2章#3
『君は、秩序の神子に言われてきたのかい?』
「はい」
『……秩序の神子の、名前はわかるかい?』
「皆からはヤグルマと呼ばれています」
雀はその名前を聞いた途端、少し動揺したように見えた。
「どうかしましたか?」
『……いや、なんでもない。そうか………彼女が………』
『ルチル君、少し、昔話をしようか。』
雀はそう言うと、木の幹に背を預け、ルチルを隣に座らせた。
『これは、大災害の話だ。今から数年前、この島は黒い波に襲われ、壊滅的な被害を負った。神子は皆、島を守る為に黒い波に立ち向かった。1人を除いて。その1人は、秩序の神子なんだ。少なくとも、君が秩序の神子の護る区画からやって来たという事は、その波は跡形も無く消えてしまったんだろう。そして、文明は再生し、こうして君がここへやってきた。安心して、君達に危害を加えるようなことはしない。もう全て、終わったことなのだから。ほら、暖かい日差しの照る下で、子供達はこんなに元気に育ってる。それだけで私は、幸せなんだよ。君達さえ良ければ、いつでもここに遊びにおいで、私と元気な子供達が、君達を歓迎しよう。』
「あの……雀さん」
『どうかしたかい?』
「大災害は………数年前の出来事なのですか………?」
『あぁ……そうだが………そうか、一度滅びた後に再生した文明という事は、君達は神子から生まれたということだね。』
「え……?」
『これは私の推測だが、大災害によって滅びた後、秩序の神子の区画に住む君達は、秩序の神子が産みだしたんじゃないかとね。黒い波が発生したのは君達が住む区画。そこから島の1/4が消滅した。悲しいけど、君達の住む区画に元々居た人が生き残ってるとは考えにくいんだ。』
「なるほど……つまり、数百年前と言われていたのは間違いだったのか………。」
『……ぷっ………ハハハハッ!』
雀は突然、腹を抱えて笑い出す。
「ぇ……?」
『いや……まさかそこまで変わってるとは思って無くてさ……ハハハ!』
『はぁ……長話が過ぎたね。そろそろ学舎に戻ろうと思ってる。良かったら君達も来ると良い。おーい!皆!そろそろ戻るよ!』
雀は声を張って子供達を呼ぶ。ライラは子供達を連れ、2人の元へ戻って来た。
『ふむ、皆揃ってるね。それじゃ、私に着いて来て。』
皆は雀に連れられ、学舎へと向かう。
「ねぇねぇルチル、何話してたの?」
「大した話じゃないよ。ただの雑談」
「ルチルって、誰とでも仲良くなるよね!すごい!」
「アハハ……」
ルチルはライラの勢いに、やや圧され気味になっていた。
「ライラも子供達と楽しそうにしてたね。」
「うん!すごく楽しかったよ!でも今度はルチルとも遊びたいな!」
「今度ね……」
「お姉ちゃん達、付き合ってるの?」
子どもたちのうちの1人が、こちらへ話しかけてきた。
「アハハッ!私達は友達だよ!と言っても今日が初対面だけど」
「ふーん、変なの」
『そうでもないよ、会ってすぐに意気投合することもある。』
「そういえば立浪兄さん、あの人とずっとお喋りしてたね」
『うん、』
そんな話をしている内に、学舎へと辿り着く。
『皆、靴を脱いで、手を洗っておいで。』
「「はーい!」」
子供達は一目散に学舎の中へと戻っていく。
『君達、良かったら授業を観て行かないかい?』
「いいの!?見る見る!!」
『君はどうする?』
「はい、私も………」
「立浪兄さん!!!!」
3人が学舎へ入ろうとした時、突然中から1人の少年が飛び出てきた。
『何かあったのかい?』
「睡蓮が何処にも居ないんだ!!」
『なっ…!?それは大変だ、皆で探そう。君達も手伝ってくれるかい?』
2人は頷き、子供達も一緒に居なくなった少年を探す。学舎の隅々まで捜索し、先程まで居た広場にも戻ってみたが、何処にもそれらしい姿は無かった。
『困った事になってしまった……そうだな………よし、ライラ君と言ったかい?学舎に戻って子供達を見ててはくれないかい?ルチル君、君は私と一緒に睡蓮を探して欲しい。』
「うん、分かった。ルチル、気を付けてね。」
「分かりました」
ライラは子供達を連れ、学舎の中へ戻る。2人も少し辺りを探した後、再び来た道を戻るのだった。
〈立ち入り禁止区域〉
『すまないね……彼は普段、勝手にどっか行ってしまうような子じゃ無いはずなんだが……』
雀の顔は、大きな麦藁帽子で見えなかったが、それでもルチルは雀の感情を、声からある程度読み取ることが出来た。
「その…先程睡蓮……さん?と呼ばれていた子は、どんな子なんですか?」
『身体的特徴から言うのであれば、あの子は透き通った空色の髪をしていて、着物もそれに似た色のものを着ているね。それと…その子、男の子なんだけど、よく女の子に間違えられるんだ。あとは……あの子は、他の子たちと比べると比較的大人しくて、他の皆と一番親しくしていた子だよ。ただ……今回みたいに、ふとした瞬間、何処かに消えていなくなってしまいそうな儚さがあった。そんな素振りはなかったんだが……どうして………』
「生徒さん達の事、よく見ているんですね」
『実はあの子達、皆孤児なんだ……。それも、大災害で親を失ったね………。それを私が拾って、育ててるんだよ。』
「そうだったんですね……。では、尚更見つけ出さないとですね。」
『あぁ……。協力してくれて、感謝するよ。』
「お礼は見つけ出してからにしてください。私は少し、視野を広げてみます。」
『え……?』
ルチルはそう言うと、ガントレットを装備した。
『それ……もしかして、神子石かい!?』
「ぁ……はい。」
ルチルはガントレットに管を伸ばし、エネルギーを注入する。
「これで空から探してみます。」
『そうか……!ただあまり高いところまで行かないでくれよ、街の人達に見られたら軽い騒ぎになるだろうから。』
「はい。気を付けます。」
ルチルはガントレットを構えると、真っ直ぐ上へと上昇した。
『結界の向こうは………一体どんな世界が広がっているんだ……?』
雀は廃屋となった建物の中や、空からでは死角になる場所を徹底的に探すことにした。
そこから、日が沈む程の時間が経った。
「雀さん達、遅いわね……」
「お姉ちゃん……怖い……」
「大丈夫よ、私がついているからね。」
学舎では、畳の敷き詰められた部屋で、子供達とライラが、身を寄せ合って互いを見張っていた。
「2人は姉妹なの?」
ライラが口を開き、身を寄せ合う2人に問う。
「あぁ…これには複雑な事情がありまして…。私達、皆孤児なんです。それを雀さんに拾って頂いて、今まで生き延びることが出来たんです。」
「ふーん……雀さんってもしかしてすごい人!?」
「アハハ……凄いかは分かりませんが、少なくとも私達にとっては、自慢の先生であり、自慢の親です。」
「あっ!雀さん達帰ってきたよ!」
皆は一斉に外に出る。ライラ達の目に映る2人は、睡蓮を連れておらず、その表情が全てを物語っていた。
『ごめん……皆……。』
皆の表情が暗くなる。
「きっと大丈夫だよ!多分、街の方で誰かに拾って貰えてる…と………思う………」
少しの間沈黙の時間が流れる。
『…まぁ、そろそろ夕飯の時間だから、きっと帰ってくると思う。さぁ、支度をしようか。』
雀は皆を中に入れ、皆と夕飯の支度をすると、料理を注ぎ分けた食器を並べ、蝋燭の明かりを囲った。だが、睡蓮が戻ることは無かった。雀は皆が食事を摂る中、1人外で引き続き捜索を続ける事にした。皆が暗い顔で料理を口に運ぶ中、先程の女性が口を開く。
「雀さん、実は人間じゃないんです。」
「え?」
ライラが食事の手を止める。ルチルも手を止めたが、驚きはしなかった。
「機械人形、と言ったらいいでしょうか。確かに、感情の起伏やその意思は人と同じと言っても差し支えないのですが、彼があの大きな麦藁帽子を取ろうとしないのは、そういった理由なんです。」
「それ、本人が秘密にしてることじゃないの?言っちゃって大丈夫なの?」
「そちらの方は、様子を見るに、もう気づいていたのでしょう。」
「そうなの?ルチル」
「……はい、広場の木陰で話していた時、彼に目を合わせてもらいました。確かにそれは、私達人間とはかけ離れたものでした。それに、昼からずっと食事を取らずにあんなに動き回れたのも少し違和感がありましたから。」
そんな話をしながら、皆は食事を終えると、食器を片付け、子供達はライラに見守られながら眠りにつくのであった。
「ルチルは寝なくて大丈夫?」
「私は大丈夫」
「雀さんの手伝いに行くんだよね。気を付けて。」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる。」
ルチルは戸を閉め、雀の下へ向かった。
続く
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