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#12『知を求む』

ルチルがヤグルマと結界の先に行って数日、メアは暁の館にあるベランダで1人考え事をしていた。


(未だに分からない。なんでアイツが情けをかけたのか。私を生かしたのか。命を狙ったのに、本気で殺すつもりだったのに……。)


「嬉しかったんじゃねぇか?」


横を向くと、いつの間にか暁が居た。


「ちょっ、当たり前のように心を読むな!!」


「悪い悪い、丁度通りがかったもんでな。それに、今のあんたが何考えてるのか位分かるさ。」


「はぁ……んで、何なのさ」


メアは頬を膨らませながら暁に問う。


「ルチルの事、気になるか?」


「……まぁね。アイツ、本気で……その、殺しにかかったのに、あっさり返されて。でも問題はそこじゃない。なんで私を生かしたか聞いたら、アイツ、私の優しい顔が見たいって…全部……作り笑顔だったのに………。」


「……」


暁はメアの隣で、ベランダからの景色を眺めながら耳を傾ける。


「あんたもルチルも、生まれたばっかだ。この先、色んな"分からない事"があんたらに訪れる。少なくとも、ルチルのやつにとっちゃあんたは、初めてのダチみたいなもんだ。あんたも、分からない事に怯えたり、逃げ出したくなる気持ちもわかる。だが、たまには分からない事を分からないままにせず、興味を持って知ろうとするってのをやって見るといいんじゃねぇか?手始めに、ルチルが戻ってきたら、やってみるといい。」


「……そういえば、ルチルは何処に行ったの?」


「さぁな?俺にもさっぱり分からん。この数日一切音沙汰無しで帰ってきやしねぇ。」


メアは暁がヘラヘラしながら答えるのに目を丸くし眉を寄せた。


「はぁ!!!!???アンタ何してたのさ!!!!」


「悪い悪い、ただ、ガントレットを使ってどっかに飛んでったのは見たぜ。多分、飛行操作の練習だと思うんだが……」


「だとしたら最悪どっかで遭難してるって事……!?あーもう!!どうしてこんな状況でヘラヘラ出来るのさ!!」


「俺だって辺り一面何回も探したさ……だけど痕跡1つ見当たらなくてよ……」


ベランダで2人が怒鳴り合っている上空近辺を、ヤグルマが通りかかる。


「あら?暁さん。どうかなさいました?」


急に目の前に降りて来たヤグルマに、暁は目を泳がせた。


「アッヤグルマ………サン?」


「あら?そちらは…………」


ヤグルマはメアを閉じた瞳でじっと見つめる。


「……アンタ、誰……?」


「はぁ………この前神子の話したろ?この人だよ。」


頭を抱えながら暁が答える。


「あぁそうだヤグルマさん、ルチルって人見なかったか?」


「ルチルさんなら、今結界の向こうに居ますよ?」


「………はい?」


予想の斜め上の回答に、暁は更に頭を抱えた。


「それより暁さん。あなたに大切なお話があります。」


〈正義と悪の街、A.M2:00〉


(正面から行ってもきっと防がれるだろう……それなら……!)


ルチルはガントレットからエネルギーを放出すると、巨大な影の周りをグルグルと周り始めた。影はルチルを視界に捉えようとするが、小回りが利かず、ルチルは影の死角を取った。


「今だっ……!」


ルチルは影に急接近し、拳を正面に突き出した。


「なっ…!?」


勢いで影を突き飛ばす事は出来たが、表面には傷一つも付ける事が出来ず、そのままルチルはその場に着地した。


「今の感触……機械……!?」


立ち込めた霧が少しずつ晴れ、大きな機械がルチルの前に姿を現す。暗くてよく見えないが、月明かりで、2つの赤い光がこちらを覗かせている真ん中に、人影のようなものが一瞬見えた。


「ソンナコウゲキジャ、ワタシノコノキカイヲコワスコトナンザデキネェゼ!」


ノイズ混じりの男の声が辺りに響く。


「キサマガサツジンキダナ。ヨナカニデクワシタヒトヲムサベツニメッタザシニスル。シカシ、ミョウナジュツヲツカイヤガル。マァイイ、ワタシノキカイニンギョウノ、エジキニシテクレルワ!!」


声が鳴り止むと、機械が急に加速し、ルチルに接近した。ルチルは咄嗟に飛行し、機械人形の図上へと回った。


「キサマ!!ヒキョウダゾ!!オリテコイ!!」


「待って下さい!!何か誤解をしてませんか?」


「キサマノコトバニカスミミナドナイ!!コウナッタラ!!サイシュウシュダンヲ……」


「待ちなよ。」


機械人形が上空のルチルを撃ち落とさんと、構えたその時、路地裏から1人の人影が出てきた。


「リーダー!!コイツハキカイナジュツヲツカウ!!ハナレテイロ!!」


「その人、私らが追ってる人じゃないよ。」


「ナンダト!?」


機械人形に乗っている人物と会話する人影は、ルチルの方を向く。


「君!!ちょっと話がしたいから!!降りてきてもらってもいいかい!!?」


「え?あぁ……はい……?」


戸惑いながらも、ルチルはゆっくりとガントレットの出力を弱め、地面に着地した。ふと機械人形の方を見ると、機械は動作を停止し、機械が発する蒸気で出来た霧もすっかり晴れ、その全貌が明らかとなった。


「すまないね、うちの者が。」


「ちょっと!!なんでやめさせたのさ!!!」


いつの間にか機械人形の頭部からは人影が消えており、目の前の人物は機械人形から聞こえていたのと同じ声で怒鳴っていた。


「さっきも言ったように、この人は犯人じゃないよ。」


「はぁ……?そんな証拠何処に……」


「紹介が遅れたね。私はアザミ。この子はオパール。」


頭に乗せられた手を退き、オパールが問う。


「こんな奇怪な力を使うやつの何処が犯人じゃないっていうのさ!!」


「簡単だよ。ルチル君、唐突だが変なこと聞いてもいいかな。」


「変な事……?」


「なぁに、簡単な事だよ。1+1は?」


「え……2………ですか……?」


「正解!ほらね?違うだろう?」


「………あぁ、コイツは犯人じゃない。」


2人の妙に納得した様子に、ルチルは困惑していた。


「あぁ、説明するね。実は、この街の人間は呪われているんだよ。」


「呪われている……?」


(この街、微かにですが、ルピナスと似た気配を感じます。残る際はお気をつけて。)


ふと、ヤグルマが去り際に放った言葉を思い出す。


「ははっ、ちゃんと説明するから最後まで聞いてくれる?君、ローズって人に会わなかったかい?」


「はい…会いましたが……?」


「あの子が連続殺人犯だよ。」


「!?」


予想外の発言にルチルは目を見開いた。


「あの子の呪いは特に強くてね。あの子も呪われてるんだけど……君、この街の店内で何か食べたりしなかったかい?」


「えっと…食べてはいないんですけど、ローズさんに案内されて、居酒屋には行きました。」


「何か、違和感を感じなかったかい?」


「…お冷が……1つ多かったです。」


アザミが指を鳴らし、ルチルを指差す。


「まさにそれだよ。呪われた人たちは、表面的には意思疎通が可能だったりするけど、そういった日常の無意識の内に自分の身に浸透したものが、まともに出来なくなってる。ついこの間だって、それが原因でオパールの工場が火事になるところだった。」


「なるほど……」


「それにしても、君がローズに会ったというのなら好都合だ。ローズの居場所は分かるかい?」


「はい……分かりますが……」


「なら、これを渡して欲しい。」


アザミから封筒を手渡された。封筒の面には、親愛なる我が妹へと書かれていた。


「妹……ってことは……」


「ローズは私の義理の妹なんだよ。訳あって、両親と血の繋がっていない私ではなく、彼女が家を追い出される事になってね。まぁ一種の罪滅ぼしのようなものさ。本当は私が変わってやりたかったんだが……とりあえず、頼んだよ。」


「はい……」


その言葉を最後に、アザミはルチルに背を向けた。


「あぁそうだ、ルチル君、この街はもうじき戦場になる。余所者の君は関わらないほうが良い。これは事件なんて生半可なものではない。国1つを動かす事になるのだから。わかったかい?」


「分かりました。では……」


「うん。それじゃ。あ、まだあったんだった。」


「えぇ……」


「ごめんごめん、最近どうも忘れっぽくてね。微かだが、私も呪いに侵されているらしい。」


「なるほど……えっと……それで……」


「ローズに渡して別れる時、君が興味を示すのであれば首元を見てみると良い。面白いものが見れる。それじゃ、またね。」


「え、それってどういう……」


ルチルが問う前に、2人は夜の闇に消えていった。


(呪い……争い………とにかく、明日これをローズに渡そう。)


ルチルは宿へと戻って行った。


〈翌日〉


いつも通り、時計塔の付近を、ローズが探索していた。


「ローズさん!」


「おや、ルチル君。どうかしたのかい?」


「えっと……これを……渡せと言われて……」


「それは……?」


ローズはルチルの手紙を受け取り、表面を見ると、明るかった表情が一瞬にして冷徹な獣のようになった。


「そうか……」


ローズは封蝋を開け、手紙を広げた。


ー拝啓、親愛なる妹へ。ー


長ったるい社交辞令はこの手紙において不要だろう。私達の揺り籠にて待つ。

       アザミ・ルドベキア


ローズの表情は暗く、その眼は確固たる決意により紅く染まっていた。


「ルチル君。この手紙、確かに受け取ったよ。今回ばかりは君を巻き込むわけには行かない。すまないが、お引き取り願うよ。」


心做しか、言葉遣いが荒くなったように感じた。


「はい、分かりました。」


「手伝ってくれてありがとう。それじゃ、さよならだ。」


ローズはルチルに背を向け、居酒屋の向こうへと真っ直ぐ歩き出した。


(君が興味を示すのであれば首元を見てみると良い。面白いものが見れる。)


興味本位で、去っていくローズの首元を見る。そこには、人のものとは思えない、黒い触手のようなものが、衣服から顔を覗かせていた。ルチルは今までに一切見たことのないそれの存在に、恐怖し激しく身震いし、しばらくその場から動けなくなってしまった。


            #12,おわり。

今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。




私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。




一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。




もし、この作品が気に入っていただけたのであれば、ブックマーク、お気に入り登録等、宜しくお願い致します。




また、感想やレビュー等も大変励みになる上大歓迎ですので、宜しければ書き込んで頂けると幸いです。




それでは、また次回。

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