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2章#6『邪魔者、異物、罪人』

ルチル達が応戦する一方、アカシアはルチルに言われた通りに身を潜めていた。

すると、遠くから足音が近づいてくるのを感じた。それはどんどんこちらへ近づいて来る。同時にアカシアの心拍も速くなり、その目には涙を浮かべていた。そして、足音はアカシアに潜む茂みの前で止まった。


「アカシア…ちゃん」


その声には、聞き覚えがあったが、まだ茂みから出る気にはなれなかった。


「……ルチル達が今、戦ってる。私は、君を守るように言われていたの。だから……その………出てきて…くれる?」


アカシアは茂みから顔を出し、ライラをまじまじと見つめる。少しした後、茂みから出て、ライラに抱きつくのだった。ライラは屈み、アカシアを優しく腕で包んだ後、木陰に移動した。


「何があったか…話せる?無理にとは言わないけど……」


アカシアは涙が収まるのを待った後、口を開く。


「私……お姉ちゃん達と……おへやで……お話してたの。」



数時間前……



「………」


学舎の一室に集う彼らは、どうしても気分が晴れなかった。スズメは何か気の利いた話でも出来たらと思ったが、何も浮かばなかった。


「雀さん、2人はどこに?それに、唐草も居ないようですが……」


『彼らなら、今ルチル君が2人を迎えにーーー』


見知らぬ人が、そこに居た。生徒たちはまだ気付いていない。何者だ。


スズメは刹那の間、子供達を抱えて教室の外へ飛び出そうとしたが、少し遅かった。後ろの席に居た長男の水仙、四女の枝垂(シダレ)が、その人物から伸びた何かに、断末魔を上げる間もなく飲み込まれてしまった。


スズメは辛うじて抱えられた2人を連れ学舎から跳び出した。


「雀さん……!」


『走って!』


3人は学舎の門へ走った。だが、アオイが意思に躓き転んでしまい、スズメは足を止めた。


『アカシア!街の方まで走れ!!』


アカシアもスズメにつられ足を止めようとしたが、スズメの大きな声が後ろから耳に入ると、そのまま門の外へ走り去って行った。

スズメはアオイを抱えようとしたが、アオイはスズメの目の前で、暗闇に飲まれて行った。


アカシアは目の前が涙で見えず、それでも光に向かって真っ直ぐ走る。息が切れそうになる中で、楽しかった思い出の数々が、アカシアの心を蝕んで行った。



〈立ち入り禁止区域〉



(クッソ……キリが無い……)


『逃げてばっかりで大丈夫ぅ……?ほぉら、怖くないよぉ?触れれば一瞬だからぁ……!フフフッ!!!!』


魔女の触手の間合いには限界があるようで、中々こちらへ近付くことがなくなった。だが、このままでは永遠に決着が付かない。


(仕方無い……少々みっともない姿を晒すが、)


スズメは触手をありったけ伸ばすと、袖を破り広げた。


(ルチル君、物量で攻める。ルチル君は隙を伺ってありったけをぶつけてくれ。行けるかい?)


(分かりました)


ルチルはガントレットで上空へと昇ると、ある高さで留まり、狙いを定める。スズメは触手を広げ、四方八方から魔女へ伸ばす。


『知性の欠片もない戦い方ねぇ………ワタシでもそんなやり方しないわぁ……?』


魔女はスズメの伸ばす触手を次々溶かしていく。しかし、その圧倒的物量に、少し違和感を覚えた。


『………へぇ…………貴方、只者じゃないわねぇ………それに変ねぇ........触手を伸ばす音が聞こえないわぁ......?もしかして………………』


(今だ……!)


ルチルは魔女の意識が完全にスズメに向いた瞬間を、見逃さなかった。

ルチルは空から真っ逆様にガントレットを振り下ろし、魔女に再び一撃を食らわせることに成功した。そして不意打ちを避ける為、咄嗟に再び上昇すると、スズメの近くに着地した。


『よくやったルチル……君!?』


「ぐっ………!」


ルチルは着地すると同時に、左半身に違和感を覚える。気が付けばルチルは、その場で膝を着いていた。


『フ………フフフ………フフフフ!貴方、はっきり言うわ。馬鹿ね。気付いていたはずよぉ?どうして近づいたのかしらぁ……。まぁ良いわぁ、これで楽にコレクションが増やせる』


「すみま…せん、スズメさん……」


『無理に喋らなくて良い。そこで自分の身を護ることに集中しててくれ。』


スズメはルチルを背に、魔女を睨む。


『出来れば、これは使いたくなかった。』


スズメは麦藁帽子を取り、放った。スズメの素顔を見た魔女の顔は、少しずつニヤけていった。


『通りであの物量を余裕で出せた訳ねぇ………改めて挨拶しないとだわぁ………初めましてぇ……大災害の元凶でありその元凶の魔女の生みの親、まつりごとの神子さん。』


(今………なんて………?魔女の………生みの親………?)


『ようやく自身の犯した事を自覚し、この命尽きるまでは決してこの力を使うまいと、人として、平穏に暮らしている最中だったんだ、邪魔しないで欲しかったんだが。』


『ふぅーん………嫌だって言ったら?』


魔女が言い終える頃には、スズメは額に刺さった妖刀を引き抜いていた。スズメは妖刀を勢い良く横に振ると、その形状は薙刀のような形状に変化した。


『だったら……ここでくたばって死ね!!!!』


スズメは薙刀を振り回し、その視線を真っ直ぐ魔女へ向ける。その眼差しは、縄張りに侵入した獲物を狩る、獣の様だった。


『その姿……そう、そうだったのねぇ……!』


魔女は雀の攻撃を躱しながら続ける。


『数年前……ここいらで噂になってたわぁ……鬼が出るってぇ………最終的に、ゴロツキだがなんだかの集まりが動き出してぇ……私みたいな魔女を1人も残らず殺しちゃったのぉ……!』


スズメは歯を食いしばりながら、ただ獲物に真っ直ぐ刃を伸ばす。魔女の触手は、雀の薙刀に触れると、跡形もなく砕けて行った。


(あらぁ……?もしかしてぇ……ピンチってやつかしらぁ……?)


スズメの眼には魔女しか写らない。その歩みは止まることを知らず、ただ一方的に魔女を追い詰めて行った。


一方、ライラはアカシアを腕で優しく包み込み、木陰に隠れていた。ふと、遠くから何かが凄い勢いで近付居てくる音がした。ライラがその音の正体を知る為木陰から顔を出すと、それはすぐそこにまで迫っていた。ライラは咄嗟にアカシアを背にそれに向かって一撃を与えようとしたが、気付いた頃には、ライラは木の幹に叩き付けられていた。


「なっ………!」


(何が起きたの……?アカシアは……アカシアは無事なの……?駄目………今ので……意識が………)


暴走するスズメは魔女がした事を理解できなかったが、気付けばスズメはその場に膝をつき、天を仰いでいた。


『フ……フフフ………ハハハハ……………そう、所詮は人の心を宿した怪物。何かに情が湧けば、こうなる事は容易に想像がつく。』


魔女はスズメへゆっくりと歩み寄ると、スズメの身体を触手で飲み込んだ。


『やっぱり無機物を入れると違和感があるわねぇ………まぁいいわぁ………』


『折角だからぁ………あの子も回収しておこうかしらぁ………』


魔女はそう言うと、足元の暗闇の中へ姿を消した。



〈立ち入り禁止区域〉



(雀さんの所へ向かわないと………私は………こんな所で………)


ルチルの身体は触手に触れられた箇所から少しずつ溶け始めており、五感も少しずつ鈍り始めていた。

ルチルはゆっくりと、雀の向かった方へ歩みを進める。すると突如、目の前に雀が倒れているのが見えた。


(なっ……!?そんな……雀さん……)


ルチルの聴覚では聞き取れなかったが、スズメは何かを呟いた後、そのまま動かなくなった。

ルチルがスズメへ歩み寄ろうとしたその時、ルチルの腹部に激痛が走る。


「っぐ………!!」


ルチルはその場で膝をついた。エネルギーを補充しようにも、溶けた髪が詰まり上手く動かせない。


『あらぁ……♪少しやりすぎちゃったかしらぁ……?』


ルチルの背後から、魔女が姿を見せる。


『でも驚いたわぁ……?そこそこ時間が立ってるはずなのにあまり聞いてないみたいねぇ……』


魔女はルチルの顔をまじまじと見つめる。


『そう……その顔よぉ……♪あの子達が私を前にした時も同じような顔をしてたわぁ……♪折角だからぁ……貴方の間合いの外で貴方が跡形もなく溶けるまで眺めててあげるわぁ……♪』



体が痺れてきた。


ガントレットを使おうにも、上手く機能しない。脳が麻痺してきている。


痛覚が鈍ってきた。どうやら私はもう駄目らしい。


ライラ……雀さん………そして、主…………暁さん…………


すみません………私はもう、ここで亡骸も残らないまま倒れるしか無いみたいです………。


…………メア………


護ってあげられなくて………ごめん。


              続く。

今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。


私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。


一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。


もし、この作品が気に入っていただけたのであれば、ブックマーク、お気に入り登録等、宜しくお願い致します。


また、感想やレビュー等も大変励みになる上大歓迎ですので、宜しければ書き込んで頂けると幸いです。


それでは、また来週。

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