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孤児の身柄

「しかし、あの子どもは我が島のものです。親類縁者もこの島におります。それを引き離すというのは」


 代官の言葉をアルバートはわざと遮った。


「孤児院に入れておいて親類も縁者もないだろう。大体、女子ども2人のみで町から離れた場所に住まわせるという事自体が問題だ」


「それは、教会の立地で仕方なく……」


「司祭がいないなら町の中に住まわせればいいだけだ。そういえば、司祭がいないのも代官、島の風習でそちらから拒否されていると聞いた覚えがあるが。それはどうなのだ?」


「島の聖霊教会の司祭は、代々定められた一族がその地位についております。それはこの島が王国の一部となるさいに取り決められた事。いくら領主様といえど、口を挟んでいい事ではありません」


 ふん、とアルバートは嫌らしく口を歪める。


「その司祭の一族はどうした。今、その座が不在なのはどういうわけだ」


「前の司祭が死んで、残されたのは娘が1人でまだ子どもなのです」


「いくつだ」


「7歳です」


「司祭になるのはまだ先だな。あの子どもと同じ年となれば、それまで放置というわけにもいくまい。領都の聖霊教会で保護するのになんの問題がある」


「ですから、あの子どもは我が島民であり……」


 代官がさらに言い募ろうとするのを、アルバートはじろりと睨んでやめさせた。

 いいかげん、面倒になってきたためだ。


 そろそろ、難癖をつけて切って捨てたほうが王国のためにも領民たちのためにもいいのではないかという気がしてきた。

 もちろん、1番は自分のためだが。



「代官殿はずいぶんあの子どもの事を気にかけているようだな」



「え、ええ、それはもちろん……」


「おかしなものだ。賊を捕まえたというのに、その事については最初に挨拶で触れた程度。にも関わらず、先ほどから話すのは孤児の子どもの事ばかり」


「それは、我が島民が連れ去られようとしているのですから当然です」


「崖から落ちて死んだと処理されていた子どもがな。しかもその言いようでは、まるで我らが人攫いのようだ」


「い、いえ、そんなつもりは」


「賊を捕まえた事を感謝されるならまだしも、領主を賊扱いとは……いやはや。どう思う? ランディ」



 ドアのそばで控えていた部下に話を振ると、さすがというべきか、彼は直立不動の姿勢を取ってアルバートの欲しい答えを返してきた。


「はっ! 代官殿は領主様に対して叛意ありやと懸念いたします!」


「はっ、叛意などとそのような事は決して!」


「ではなんだ。救われた他の子どもたちの事は口にせず、死んだならそれでいいとばかりに放っておいた子どもの事ばかり話して仕事の邪魔をする。こちらはすぐにでも領都へ立ちたいというのに」


「それは……!」


 分が悪いと見て取り、代官は上げかけた声を抑えて続けた。


「申し訳ありませんでした……。島民の事を心配するあまり、領主様に対し失礼な対応となっていたようです……」


「分かってもらえたなら何よりだ。司祭も含め、教会の状況が改善されない限り、ダラントでの孤児院の経営を禁じる。改善の中には当然、教会の守備隊などの周辺環境も含む。以上だ。励め」


「はい……」


 代官が悔しそうにしながら船室を出て行こうとするのに、「ああそういえば」とアルバートは声をかけた。


「なんでしょう」



「代官殿は当然、若い時分に王都の学園で学ばれていただろうな」


「ええ、まあ」


「代官殿の年齢であれば、レオナルド殿下についてパルフュリンダへ留学された経験があるのではないか?」


「ええ、もちろん。ご同行させていただきました」


 得意そうな笑みを浮かべる代官に、アルバートは何度もうなずく。


「遠くパルフュリンダとの国交が結ばれた、記念すべき最初の交換留学であったからな。あちらの言葉は独特で、多くの貴族が苦労したとか。代官殿はいかがだっただろうか」


「ええ、わたしは幸い……」


 いいかけて、はっとしたように代官の顔がわずかに青ざめる。


「幸い?」


「……幸い、知人に語学に堪能な者がおりまして。その者に随分と助けられました」


「なるほど! 持つべきものは頼りになる知人友人というわけだな!」


 ははは!


 アルバートが笑って見せると、代官は小声で「そうですな」と返してそそくさと退出していった。




「良かったんですか?」


 代官が十分離れた頃合いで、ランディがアルバートに問いかける。


「何がだ」


「代官ですよ。感じの悪い人物に違いはありませんが、あからさまに敵視されるような対応をしなくても良かったのでは?」


 ふん、とアルバートは鼻を鳴らす。


「あの男は気に食わん」


「はあ」


「パルフュリンダにはわしも同行していてな」


「そういえばそうでしたね」


「貴族が使用人や奴隷、時には平民を罵り、鞭打つ光景が当たり前のように街中で見られた。王子殿下の前では取り繕っていても、他国の目がないと思っている場所ではそうではなかったな」


「はあ」


 この話はどこへ続いているんだろうと思いながら、ランディは相槌を打つ。


「上が下を虐げれば、下はさらにその下を虐げる。下にいくほど言葉は汚くなる。その有様はどちらも同様に醜いものだが、いわゆる下町や悪所でそういった時に使われる言葉、それをよく耳にするうちに覚えてしまったものだ」


 なるほど、とランディはもう一度大きくうなずく。


「悪い言葉というのはなぜか覚えやすいですからね」


「ああ。そうだな。全く持ってそうだ。きっとあの男もそういった言葉を覚えていることだろうな」


「ええ、きっとそうでしょうね」


 案内される場所以外へ出入りしたならば、だが。

 アルバートなら仕事の一環であちこちを見て回っただろう。

 ではあの代官はどうだろうか?


 考えて、酒場や娼館などには案内がなくても顔を出すのが普通だろう、と想像する。


 楽しむにしても情報を集めるにしても、そういった場所へ出かける理由には事欠かないものだ。


 アルバートの言いたい事がいまいちよく見えないながら、ランディはやはり上司に合わせてうなずいたのだった。











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