#10『英雄気取らせ』
「騎士……?」
2人が聞き返すと、ローズと名乗る女性は答える。
「そう、騎士だ。まぁ君たちの様子を見るに、この辺には来たばかりなんだろう。折角だ、近くに居酒屋がある、そこで話そう。着いて来たまえ。」
2人は呆気にとられるまま、ローズについて行った。
店に入ると、若い男が、3人をもてなした。
「いらっしゃいませ〜……!?ローズさんじゃないですか!!よくぞお越しくださいました!!いつもの席、空いてますよ。こちらへどうぞ!えっと……そちらの方々は?」
「私はヤグルマ、こちらはルチルです♪」
先程の反応を見るに、このローズという女性は街の人からかなり慕われているらしい。
男は店の奥の席に3人を案内し、お冷を用意すると、軽く会釈をし、カウンターの方に戻っていった。
(お冷が1つ多いような……?この街の文化のようなものだろうか)
「さてと、いくつか君達に聞きたいのだけど、いいかな?」
ローズの問いに二人は頷く。
「そうか、じゃあまずは1つ目。君達、何処から来たの?」
早速真面目に答えるとマズそうな質問が飛んできた。ルチルは軽く焦りかけたが、平常心を保った。
「ハハッ、肩の力抜きなよ。別にここで君達を斬り捨てようなんて思っちゃいないからさ。じゃあ質問を変えよう。」
ローズは優しい笑顔で2人に話しかける。
「……の前に、警戒を解くために軽く自己紹介しよっか。私の名前はローズ・ルドベキア。この街を守っている騎士の1人だ。あとは……そうだな………この店、私がまだ幼い頃に友達の親に連れてきてもらったことがあってね。大人になった今ではすっかり常連なんだ。特に、ここのシチューは絶品なんだよ♪」
ローズは嬉しそうに話を続ける。2人も彼女に敵意が無いと悟ると、少し表情が柔らかくなった。
「えっと、そろそろ君たちの事も教えてくれるかな。あ、もちろん無理にとは言わないよ。」
2人は顔を見合わせると、再びローズの方を向き、ヤグルマから話し始める。
「私はヤグルマと申します。先程私に襲い掛かってきた方と同じく、私も神子の1人です。そして、私の隣にいるのはルチル。まぁ私の付き添いみたいなものです。」
「どうも……」
ルチルは軽くお辞儀する。
「そうか、よろしく、ヤグルマ君にルチル君♪」
「ルチル……君……?」
「親睦を深めるなら、呼び方を変えるのが手っ取り早いと思ってね。おっと、気に障ったかい?」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。少し驚いただけなので」
「そうか、改めて、2人共よろしく。」
変わらず笑顔で話すローズに、ヤグルマは少し疑問に思った。
「あの、ローズさん、今度はこちらから質問してもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。どうかしたかい?」
「貴方、ただ私達をもてなす為だけにこの店に連れてきたわけではないですよね。確かに貴方は街の人からも慕われ、私達にも友好的に接してくれました。ですが、そろそろ本題に入ってみては?」
「アハハ、バレてたか。安心しなよ。確かに真剣な話をしようと君達をここへ招き入れたが、ただ単に公衆の面前で堂々と話すと少し面倒だってだけだから。じゃあ本題に入るとしよう。」
ローズの顔が少し強張る。
「さっき自己紹介のとき、この街を守る騎士の一人と私は言ったね。この街の騎士は私だけではなく何人か居る。まぁ、特に騎士同士の決まり事とかは無く、一人一人が個人の意思で街を守っている。そして、その騎士のうちの一人が、最近この近くで死体になって見つかってね。胸元に滅多刺しにされたあとがあったから、殺人と見て間違いは無いみたいなんだけど。」
「それで、私達がそうなのではないか、と?」
「…まぁ、そう思う気持ちも無くはないけど、片や神子、片やその付き添い。その可能性は低いだろうから。もう君達は疑ってないよ。」
ローズはヤグルマの問いに笑顔で答える。
「そうだ、君達お腹空いてない?良かったら何かご馳走……」
「強盗だ!てめぇら!!持ってるモン全部出しな!!」
ローズが言い終わる直前、店の扉を勢い良く開け、3人組が入って来た。
「したいところだったんだけど、仕事みたいだね。」
ローズはため息をつきながら、席を立った。
「おい!そこの女!動くな!!」
「へぇ?動いたらどうすんのさ。」
「コイツを斬り殺す!!」
強盗と名乗った男の1人が、近くの席に座っていた女性に刃を向けた。
「ふーん。それ、私の格好見た上で言ってるの?」
ローズは余裕の表情で強盗に問いかけた。
「るせぇ!!どうせ騎士なんざ大したことねぇんだろ?この前だっててめぇと同じ格好した奴の死体見たぜぇ?やけにぼろぼろになってやがったよなぁ?」
強盗がニヤついた表情で答えると、後ろに居た2人の強盗が大声で笑い出した。
「その言葉はちょっと聞き捨てならないなぁ……」
ローズはそう言うと、真紅のマントを翻し、マントの中から、自身の腕より遥かに太く大きな剣を覗かせた。
「今なら見逃してあげるけど、どうする?」
「う、うるせぇ!!こっちには人質が居るんだぞ!!」
「…そう。」
ローズは剣を抜くまでも無く、一瞬で強盗の懐に入り、肘で腹を強く打つと、強盗はその場で蹲った。
「ぐぁっ………」
動揺した2人の強盗が、人質に手をかけようとすると、ローズは脚で強盗の持ってる刃を天井に飛ばし、そのままその場で一回転すると、店の外に2人の強盗を蹴飛ばした。
「すごい……」
ルチルとヤグルマは、ただその場で座ってローズを眺めていた。ローズは店のものを一切傷つけること無く、強盗を倒した。すかさず警官が現れ、強盗達を連れて行った。店内には、拍手喝采が訪れた。
「すげぇよ!!ローズ!!」
「相変わらず惚れ惚れする動きだったぜぇ」
「やっぱり貴方がこの街に居てくれて心強いわ♪」
「少し騒がせ過ぎてしまったね。店を出るとしよう。」
ローズは二人を連れて、店を後にした。店を出ると、空はすっかり暗くなっており、町中は街灯の光で満ちていた。
「遅くなってしまったね。そうだ、君達はこれからどうするんだい?」
無論宛があるわけでもなく、ルチルはヤグルマの方を見る。すると、ヤグルマはルチルを見て微笑んだ後、ローズの問いに答える。
「私はあくまで、ここには視察に来ただけですので、用は済みました。ですので元々自身が護っていた場所に戻ります♪」
「エッ、えっと…私は……?」
ルチルは困惑する。
「ご安心ください♪来た時の穴には目印をつけておきます。帰りたくなったらいつでも帰れますよ♪」
「は、はぁ……」
「あぁそうそう。」
矢車の口角が下がる。
「この街、微かにですが、ルピナスと似た気配を感じます。残る際はお気をつけて。」
「!?それってどういう……」
「では♪」
呆気に取られるルチルを後目にヤグルマは帰って行った。
「アハハ…大分マイペースなんだね、君の所の神子さんは」
ローズはルチルの方を見て苦笑いをした。
「そうだ、宛がないなら、私の知り合いに宿屋を営んでいる人が居る。宿代は奢ってあげるから、そこに泊まるといい♪私の名前を出せば、きっと満室でも部屋を用意してくれるだろう♪」
「あっ、ど、どうも」
「とりあえずそこまで案内しよう。さ、着いて来ると良い。」
ルチルはローズに連れられ宿へと向かった。
「……にしても、ヤグルマ君、去り際に気になることを言っていたね。ルピナス……?というのが何なのかは分からないが、何か知っているのかい?」
「あぁ、えっと……」
(……嬉しい……!私の事を知りたいのね……!)
(ねぇルチル、私のこと好き?)
(やった♪じゃあルチルは今から私のお婿さんね♡)
色々引っかかる事はあるが、とりあえずざっくりとルピナスの事件について話すことにした。
「成程……つまり、そのルピナスという女性は手から不思議な糸を出して人を連れ去り、拘束して監禁していたと……。そして、ヤグルマ君の言っていた事と照らし合わせると、この街でも同じことが起こるかもしれない……いや、もう起きているのかもしれないと言った所だね。確かに、思い当たる節が無い訳ではない。」
ローズは真剣な顔で話し始める。
「それこそ、居酒屋で君達に話したあの件だ。実は、あの時話した騎士の他にも、同じような傷跡がある死体は何個も目撃されている。私は、国王様の命で、この件を解決するよう言われている。同胞が殺されて、私も正直焦っているんだよ。おっと、暗くなってしまったね。ほら、着いたよ。せっかくだから受付まで着いて行ってあげよう。」
2人は宿に入り、受付の前に立った。
「いらっしゃい。おや、ローズじゃないか。調子はどうだい。」
「うーん……まぁ、ぼちぼちかな」
ローズがテキトーに答える。
「ヘッ。まぁ、特に何も無いなら何よりだよ。そんで、2人で1泊…でいいのかい?」
「あぁ、泊まるのはこの子だけだよ」
「ど、どうも……」
「そうかい、ローズの連れなら、安くしとくよ。」
「ありがとうございます」
ルチルが少し気まずそうに答える。
「じゃあ、後は任せたよ。ルチル、私は居酒屋の周りを徘徊してるから、何か用があるなら、明日そこに来ると良い。それじゃ、おやすみ。」
そう言うとローズは宿を後にした。
受付の女性に案内され、ルチルは部屋に入った。
皆が寝静まった夜………
「……ん?ちょっと君君、こんな時間に外に出たら危ないじゃな…い………か…………ッ!?おい……何だよ……何なんだよ……!!!!誰かッ!!助け………………」
#10、おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
一生涯を賭けこの作品を完成させる意気込みですのでどうか応援の程宜しくお願い致します。
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それでは、また来週。