〈倉庫内〉


突然、倉庫内に轟音が響く、誰かが倉庫の扉を強く叩いているようだ。ルピナスは誰かが入ろうとしているのに気づくと、ルチルを置いて暗闇に姿をくらました。


バンッ!!


倉庫の扉からさっきより強い轟音が鳴ると共に、扉には大穴が空き、倉庫の中は外からの光で照らされた。

メアが中に入ると、目の前にはルチルが居た。


「アンタが犯人?………いや、その見た目、アンタがルチルね。暁がアンタ連れてこいって言ってたから、迎えに来てやったよ。」


メアが言葉を投げかけるが、ルチルは俯いて微動だにしない。


「ハァ………まぁ別に、私はアンタがどうなろうと知ったこっちゃないんだけどね。」


メアが動かないルチルに一方的に言葉をぶつけていると、ルチルはわずかに口を開いた。


「ボ…クノ…………ボクタ……チ……ノ…………シロ…ヲ………………コワ……………スナ。」


「はぁ……?もうちょっと大きい声で言ってくれないかなぁ!聞こえないんだけど!!」


メアが耳を傾けながらルチルに近付くと、ルチルは管を右腕に巻き付け、刃を形成した。


「殺る気って訳ね、上等よ、かかってきな!!」


メアがそう言うと、ルチルは常人とは思えないスピードでメアに斬り掛かった。メアは小指を握り、刃に変えて攻撃を防いだ。


「そんな安直な攻撃、食らうとでも思ってんの…………」


メアが攻撃を弾き、ルチルに一撃を入れようと構えた時には、ルチルの刃はメアの首の間近にあった。


「……!!」


メアは咄嗟の判断で左に一回転し、切断は免れたが、首元に深い切り傷が出来た。


「ぐッ……!!」


メアはその場で体制を崩し、首元を抑えた。蹲ったメアにトドメを刺そうと、ルチルが近付いてきた。


「嘘でしょ……?こんな早く終わるの……?」


メアはなんとか防御の体制を取ろうとするが、慣れない痛みに上手く体を動かせないで居た。

ふと、違和感に気づく、本来、大量に血が出て床に溢れるはずが、床に紅い液体は一滴も確認出来なかった。ふとメアが傷口に当てた手を顔の前に持ってくると、傷口から糸のように血が伸び、メアの手に付着していた。顔を上げると、ルチルが正にメアへ刃を振り下ろそうとしていた。メアはその場で大きく飛び上がり、刃を避けたのを確認した後、ルチルに向かって手に付いた粘性のある血液を飛ばした。するとルチルを操る何かが絡み付き、ルチルは動けなくなった。


「……ようやく分かった。」


メアは地面に着地した後、ルチルの頭上に向かって刃を切り払った。するとルチルはその場で倒れ込み、そのまま気絶した。


「ほんっと、この代償は起きた時にしっかり払ってもらうからね。」


そう言いながらルチルを横目に、メアは倉庫の奥へと向かった。


「そこに居るの、バレてるよ。」


メアが虚空に向かって言葉を放つと突如、倉庫の奥から束になった糸が飛んできた。メアがそれを躱すと、糸は風を切り地面に刺さった。


「私のダーリンをよくもやってくれたわね。」


メアが声のした方を見上げると、糸で出来たブランコに乗りながら、一人の少女が降りて来た。


「貴方も私のものにしてみようかと思ったけど、気が変わったわ。今この場で殺してあげる。」


「オマエ、話通じないタチだな?まぁそっちのがさっさと戦闘に移れて楽だから助かるけどね。」


互いに会話になるわけも無く一方的に言葉を発すると、メアはルピナスに向かって行った。ルピナスはメアを近付けさせないように、糸を伸ばした。双方の攻撃は相殺し合い、両者一歩も引かず攻防を続ける。ルピナスの糸は意外に硬く、柔軟な動きで少しずつメアを追い詰めていった。


「っ…!!このままじゃキリが無い。まだ慣れてないけどアレを使ってみるか……!」


メアは次々と迫りくる糸を切り落としながら首元の傷に手を当て、血液を指に絡めると、メアは粘り気の強い血液を束になって襲いかかる糸に向かって飛ばした。すると糸が血液に絡み、動きが鈍くなりその場で地面に落ちた。


「このまま……!!」


メアは糸を血液で絡め落としながら、ルピナスへ一直線に進み始めた。


「っ……!!」


ルピナスも近付いてくるメアから一定の距離を保ちながら、メアに負けじと糸を伸ばす。だが糸が掠れど怯みもしないメアに、気づけばルピナスは壁に追いやられていた。メアがルピナスを自分の間合いに入れようと、急接近したその時。


「なんでわかってくれないの!!!!」


ルピナスは攻撃を止め、叫びだした。メアは戸惑い、その場に立ち尽くした。


「誰も私に構ってくれない……私の周りの人はどうして私に見向きもしてくれないの……?」


ルピナスはつづける。


「私だって……やれば出来るのよ……?なんで………私は…………」


「私はただ居場所が欲しかったの!!」


「もういい……せっかく見つけたこの場所も………お前のせいで目茶苦茶……私の場所なんてこの世界にはどこにも無いの………。」


ルピナスは無造作に糸を伸ばすと、自身に向けて、勢いよく飛ばした。その時だった。

メアの後方から突如、青く輝く2つの結晶がルピナスの手に目掛けて飛んでいった。ルピナスが自身に糸を突き刺す直前、結晶はルピナスの両手に命中し、そのまま貫通した。糸はルピナスに当たること無く、その場で力を失いひらひらと地に落ちた。

メアが後ろを振り向くと、倉庫の入口に見慣れた人影があった。


「よぉ、ギリギリ間に合ったみてーだな。」


「ちょっ、アンタ!どこ行ってたのさ!!」


暁はルピナスに向かって歩きながら、メアに話し始めた。


「悪ぃ悪ぃ、って何回謝ってんだろうな、俺。っとそんな事は良いんだ。それより思わぬ収穫だ。まさか、犯人があんただったとはな。」


暁はメアの頭を軽く撫でると、ルピナスに向かって再び歩み始めた。


「っ……!お前………!?」


「久しぶりだな、お嬢。」


暁は結晶の力で動けなくなったルピナスの両足にも結晶を飛ばし、ルピナスの四肢を拘束した。


「俺はあいつとは違って、こうしないと治療出来ねぇもんでな、悪いがちょっと耐えててくれ。なぁに、すぐ終わるし痛みもあんま無いから安心しな。」


結晶からは光が伸び、やがてそれは花束の様になった。メアは眼の前の幻想的な光景に、ただぽかぁんとしていた。


「やめろ……!!私は………!!!」


ルピナスは身体を必死に動かし、目に涙を浮かべた。


「痛み無いつったが……コイツ使う以上どうしても一瞬痛みはあるのか………悪いな不器用で。俺は精神科医という職業柄、人に寄り添わねぇといかねぇんだが………はぁ……どうしてこんなになっちまったのかねぇ。その状態じゃ辛いよな。さっさと終わらせよう。」


「腹、括りなよ………!!!」


暁は懐から裁縫針を取り出し、ルピナスの額に向かって投げた。ルピナスの額に当たった針に結晶から光が伸び、結晶が光を失うと共に針が結晶から伸びた光を吸収し、気づけばルピナスはその場に倒れ意識を失っていた。


「長い間、気づいていたにも関わらず、助けてやれずすまなかった。今はただ眠っていてくれ。」


暁はルピナスの額に刺さった針を抜き、懐に入れると、意識の無いルピナスを抱え倉庫の出口へと向かった。

ずっとぽかぁんとしていたメアがふと我に返り、暁に問いかける。


「……何なのさあの力。理不尽にも程があるでしょ。」


「いや、そうでもねぇぜ。コイツぁお嬢みたいに、酷く追い込まれた人間を治療する為のものだ。知りてぇんだったら帰ってから話す。しかし……どうやらニゲラはここには居ねぇみてぇだ。とりあえず、ご苦労だったなメア、よく耐えてくれた。あぁそうだ、ルチルが起きたら、俺の家まで連れて行ってやってくれ。コイツも疲れてるだろうしな。」


出口へと向かう暁を、メアはその場で見送った。ふとルチルの方を見ると、目を開いたルチルが飛び起きた。


「私は一体……!?」


「はァ……」


メアはため息を付くと、ルチルに歩み寄り、手を差し伸べた。


「意識あるなら立てるでしょ、ほら。」


「あぁ……ありがとう……?君は……。………!」


ルチルがメアに問いかけようとした時、ふと暁の方を見ると、ルピナスを抱えた暁の隣には、壁に打ち付けられて意識が朦朧とした頃に見たあの少女の姿があった。


「あ、待っ……!!」


ルチルが呼び掛ける前に、少女はルピナスを暁から預かり、暁と共に姿を消した。メアがルチルが呼び掛けた方を向く頃には、外には誰もいなくなっていた。


「………オマエ……大丈夫か?」


「え?あ、あぁ………大丈夫………。」


メアはルチルと共に、倉庫を後にした。


            #5、おわり

#5,最後まで読んでいただきありがとうございます。


もし気に入って頂けたのであれば、是非ブックマーク、お気に入り登録等していただけると励みになります。


また、いつも通り次回も木曜の"0時"から公開となっておりますので、どうぞお楽しみに。

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