#11
翌朝
ルチルが起床し、身支度を済ませ、宿を出ると、何やら人だかりが出来ていた。人混みを避けながら進むと、そこにはローズの姿もあった。
「ん?あぁ、ルチル君。おはよう」
「おはようございます。えっと……この人達は……?」
「本当、困ったものだよね。この街は相変わらず物好きが多いみたいで。ほら、そこ。」
ローズが顎で指した方を向くと、そこには乾いた血溜まりの上に仰向けになり、上から大きな布を被せられた人の死体があった。
「!?まさか……」
「あぁ。昨日話したのと同じ、滅多刺しにされた跡があった。」
「……いよいよ、こちらも本格的に動き足す必要がありそうだ。ルチル君、この街の大切な客人である君を巻き込むわけには行かない。悪いが、一回お引き取り願う。」
深刻な表情を浮かべローズがルチルに提案する。
「気持ちはありがたいのですが、それは出来ません。ヤグルマさんが去り際に言っていた、『ルピナスと同様の気配』が今この街に起きている事件と関わりがあるのであれば、私も、何か役に立てることがあるのかもしれません。」
ルチルを思っての提案をあっさり断られ、ローズは少し焦ったが、すぐに収まり、ローズの表情は少し柔らかくなった。
「そうか、どうやら君は、私が思っている以上に勇敢なのだな。よし、分かった。キミにも協力して貰おう。だけど、危ない事は私がやるからね。流石に戦闘は……」
「出来ますよ……?」
「え?」
ルチルはそう言うと、ガントレットを出してローズに見せた。
「これは驚いた……ちょっと触ってみてもいいかい?」
「はい。どうぞ」
ルチルはガントレットを手から外し、ローズに渡した。
「これは凄い……一体こんな物をどうやって……?」
「私の人脈に、鉄鋼業を営んでいる人が居るんです。」
「そうか……ありがとう、これは返すよ。」
ローズはガントレットをルチルに返した。
「さてと……本格的に動き出すとなると、まずは情報が欲しいね。とりあえず、街の人に聞き回ってみようか。2人で手分けしても良いんだが……ルチル君、方向音痴だったりしない?」
「ご心配なく、一度通った道は覚えれるので。それに、迷ったら戻る方法もあります。」
「そうか、それなら安心だな。じゃあ、私はここから少し離れた所で聞き込みをしてるから、ルチル君はここら一帯を頼むよ。」
「はい!」
二人は別れ、聞き込みを始める。
ひとまずルチルは宿の近くにある、雑貨屋に寄る事にした。
「手がかりか……そうだな、関係があるのかは分からないが、最初に被害が出た夜、月明かりでぼんやり見えただけなんだが、窓から夜景を眺めていると、何か遠くの方で屋根の上を颯爽と駆ける影が見えたな。逆に言えば、それ以外は何も分からなくてな。悪いね、力になれなくて」
「いえ、ありがとうございます」
ルチルは店主に軽く会釈をすると、店を出た。
(屋根の上を駆ける影……事件と何か関係があるのだろうか。今はもっと情報が欲しい。もう少し聞いて回ろう。)
一方その頃ローズは、ルチルと少し離れた時計塔付近の酒場で聞き込みをしていた。
「…という訳なんだよご主人、何か知らない?」
「悪いねぇ嬢ちゃん、如何せんそういう噂は家には流れてこねぇもんで、他を当たってくれ。」
「そうか……ありがとう、じゃ」
ローズは店を後にした。
「はぁ……何の成果も得られず、ねぇ……」
「……あれ?ローズさん?」
ふと声のする方を向くと、山吹色の作業着を身に纏う男が立っていた。
「やっぱりそうだ!お久しぶりです!!」
「君は確か、北の工場の…?久しぶり、どうしたの?」
「いやーたまたまここを通りがかったもので、その…お元気でしたか?」
「あぁ、……とも一概には言い切れなくなってね」
「何かあったんですか?」
「実は最近、立て続けに人が無残な死体になって見つかっていてね。」
「なるほど……それは大変ですね。何か手伝えることがあったら言ってください♪仮にも貴方にはお世話になった身ですので、困ったことがあればいつでも駆けつけますよ!」
「ありがとう、じゃあ私はそろそろ行かなきゃだから、またね。君も気をつけなよ。」
「はい!では!」
元気よく手を振る青年を横目に、ローズはルチルの方へと戻って行った。
〈数分後、居酒屋にて〉
「…さて、一旦情報をまとめよう……と行きたいところなんだが、生憎、私の方は何も掴めなかったよ。ルチル君は、何か有用なことは聞けたかい?」
ルチルは、雑貨屋の店主から聞いた事をローズに話した。
「成る程……そこから考えるに、犯人は身軽に深夜の街を駆けて回り、皆が寝静まった頃を見計らって犯行に及んでいる……か。確かに、毎回死体は朝に見つかっているから、その店主が見た人影が犯人の可能性は高いかもしれないね。他には、何か聞かなかったかい?」
「すみません、私もこれしか……」
「そうか…協力感謝する。引き続き、街の人に聞きまわりながら、私達も何か手がかりが無いか探ってみよう。」
2人は店を後にし、解散した。
その夜、ルチルは昼間にローズが探っていた区間を探索していた。町中を歩き回り、ふと見上げると、目の前にはとても大きな時計塔がそびえ立っていた。ルチルが時計塔を見上げていると、塔のてっぺんから何かが光ったような気がした。すると、その光ったモノは、塔の上から跳ねて、こちらに降りてきた。
「貴様は昨日アイツと一緒にいた…………何の用だ。」
光った影の正体は、ローズにグラスと呼ばれていた時の神子だった。
「あっ、いえ、特に用はないのですが、人影が見えたので気になって……」
「そうか。」
グラスは無愛想に応えると、背中を向けた。
「……貴様、ルチルとか言ったか。一応忠告しておく。」
「貴様が今追っているものは、貴様が思っているよりも遥かに大きなものだ。貴様に、それを背負う覚悟はできているのか。出来ていないなら、今すぐに身を引け。この街、この国は、貴様が思っているより広いんだ。いつ何処から危険が訪れるか分からん。あのローズの言葉も、簡単には信用するなよ。以上だ。」
グラスは言い終えると、時計塔の天辺目掛けて視認出来ない速度で跳躍した。ルチルはグラスの言葉についてあまり理解できなかったが、とりあえず探索を続ける事にした。
街の灯りが消える頃……
「おっと、すっかり暗くなってしまった。宿に戻るとしよう。」
いつの間にか、辺りに霧が立ち込める。ルチルが宿へ向かおうと、振り返った直後。
「……!?」
真後ろから強い殺気を感じ取り、ルチルは咄嗟に振り返りガントレットを構え防御態勢を取った。ガントレットで全身を隠すと、前方の斜め上の方から強い衝撃が加わり、ルチルは押し潰されそうになったが、もう片方のガントレットでエネルギーをチャージし、勢い良く後方に飛び回避した。攻撃が飛んできた方向を見ると、赤い光が2つ、霧の中からこちらを見ていた。見上げる程の位置にある光、ルチルは本能で、それが初めて戦った化け物と同等、いや、それ以上の大きさであると悟った。
ルチルは最初の戦いで、壁に打ち付けられた事を思い出し、身震いしたが、それはやがて己を奮い立たせるものとなった。
「…あの頃の私は、まだ生まれてまもなく、あっけなく敗北してしまった。だが、もうあの頃と同じ私ではない。来い!私が相手だ!!」
赤い光と共に、足音が迫り来る。ルチルはガントレットを構え、赤い光を睨みつけた。
#11,おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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それでは、また来週。