#4
暗闇の中、ルチルは目を覚ます。
「……!?ここは………?」
手足が何かに絡まって動けない。どうにか動けないか藻掻いていると、どこからともなく足音が近付いてきた。
「あら、起きたのね。」
遠くにある微かな隙間から漏れ出る光と、静寂の空間の中に響き渡る声から、ルチルの眼の前に一人の女性が立っていると認識出来る。女性はルチルに近付くと、姿勢を低くし、ルチルと顔を見合わせ、ルチルの頬に両手を当てた。
「アナタ綺麗な肌してるのね。目も輝いてる。倉庫の扉の隙間から入ってくる光の反射でよく分かる。」
「君は……誰……?」
ルチルが問うと、女性は少し驚いた表情を浮かべた後、ルチルの事を抱きしめた。
「……嬉しい……!私の事を知りたいのね……!私、ルピナスって言うの♪」
ルピナスはルチルを抱きしめていた手を、再び頬に当てた。
「真っ先に私の事を知ろうとしたのはアナタが初めてよ♪他の人達は『ここはどこだ!』とか『ここから出してくれ!』とかばっかり。私の事なんて気にも留めてなかったの。」
「私の事聞いてくれたお礼に聞いてあげる♪アナタはだぁれ?」
「ル……チル………です……?」
ルチルは動揺しながらも、ルピナスと目を合わせながら自分の名前を答えた。するとルピナスは満面の笑みを浮かべた。
「名前教えてくれた……!!他の人は私の言う事なんて何も聞いてくれなかったのに……!!」
「ねぇルチル、私のこと好き?」
唐突な質問にルチルは困惑した。
「いや……えっと……その………会ったばかり………ですよね……?」
ルチルがそう言うと、ルピナスの態度は豹変し、冷たい視線を向けた。
「私の事……嫌い……?」
「いや、別に嫌いって言うわけじゃ………」
ルチルがそう言うと、ルピナスは再び笑顔になった。
「嫌いじゃないってことは、好きってことよね?♪やった♪じゃあルチルは今から私のお婿さんね♡」
「ねぇねぇルチル」
「なんですか……?」
「私の言う事、聞いてくれる……?」
〈一方その頃〉
「全く、なんで私があんな奴の言うことなんか……」
メアは荒みきっていた。暁の言いなりになっている自分が気に食わないらしい。
「ルチルとか言う奴見つけて、犯人ボコボコにしたら、アイツの事も……」
そんな言葉を吐き捨てながら、メアは町中を探索していた。
日が暮れるまで町中を歩き回ったメアは、商店街の外れにあるベンチに腰掛けていた。
「はぁ……結局収穫無しか。」
メアはため息をつきながら、ふと辺りを見渡した。すると遠くの方で、路地裏に引きずり込まれる人影が目に入り、メアは全速力で駆け出した。
「クッソ!間に合え!!」
メアが路地裏に辿り着く頃には、人の気配1つも消えてなくなっていた。
「あーもう!!せっかく見つけたのに!!」
メアはその場で地面を強く踏みつけた後、片目を強く瞑りながらその場を後にした。
夜になり、街が静まり返る頃。
「結局、あれから手掛かりという手掛かりは一つも見つからなかった。あーもぉ、言葉にするだけで腹が立つ。まるでアイツらみたいに犯人からも見下されてる気分になる…」
華奢な体格に見合わぬ体制で、メアは階段に腰掛け休息を取っていた。
「ん?何やってんだ?こんなとこで。」
ふと声のした方を向くと、そこには暁が居た。
「アンタこそ何やってたのさ!私に任せっきりで!どうせ1日中部屋で惰眠を貪ってたんでしょ!!」
メアは体制を変え、暁を指差し怒鳴った。
「悪いな音沙汰無くて。だが安心しな、何もしてなかったわけじゃねぇぜ。」
「じゃあ何してたのさ。」
「犯人の居場所が分かった。」
突然の暁の言葉に、メアは戸惑っていた。
「はぁ!?」
「こっからも見えるんだが、あそこにある山の中腹、よく見たら廃墟がある。元々は何かの倉庫だったらしいんだが、今じゃ誰も使ってねぇ。たまたま町中で人が連れ去られるのを見てな、追ってみたらあそこに吸い込まれてるのを見た。」
「はぁ………アンタのが一枚上手だったね。認める、アタシの負け。」
不貞腐れながらメアが答える。
「何を争ってたんだ……?まぁ良い、あそこには明日突入する。あんたも今日は疲れたろ、ゆっくり休みな。」
「はぁ?なんで明日なのさ!別に私は今からでも……」
メアが文句をいい切る前に、メアのお腹が鳴った。
「まさか今日何も食わず歩き回ってたのか?仕方ねぇ、家に来な。ちょうど俺も飯にしようと思ってたんだ、ご馳走してやるよ。」
メアは気まずそうに暁に連れられ、館へと戻った。
〈再び倉庫跡地〉
「ねぇねぇルチル、私の事好きぃ?」
「…………好キ…………でス…………」
#4、おわり
#4,最後まで読んでいただきありがとうございます。
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また次回も木曜"0時"に公開となります。、お楽しみに。