2章#4
町中を歩き回り、ルチルは浜辺に辿り着く。そこには海を眺める、雀の姿があった。
『心配かけてすまなかったね。』
雀は振り返らずそう言うと、ルチルを隣に来るように指差した。
『ここから見える月、凄く大きく見えるだろう?結界が張られる前は、そんな事なかったんだが……。』
ルチルが隣に立つと、スズメは麦藁帽子を取った。ルチルは彼の素顔よりも先に、彼の額から伸びる……と言うより、刺さっているものが目に留まった。
(それは、妖刀。)
(もしかしたら、結界を抜けた先、他の区画でも、見る機会があるかもしれませんね。)
ふと、ヤグルマの言葉を思い出す。アザミに見せてもらったものと、瓜二つのものが、彼の額にあった。
『改めて、自己紹介をしたほうが良いだろうね。私は、まつりごとの神子。皆からは、タツナミスズメと、そう呼ばれている。そして、君が結界を抜けてここへやって来た理由も、大体予想がついている。君が探しているものは、今君の隣に立っているよ。』
ルチルは目の前の光景に暫く呆気にとられていた。
『結局、睡蓮は見つからなかったよ……。残念だけど、何処かで生きている事を願うしか無いみたいだ。本当にすまない………。』
「…………」
ルチルは何か言葉をかけようとしたが、何も出て来なかった。だが、大切な人を失った2人は、気が付けば共に海に手を合わせていた。
『とりあえず、君の用事を済ませるとしようか。今なら、互いに時間があるだろう。』
ルチルは少し悩んだ後、口を開く。
「私は、元居た街で、神子と街の主の方に言われ、結界の向こうの様子を見て来るように言われているのです。そして、もしかしたら、大災害が再び起きるかもしれないと、そうなり得るモノに出逢いました。」
『………魔女が、出たんだね……。』
「……はい。」
『出来る事なら、協力したかった……。』
「え………?」
スズメは手袋を取り、その手をルチルに見せた。
「!?」
『大丈夫、制御出来てるから。』
その手は正に、魔女の触手そのものだった。
『この妖刀は、複数あるんだね。私も初めて知ったよ。そして、先程の言葉には、もう一つ理由があるんだ。』
『私が……大災害の元凶なんだよ……………。』
「え…………?」
ルチルはスズメから明かされる事実の数々に、少し混乱していた。
『一気に話し過ぎてしまったかな……。これ以上話すと、凄く長くなるんだ。これくらいにしておこう。私がまつりごとの神子であるという身分を隠しながら、孤児になった子供達を預かっているのは、この身一つでは償い切れない罪を、少しでも償う為なんだ。』
「………私は、少し前に、大切な人を失いました。」
ルチルはスズメに応えるように、口を開く。
「会ったばかりの頃は、対立したりすることもありました。でも、私は彼が好きでした。彼の表情、嗜好、そして、彼と一緒に居るのが、凄く楽しかったんです。ですが…そんな彼は、私の目の前で……。守れたかもしれない命が、私の前で跡形もなく消えてなくなりました。私は今、悩んでいるんです。これから先、出会う人々全て、私の目の前で消えてしまうとして、いつか最初から出会わなければよかったと、そう思ってしまうのが怖くて。」
『………』
スズメはルチルの口から出た言葉を受け止める中で、1つの結論に辿り着く。彼は魔女に、愛する人を殺されたのだと。
『……もしも、』
『もしも君が、前に進もうとして、それが出来ぬ程苦しんでいるのだとしたら、ここに君の心身を傷つける者は居ない。居たのなら私がそれから君を護ってあげよう。ただし……とても辛いが、この世界で生きている以上、沢山の別れがやって来る事は避けられないろう。でも、少しでも、その人との幸せな記憶があるのであれば、それは必ず君の力になる。だから、』
スズメはルチルに手を差し伸べる。
『困った事があったら、いつでも私に助けを求めてくれて構わない。こんな私でいいのなら、私も君の力になろう。』
「…ありがとうございます。」
ルチルはスズメの手を取る。
『さぁ、遅くなってしまった。そろそろ戻ろう。』
2人は月灯りの照らす浜辺を後にした。
〈学舎〉
2人が戻ると、皆はすっかり横一列に並んで眠りに就いていた。
『アハハ……ライラ君は見張っててくれたんだね。』
「ただいま。ありがとう、ライラ。」
『さぁ、君も。』
「ありがとうございます。おやすみなさい。雀さん。」
『おやすみ、ルチル君。』
ルチルはそう言うと、ライラの隣に布団を敷き、その中に入って眠りに就いた。
翌朝……
ルチルが起きると、既に朝食の支度が終わっており、ライラがルチルを呼びに来ていた。ルチルは顔を洗いうがいをした後、子供達と食卓を囲った。食事を終え、食器を片付けると、皆は教室に入り席に着く。席は1つだけ空いており、彼が戻ってくることは無かった。
『皆ちゃんと居るね。その………1人居ないけど………。今日の授業は中止にしようと思う。それと、外に出る時は、私か2人のどちらかと一緒に出る事。いいかい?』
「「はーい」」
『うん。いい返事だ。じゃあ後は自由だから、好きな事をして過ごそう。』
ルチルとライラは、教室の脇でそれを眺めていた。すると、一人の少年がライラの下へ向かってきた。
「こんにちは!」
「こんにちは、君は?」
「僕、唐草!お姉さん!また鬼ごっこしよ!」
「いいよ〜!じゃあ外行こっか!」
「うん!」
「って訳だから、ルチル、後はお願いね」
「行ってらっしゃい、ライラ。」
ルチルは少年にも声を掛けようとしたが、そうする前に少年は走り去って行った。
「あの……ルチルさん……でしたっけ?」
ライラ達を見送った直後、2人の少女がルチルの下へやって来た。
「はい、加賀知ルチルです。」
「ルチルさん、裁縫とか興味ありますか?」
「裁縫……はい!実はこの服も、親が編んでくれたものでして」
「そうなんですね…!良かったら一緒にやりませんか?」
「良いですよ、」
「良かった…!では、こちらに、この学舎、裁縫するための部屋があるんです!」
ルチルは2人に連れられ、裁縫部屋へ向かった。スズメはそれを眺め、優しい笑みを浮かべていた。
『皆行ってしまったね。君達も混ざらなくて良かったかい?』
「…………俺はいい。」
「何よカッコつけちゃって……そんな事言ってたらいつまで経っても友達出来ないわよ!」
「……………」
『まぁまぁ、ほら、私達も陽の光を浴びに行こうか。』
そう言うと3人は、縁側へ向かった。
〈学舎、裁縫室〉
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアオイ、この子はアカシアと言います。貴方の名前も、よかったら改めて聞いてもいいですか?」
「私は加賀知ルチルと言います。私と一緒に居た子は、柊ライラと言います。呼び方は自由に呼んでもらって大丈夫ですよ。」
「ここいらでは珍しい名前ですね、一体どこから来たのでしょうか……?」
「アハハ………」
(……もしかして、苗字がないのかな……?でも雀さんはあったような……?)
そんな会話を交わしながら、3人は裁縫針を持つ手を動かす。
〈数分後………〉
「…………あ、あの………」
「ん……?」
ルチルが黙々と裁縫に没頭していると、アカシアが声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「よかったら………これ…………」
アカシアの差し出した手をルチルが受け止めると、アカシアが離した後のルチルの手には、綺麗な赤いリボンが付いた髪留めがあった。
「…!これ、君が?」
「うん………その………あげる……………」
「ありがとう!大切にするね!」
「………!」
ルチルに感謝の言葉を述べられて、アカシアの表情が少し柔らかくなったように見えた。アオイはそれを、端から微笑ましく見守るのだった。
〈学舎、縁側〉
縁側では3人が、座布団を敷き、庭に建てられた鹿威しを眺めていた。
「全く………どうしてよりによってアンタと一緒なのよ。」
「………緑茶も飲めない奴に、言われたくない。」
「なんですって……!!」
『こらこら、2人とも落ち着いて。』
「…私は落ち着いている。」
「ぐぬぬ………ふん!」
『そうだな………よし、1つ問題を出そう。』
「えー?また授業?」
『アハハッ、大丈夫だよ、そこまで難しいものじゃないから。』
むかーしむかし、いや、そこまでむかしじゃない、ある所に、農家の少年が居ました。ある日、少年の両親が、いつもとは違う特別な料理を作ってくれました。両親は言います。『これは、此処から遥か東にある、大きな街の料理だよ』
少年は、その料理を一口食べるなり、頬がとろけ、目を輝かせました。こんな素敵なものがあるなら、いつかその街に行ってみたい。きっとその街は、すごく素敵な所なんだろう。少年の平穏な暮らしは、そこから劇的な変化を遂げます。少年は頑張って働いて、ようやく街へ引っ越す為のお金を手に入れました。ようやく夢が叶うんだ!と少年は嬉々として馬車に飛び乗り、街へと向かいました。
続く。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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