#9
割れた結界を抜け、2人は未知の領域に足を踏み入れた。ガラスやセメント造りの建物から一変。2人が踏み入った街は木とレンガで出来た建物が立ち並んでいた。今まで見てきた世界と全く違う佇まいに、ルチルは呆気にとられていた。ヤグルマもまた、初めて見る景色に目を丸くしていた。
「すごい……」
「景色が様変わりするのは分かっていましたが、まさかこれほどまでとは……」
「とりあえず、歩きましょうか♪」
2人は見慣れぬ街に足を踏み入れた。
「建物だけじゃない…町の人達の格好も、売られている食べ物も、何もかもが違う……」
ルチルは周りを見渡しながら、視界に入るもの全てに興味を唆られた。一方でヤグルマは、この景色に見覚えがあるようだ。
「えっと…ヤグルマさん、どうかしましたか?」
「…この島は昔、今と同じように結界が張られていた訳ではないんです。」
ヤグルマはルチルに話し始める。
「昔は結界など張られておらず、結界の外とも関わりがありました。そして、丁度今居るこの場所は、その外の人間と関わりを持つ唯一の区画だったのです。恐らく、その影響が強く出て、今の様な街並みになったのかもしれません。だとすると……もしかしたら、残り2つの区画も、私たちの暮らす街とも、この街とも全く違う景色が広がっているのかもしれませんね。」
「なるほど…」
「とりあえず今は、この街を探索しましょうか♪」
そう言うとヤグルマは、ルチルの手を引き歩き始めた。
「人が多くなって来ましたね。街の中心が近いようです。私から離れないようにしてください。」
「あ、はい…」
ルチルはヤグルマに連れられ、街の中心にある時計塔の前に来た。するとヤグルマが突然立ち止まり、握っていた手を離した。
「えっと、どうかしましたか……?」
「少し、私の後ろに下がっていただけますか?」
「はい…えっと…こうですか?」
「はい。そこで少し動かないでいてください。」
突然のヤグルマからの言葉に戸惑いつつも、ルチルはヤグルマから距離を置き後ろに立った。すると……
「ふんっ!!!!!」
突如、ヤグルマが杖を手に取り前に構えると、辺りが閃光に包まれた。
「うおっ!?」
ルチルは咄嗟に腕で視界を覆い、少しずつ目を慣らすとヤグルマの方に目を向けた。するとそこには、ヤグルマに刃を向ける人型の何かと、杖で刃を防ぐヤグルマの姿があった。
人型は刃を弾かれ、空中で一回転した後、ヤグルマから距離を取り着地した。そして、ヤグルマに刃を向け口を開く。
「貴様ァ!今の身分でのこのこと!よくもまぁ俺の前に堂々と姿を現せたな!!」
「身分……?堂々と……?何の事です…?」
杖を構えながら、ヤグルマが問うと、その人型は歯を食いしばりながら、ヤグルマを睨みつけた。
「あの人は……?」
「分かりませんが、今の一撃、仮にも神子である私をピンポイントに狙い、私と同等に渡り合う。疑うまでも無く、彼女も神子なのでしょう。」
ルチルは人型の方を見つめる。両手にそれぞれ剣を構え、両足は義足。そして人型の背中には、ヤグルマと同じ半透明の羽のようなものが浮いていた。
「この期に及んで!この時の神子である俺を忘れたなんて言わせねぇぞ!!俺やアイツらをあんな目に遭わせておいて、生きて帰れると思うなよ!!!!」
「オレ…?アイツ……?だから何の……」
「うるさい!!貴様の言葉なぞ聞く価値もない!!俺がこの場で切り捨ててやる!!覚悟!!」
「そこまでだ、グラス。」
ヤグルマが言い切るまでもなく、時の神子と名乗った者はヤグルマに向かって行った。すると、どこからともなく誰かが時の神子を呼ぶ声が聞こえた。ふと声のした方を向くと、真紅の赤いマントを纏う、女性の姿があった。
「これは神子間の問題だ!人間は関わるな!」
「はぁ…周りをよく見なよ。」
グラスと呼ばれた時の神子が、辺りを見渡すと、時の神子を見て怯える人々の姿があった。
「いいかい?仮にも君は神子という立場なんだ。神子というのは昔から、この島を護り、この島の人々を守ってきた。そんな人々から慕われ崇められる対象となっているキミが、一時の感情に操られてどうする。しまいには、慕われるどころか人々を恐怖に陥れて……」
「くっ………」
女性の言葉に、グラスはぐうの音も出なかった。
「貴様!今は見逃してやるが!この街でこれ以上何かしでかそうものなら今度こそ容赦無く切り刻むからな!」
そう言うとグラスはどこかへ飛んでいってしまった。
「はぁ……困ったものだよ。珍しい客人だと言うのに……」
女性はため息をつくと、2人の方に歩み寄った。
「私はローズ。この街の騎士だ。怪我はないかい?」
#9、おわり。
今回の話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
私の夢は、この世界の映像化。即ち、アニメ化でございます。
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