#3
ルチルは、暁に案内され、暁の家のある部屋に招かれた。そこは埃を被った古本が並べてある本棚や、骨董品の数々が規則正しく置かれ、その部屋の角には、そこだけきちんと掃除されている、作業用の机が置かれていた。窓はカーテンがかかっており、外からの光はほとんど届かない。
暁は作業机にある灯りをつけて、椅子に腰掛けた。
「立ち話もなんだ、あんたもそこに座りな」
ルチルは灯りで少しだけ見えるイスに座った。
「さてと、じゃあ本題に入るとするか」
暁は顔色を変え、少し真剣な表情になった。
「話……というのは?」
「アンタの主、まぁ、カイヤだな。アイツには夫が居たんだ。そりゃあアンタの元になったカイヤの息子が居るんだから当然のことなんだが。名を胡蝶ニゲラという。俺も面識があってな。不思議な事に、カイヤと別れてから一切姿を見ないどころか、そいつを見たなんて話も何一つ聞かない。そんで、アンタに探すのを手伝って欲しいって訳だ。」
「は、はぁ……でも、どうしてですか?」
「この街の遙か東、本能の街なんて呼ばれてるとこがあってな。ニゲラのやつはそこの出身なんだ。まぁ…なんというか……その街の人間全員がそうじゃないのは分かってるんだがな、その街の人間は、素行が悪く、人殺しが当たり前なんて噂が流れてるんだ。カイヤと一緒に居る所見てる内は特にそんな所は無かったし、何も危害を加えられたような跡は見られなかったからな。」
「えっと……では何故……?」
「……最近、この街で人が立て続けにいなくなる事件が発生しててな。別に確証があるってわけじゃねぇが、もしニゲラが居たらニゲラをここに連れてきて欲しいってわけだ。」
「は、はぁ……」
「おっとそうだ、忘れる所だった。依頼する訳だから、無論報酬がねぇとなぁ。俺の知り合いに鉄鋼業を生業としてるやつが居てな。あんたの役に立つある物を作ってもらってる。安心しろ、役立つかは俺が保証してやる。まぁそう言うわけだから、頼んだぜ」
「えっと……分かり…ました……?」
話がとんでもないスピードで進んでいくのになんとか着いて行き、ルチルは圧されつつも、ひとまず依頼を受ける事にした。
「後1つ、この家はあんたの家でもあるから好きに使ってくれて構わねぇからな。あと俺にも敬語じゃなくてもいいぜ。血の繋がった家族みたいなモンなんだからな。長話に付き合ってくれてありがとよ。もう好きにしていいぞ」
ルチルは暁に礼をした後、部屋を出て舘を後にした。
日が水面に触れる頃、ルチルはこの街から姿を消した。
〈数日前、生物研究所〉
カイヤの研究室に霧が立ち込める。カイヤが研究室の戸を開けると、霧が晴れると同時に、1人の小柄な人型の生物が姿を見せた。カイヤが研究室に足を踏み入れると、その人型はカイヤを獲物を睨みつける獣の如くまじまじと見つめ、近寄り難い気配を漂わせている。
「そこまで警戒しなくていいじゃないか。私が何かしたかい……?」
カイヤは恐れること無く肩の力を抜いて近づく。人型は少し後退り、臨戦態勢を取りながらカイヤとの一定の距離を保つ。
「はぁ……しょうがないねぇ………」
カイヤは腕に抱えたその人型用の衣服を机に置くと、部屋を後にしようとした。すると、人型は小指をブレード状の刃に変形させ、カイヤに飛び掛かった………が、カイヤが手に持っているプレートで頭を軽く小突くと、人型は大人しくなって眠ってしまった。
「全く、とんだやんちゃな子が生まれてきちまったねぇ。先が思いやられるよ……」
カイヤは衣服と気絶した人型を抱え、研究室を後にした。
〈数日後……〉
「……起きたかい?」
病棟の一室で人型が目を覚ました。数日の間気絶していたにも関わらず、人型は無理矢理体を起こしカイヤに飛びかか………るまでもなく、起こした体は再び仰向けになった。
「はぁ………だから私が何したってのさ」
「………」
人型は何か言葉を発するかと思いきや、そっぽを向いて黙り込んでしまった。
「そうだねぇ………名前、メアで良いかい?」
「………?」
カイヤがメアと呼んだその人型の体は、少しだけカイヤの方に向いた。
「服は着せといたし、もう動けるだろ?後は好きにしなよ。あ、そうだ。ボサボサの髪が腰くらいまで伸びた……あんたより5cm位身長が高い……ルチルってんだが、もし会ったら仲良くするんだよ。あたしの息子だし、あんたにはあたしより優しくしてくれるだろうさ。」
そう言ってカイヤは研究室に戻って行った。
「メ………ア……?」
何度か自分の名前を繰り返した後、メアは病棟を後にした。
外に出ると、メアは深く呼吸し、辺りを見渡しながら研究所の門へと向かった。門を出ると、少し深刻そうな顔をした男が柵に寄り掛かり考え事をして居た。
「オマエ…………誰?」
メアが声を掛けると、男は少し焦ったような顔つきで答えた。
「あんた……!まさかあのバケモンか……!?」
「初対面で失礼だな!!あたしはメアってんだ!!ってか誰って聞いたんだからさっさと答えな!!」
男は少し深呼吸をした後、いつも通りのヘラヘラした顔で答えた。
「俺は暁、加賀知暁だ。驚いたぜぇ、まさかカイヤのやつあんなバケモンからこんなの造ってやがったとはな。あぁそうだ、せっかくだからあんたにも協力してもらおうかな。」
「こんなのってなんだこんなのってぇ!!どいつもこいつも私をコケにしやがって!!あまり舐めるなよ私の事を!!!!」
「わりぃわりぃ言い方が良くなかったな。謝るよ。」
幼子を宥めるかのように暁はメアを落ち着かせる。
「はあ………んで、協力って何の事さ。」
「アンタ、多分カイヤから聞いてるよな、ルチルの事。」
メアは少し不思議そうに答える。
「ルチル?誰だそりゃ。私は………」
ふとカイヤに言われたことを思い出す。
「……そのルチルっての、ボサボサ髪の腰まで伸びた………って人?」
暁は真剣な顔になり話し始めた。
「あぁ、知ってんなら話が早え。そいつが行方不明になってな。」
「なんで?ルチルはお前の息子?弟?何なのさ」
「悪い悪い、まずはそっからだったな……」
暁はメアにルチルに依頼していた事やカイヤ、ルチルとの関係を一通り話した。
「なるほど?……んで、私にルチル探すのと犯人捕まえるの手伝えってか。」
「そういうわけだ。無論タダとは言わねぇよ。アンタにも報酬は出してやる。」
「報酬……?具体的に何さ。」
「武器だ。」
「武器ぃ?」
「あぁ、俺の知り合いに鉄鋼業やってる奴が居てな。そいつに作ってもらう。どうだ?悪くねぇだろ。」
メアは一応納得したようで、暁を手伝うことにした。
「まぁそう言うわけだから、頼んだぜ。」
暁はそう言うと、館へと帰って行った。
「って全部丸投げかい!!………はぁ、なんでが多すぎるよ……先が思いやられるなぁ………」
暁は館に戻ると、自室で裁縫道具を取り出し、何かを作り始めた。
「まぁ、アイツなら連れ去られる心配もねぇだろ。それに教えりゃちゃんと学べるヤツだ。今後に期待ってところだな。」
ルチル救出に向けて、2人は動き始める。
#3、おわり。
最後までよんでいただきあざーしゃーしゃー。きにいてくれちゃーぶくまーとおきにーとーくよーしくおなしゃーっす。(雑になるな)
コホン。というわけで、毎週木曜"0時"から!!このお話の続きを公開予定ですので皆様どうぞ応援よろしくお願い致します!
では!また次回をお楽しみに!