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#15『大切な人』

満月が南の空から街を見下ろす。街の明かりは消え、皆が眠りにつく頃……


「………」


ルチルは自室の窓を開け、外の景色を眺めていた。


(……眠れない。)


ルチルは窓を閉め、部屋の戸を開け、廊下に出た。すると、見慣れない人の後ろ姿があった。


(……まさか、泥棒!?いや、でも………)


白く長い髪に月の光が当たり、どこか神々しさも感じるその人間は、泥棒の様には見えず、後ろで手を握り、目的も持たず廊下を徘徊しているように見えた。


(………)


ルチルは足音を立てないように、こっそり後を追ってみることにした。やがて徘徊するその者は、玄関正面にある大木の前で、大木を見上げていた。ルチルが廊下の角から届いていると、何やら声が聞こえてきた。


『ここは……何処なの……?』


ルチルは彼女の発する声に、はっきりと聞き覚えがあった。


(まさか………ルピナス!?目が覚めたのか……!)


彼女の正体に気付いたルチルは、思わず呼吸音を立ててしまった。


「!?誰!」


震える声でルピナスが言う。ルチルは咄嗟に身を隠し、急いで自室へと戻って行った。

ルチルが影から覗いていた場所へ、震える足で近付くと、そこには硝子で出来た、結晶の形のネックレスが落ちていた。


「これは………………」


ルピナスはしばらくそれを見つめた後、それを自室へと持ち帰った。


〈次の日〉


ルチルとメアは、暁と一緒に朝食を取っていた。


「……そういえば暁さん、気になってることがあるんですが……」


「おう、どうした?」


「最近、作業部屋に籠もりきりになってるみたいですけど、何してるのか聞いてもいいですか?」


「別に、大したことしてねぇよ。強いて言うなら……そうだな、自分で言うのもなんだが、俺は手先が器用な方でよ。よく小物や簡易的なインテリアなんかを作ってんだ。まぁ、それの応用中みたいなもんだ。」


「なるほど……」


3人は黙々と食べ物を口に運ぶ。暁は一足先に食事を終え、食器を下げた後、作業部屋に戻っていった。


「………ねぇ、ルチル。」


暁との会話を聞いていたメアが、ルチルに話しかける。


「どうした?メア。」


「アイツ、怪しくない?」


「暁の事?」


「小物を作るのが得意にしては、それらしきものをこの館で見たことが無かったし、インテリアも店で買い揃えたようなものばかり。本当にアイツは小物作りなんて事してるのか?」


「……確かに、私もそれらしきものは見てないけど、少し考えすぎじゃないかな。最近ハマり出した趣味とかだとしたら、それらが見当たらないのも納得がいくと思う。」


「そっか……じゃあアタシの考え過ぎかな。……そうだ、今日は何する?」


「うーん……特に思い付かないんだよね。メアは何処か行きたい所は無い?」


「………」


(………私が生まれた場所、街、よくよく考えればちゃんと見る機会なかったな。手掛かり探すときも、探すことに夢中で視野を狭めてたし。アレを片付けたら、改めて街中歩き回ってみようかな。)


メアはルピナスと戦う前、坂の途中から見た街の景色を思い出す。


「……行ってみたいところがある。」


「そうなのか、じゃあ、今日はそこに行ってみようか。」


「うん。」


メアはルチルを連れ、廃墟となった倉庫へと向かった。


「ここは……」


「……あぁ……ごめん、先に言っとけばよかったね。」


「大丈夫だよ。それに、あの時は君が私を助けてくれたんだ。本当にありがとう。」


「っ………ふふ、アハハ…!」


「………?」


突然笑い始めたメアにルチルは困惑した。


「ハハッ……いや、縁起でもないけど、一度殺そうとした人に感謝されるなんて思わないでしょ、普通。さてと、私が行きたいのはこの先、山の上だよ。着いてきて。」


メアはそう言うとルチルに手招きしながら森の中へと入って行った。


しばらく山を登ると、急だった坂道が、緩やかになっていき、開けた場所に出た。どうやら山頂が近いらしい。


「はぁ……はぁ……疲れた………」


「はぁ………えっと……メア、あとどのくらいまで登るんだい?」


「え?あぁ、着いたよ。ここ。」


メアは草原の真ん中へと駆け出すと、来た道無き道の方を向きその場に座り込んだ。


「ルチルもこっち来て。」


「あ、うん。」


ルチルはメアの隣まで行き、メアと同じ方向を向いて隣に座った。ふと顔を上げるとそこには、水平線に沈む太陽と、街が一望出来た。


「これは……!」


「アタシがここに来たかったのは、この景色が見たかったから。前にアンタを助けようとする時、倉庫の前で似た景色を見てさ。もっと上まで登ったら、すごくいい景色が見れるんじゃないかと思ってさ。ごめんね、こんなことに付き合わせちゃって。」


「気にしないで。……にしても、凄く綺麗……。」


2人は暫く、沈んでいく太陽と、徐々に灯りが灯っていう街を眺めていた。いつの間にか空には星が輝き始め、二人の真後ろから月が昇っていた。


「……ねぇ、ルチル。」


「何?メア。」


「ルチルは、この街の遥か遠くにある……その、結界ってやつを超えたことがあるんだよね。」


「あぁ。ヤグルマさんに連れて行ってもらったよ。」


「その……どんな景色だった?」


「そうだな……少なくとも、この街とは全く違う雰囲気で、建物の造りや文化まで全てが違っていた。でも、街の雰囲気はとても良かったよ。」


「そっか……ねぇ、ルチル。」


「ん?どうかしたかい?」


「アタシも……いつか………その…………」


「一緒に、行ってみたい。」


ルチルは少しメアを見つめ、微笑む。


「あぁ、今度は一緒に行こう。」


「っ!!いいの!?」


「うん。」


「じゃあ、約束!」


「あぁ、約束だ。」


二人は小指を握り合い、約束を交わした。すっかり空は暗くなり、街は光で満ちていた。


「あぁ……えっと…………」


メアが少し眉間に皺を寄せる。


「どうしたの?」


「いや………その………………実は…………」


「山を下る方法、考えて無かったんだよね……アハハ…………ゴメン。」


ルチルは少し考え込む。それを見てメアは、焦燥に駆られる。


「あっ……………」


メアは気まずくなり、黙り込んでしまう。するとルチルがガントレットを装着し、掌を広げた。


「うわっ!!何もそこまでしなくても……!!」


ルチルは掌を広げたまま、メアに歩み寄る。


「えっ………ちょっ………本気……!?わっ分かった!!今度から気をつけるから……!!」


メアが必死に許しを請うも、ルチルの歩みは止まらない。メアが覚悟を決め目を強く瞑る。気が付くと、メアはルチルに抱えられていた。


「………へ?」


「しっかり捕まってて、メア。」


「え?えぇ!?」


ルチルはメアを抱えたまま、ガントレットを起動し、街の上空へと飛び出した。


「見下ろしてご覧、メア。あ、えっと、高所恐怖症だったりしない?」


「いや、大丈夫だけど……」


(さすがに大胆すぎるでしょ!?何この人!?)


メアは動揺しながらも、街を見下ろす。かなりの高さまで昇ったらしく、街を一望出来た。


「………すごい。」


「実は、結界を超える前、ヤグルマさんに会った時に、同じような景色を見ていたんだ。これはいいものを見させてくれたお礼…かな。」


「………」


メアは街の夜景な見惚れ、言葉を失う。


(………いいものって……アンタの方がよっぽどいいもの見てるんじゃないの。)


「………ズルいよ。ルチル」


「?何か言ったかい?ごめん、スピードが出てるから風で声があまり聞き取れなくて。」


「………なんでもない。」


暫く街の上空を飛び回った後、2人は暁の館の前に着地した。


「ふぅ………今日はいい体験が出来た。ありがとう、メア。」


「……こちらこそ。」


グ~ッ


「あっ………」


メアのお腹が鳴った。


「ハハッ、流石に長い間飛び回ったせいか、私もお腹が空いたよ。暁さんに何か作ってもらおうか。」


「……うん。」


ルチルとメアは、暁の館の扉を開け、帰宅した。客間に向かうと、暁が、ソファーに腰掛け、人数分の食事を並べて待っていた。


「おぉ、丁度帰ったな、おかえり。飯は作ったばっかだ。冷めないうちに食べな。」


2人もソファーに腰掛け、3人で食卓を囲う。今日あった事を話すと、暁はいつもの様にヘラヘラと笑いながらその話を聞く。平穏な時間が流れ、1日が終わる。明日は何をしようか。

       約束の日まで、あと1日。

今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。


私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。


一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。


もし、この作品が気に入っていただけたのであれば、ブックマーク、お気に入り登録等、宜しくお願い致します。


また、感想やレビュー等も大変励みになる上大歓迎ですので、宜しければ書き込んで頂けると幸いです。


それでは、また次回。

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