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#19

よく、同じ夢を見る。

私は見たことも、行ったこともない。でも、私はその場所を知っている気がする。そんな場所で、いつも同じ夢を見る。


気が付くと私は、大きな建物の広い屋上に立っていて、目の前には一人の女性が背を向けて立っている。屋上には、転落防止の大きな柵があるが、その女性は柵の向こう側に立っている。何度呼びかけても、その女性は何の反応も示さず、まるで私がここに存在していないと錯覚させる程に全くの反応も示さない。

少しして、その女性は屋上から飛び降りる。その女性を助けようと、私は咄嗟に駆け出す。だけど、柵を乗り出し私が女性の飛び降りた場所を覗き込むと、女性の姿は何処にも見当たらない。奇妙に思いながらも、再び柵を跨ごうと振り返ると、飛び降りたはずの女性が柵越しにこちらを見て微笑んでいる。私は、強風に押され、屋上から落ちてしまう。最後まで女性は、微笑みを浮かべたまま、私の事をじっと見つめているのだった。私はどこまでも落ちていく。地面を突き抜け、奈落の底へ。気の遠くなる位、ずっとずっと、落ちていく。奈落へつながる穴が見えなくなる頃に、いつもそこで目を覚ます。


「………さん………………ルチ……さん…!!」


「ぅ………ぁ……………ん…………………?」


目が覚めると、ルチルはヤグルマに膝枕されていた。


「目が覚めましたか。」


「ヤグルマ……さん?」


ヤグルマはルチルに微笑む。ルチルの髪は、変わらず灰色に燃え尽きていた。


「まずは、お疲れ様でした。そして、感謝いたします。貴方の……いえ、貴方方のお陰で、大災害の根源を、断つ事が出来ました。」


「ヤグルマさん……。その………メアは…………」


「大変、お伝えにくいのですが……」


ヤグルマは、聖堂に出来た水たまりの方を見る。それを見て、ルチルも同じ方を見る。

ルチルは頭をグラつかせながら、必死に水たまりの方へと向かおうとする。


「まだ動かないで下さい、まだ……疲れが取れておりませんので……」


ルチルを止めようとするヤグルマに、ルチルは軽く手を振り、か細く弱い足でフラフラと、水たまりの方へ向かう。水たまりの前に着くと、その場で膝から崩れ、水たまりを覗き込んだ。


(私は、この島の皆を守ります。)


「何が……守りますだ……」


ルチルの目には、大粒の涙があった。


「目の前にいた、1人の少女さえ、守ることが出来なかったんじゃないか。」


ヤグルマは声をかけようとしたが、喉から出る言葉を、必死に抑えた。


ルチルは水溜りを覗き込む。そこには涙を浮かべ、やつれた顔をした自分が写っていたが、それも、涙で見えなくなってしまった。


「…………」


ヤグルマは掛ける言葉に悩む。


「その……………」


「…………すまない……………外で………待っててくれるか…………少し、………1人に……して欲しい。」


「………分かりました。」


そう言うと矢車は、ゆっくりと、音も立てずに、教会の入口へと向かっていった。


「はァっ…………くっ……………うっ………!」


目の前が真っ暗で何も見えない。涙が流れ、目を開けることすらかなわない。大切な一時を共に過ごした仲間は、もう居ない。


「守ってやれなかった……もう少し早く……私が出ていれば………私が犠牲になっていれば…………」


涙が水たまりに溢れる。やがて濁っていた水たまりは、メアであったことも分からなくなる位に、透き通って行った。その時だった。


こぼれたひと粒の涙で、水面が跳ねる。途端、水たまりが光を放ち、それに呼応するように、ルチルが首に掛けていたお守りが光り輝く。目の前の光景に、ルチルは戸惑い、涙が引っ込む。水たまりの光はやがて、半分に欠けたルチルのお守りの形になり、ルチルのお守りへと入って行った。


「これは………一体………」


「そのお守り、もしかして………」


光に誘われ、ヤグルマが戻ってきた。


「知っているんですか、ヤグルマさん。」


「知ってるも何も………それ、時の神子に渡されませんでした?」


「はい……そうですが……。」


「それは刻動の守り。時の神子さんが守る街に、代々伝わる大切な物です。どうしてそれを、貴方が……?」


(それはこの街に昔から伝わるお守りだ。私からしてやれるのはこれくらいだが………その……お前はここで死んで良い器じゃない。生きろ…ってことだ。)


この街に戻ってくる前、時の神子に言われたことを思い出す。


「………もしかしたら、あの方は貴方の未来を予見していたのかもしれませんね。ですが、まさかそれを渡すとは………とにかく、貴方ならやってくれると信じてました。改めて。感謝します。えっと………貴方が良いなら館まで戻りましょうか?」


ルチルはふと、水たまりの付近を見渡す。すると、水たまりの少し奥の方に、メアが使っていた脚の装備が落ちていた。ルチルはそれと、ズタズタに裂かれたメアの服を広い、ヤグルマの方へ歩み寄る。


「戻ります。あっえっと………これ、持ってても良いですか……?」


「えぇ、構いませんよ。むしろ、貴方が持っていたほうが。彼女も喜ぶと思います。では、私の手を。」


「あぁえっと……もう1つ良いですか?」


「はい。どうしました?」


「行き先……その、あるスイーツ屋まで行きたくて……その、メアが好きだったものを、買っておきたくて…」


「分かりました。では、私の手を。」


ルチルは矢車の手を取り、前にメアや主と訪れたスイーツ屋へと着いた。


「ありがとうございます。もう足も大丈夫ですので、あとは自分で歩けます。」


「そうですか。改めて、本日は本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んでください。」


「はい。ヤグルマさんも、お気を付けて。」


「……フフッ♪」


「……?どうかしました?」


「いえ、守るべき対象に、まさか心配されるなんて思わなくて、」


「アハハ……失礼しました。」


「良いんですよ♪お気遣いありがとうございます。では♪」


そう言うとヤグルマは、どこかへ飛んでいってしまった。


「…………」


ルチルはヤグルマが飛んでいったのを確認すると、スイーツ屋には寄らず、ある場所へと一直線に歩き始めた。


〈生物研究所、カイヤの研究室〉


研究所のドアをノックする。


「主、私です。」


「空いてるよ、入っておいで。」


中で作業をしているカイヤが答える。ルチルは扉の手前にある端末に触れ、扉を開けた。


「珍しいね。連絡も無しにこ…こ……に…………っ!!!!???」


変わり果てたルチルの姿と、ルチルの持つ遺品を見て、カイヤは全てを悟る。カイヤは思わず手に持ってるマグカップを落とし、ルチルに駆け寄りルチルを強く抱きしめた。そのまま2人はその場で脱力し、床に膝をついた。


「っ……!!ごめん………ごめんね…………丈夫な子に………造ってあげられなくて…………ごめんね…………!」


ルチルはカイヤをなだめながら、その目に涙を浮かべていた。そのまましばらく、2人で泣き続けた。


〈夕暮れ、生物研究所〉


「私に……真っ先に教えてくれたんだね………ありがとう……ルチル………その、少なくとも今のルチルには………私が居る。もしまた辛くてどうしようも無くなったら、また私の下に来ればいいさ。」


「ありがとうございます。主。」


「……そういえば気になってたんだが、あんた私の事を主って言うよねぇ。別に嫌ってわけじゃないんだが、何か理由があったりするのかい?」


「理由は………そうですね、私を造ってくれた、たった1人の主だからです。……その……」


「ん?どうかしたかい?」


「お母さんって………呼んだほうが良いですか?」


ルチルの問いにカイヤは目を丸くする。


「……あぁ、その辺は好きに呼んでくれて構わないよ。呼びやすい方で呼んどくれ。」


「分かりました。それでは、そろそろ私はこれで。」


「あぁ、気をつけて帰るんだよ。」


「はい。主も、お元気で!」


ルチルはカイヤに見送られ、研究所を後にする。


「お母さん……ね。」


(僕………、お…さん………な人に…………!お………みたいに……な…に……て、………に………………)


カイヤの頭にノイズが走る。


「私……何か大切なことを忘れているような……?………まぁ、忘れるって事は、大したことじゃあないのかもねぇ。さてと、割っちゃったカップの跡掃除しないとねぇ。」


カイヤは自分の研究室に戻っていく。やがて日が暮れ、夜が来る。


〈暁の館〉


玄関の戸が重く感じる。暁は、この重みに耐えられるのだろうか。彼は、大切な人を過去に亡くしている。もしかしたら彼は……

そんな事を考えながら、ルチルは玄関の扉を開け、中に入る。食卓として使っている部屋を覗くと、暁が晩飯を用意して座って待って居た。しかし、机の上には、2人分の晩飯しか乗っていなかった。


「…おかえり。メアの事はヤグルマから聞いてるよ。腹減ったろ。飯、まだ出来立てだぜ。」


ルチルはメアの遺品を部屋の隅に置き、ソファーに座る。


「……?あんた……その髪色…………そうか。あんたも、ただじゃ済まなかった訳だ。」


「すみません……無理してしまって……それに……」


ルチルはメアの遺品を見る。


「暗い話は後だ。飯にしようぜ。ほら、ほっとくと冷めちまうぞ。」


「そうですね……いただきます。」


どれだけ辛い思いをしても、お腹は空いてたらしく、案外あっさり、食べ物は喉を通った。


「……これ………おいしい……!」


「おっ!やっぱ頑張った後に食う飯はうめぇだろ?おかわりもあるぜ。」


「はい!じゃあおかわりもいただきます……!」


「おいおい…!予想以上に食いつきが良いな。待ってな、今取ってくるからよ。」


そんなこんなで、時間が流れ、夜が明ける。


目を覚まし、服を着替え、ルチルは部屋を出ると、そのまま外へ出た。しばらく歩いて、商店街を抜け、向かったのはスイーツの店だった。

ルチルは店に入る三歩手前程で歩めを止め、少し静止した後、ため息をつき、下を向いて戻って行った。人通りが少ない開けた場所を歩く。いつしか歩幅は小さくなり、1つのビルの壁に背中を付け寄りかかっていた。


「はぁ…………」


暫く俯いた後……ルチルは、そのまま目を閉じた…………。


〈協会跡。〉


「……まさか、本当に適応するとはな。聞こえてんだろ。生きてんだろ。その体はその程度では死ねんからな。俺はこの世界の事は知らん。お前の好きにしろ。ただ。もし変な事を企みでもしてたら。その時は今度こそお前を殺す。それを言いに来ただけだ。じゃあな、胡蝶ニゲラ。」


           第1章、完。

如何だったでしょうか。


今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。


私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。


一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。


もし、この作品が気に入っていただけたのであれば、ブックマーク、お気に入り登録等、宜しくお願い致します。


また、感想やレビュー等も大変励みになる上大歓迎ですので、宜しければ書き込んで頂けると幸いです。


それでは、またいつか。

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