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部下の報告 ②

先ほど、間違えて違う回を投稿してしまいました。

大変失礼致しました。

「きれいな子だろうとは思っておりましたが、先々が心配になるほどきれいな子でした」



 アルバートにそう報告してきたのは、領都から一緒に連れてきた女騎士だ。


 島へ向かった連中の目的が女子どもを誘拐する事だと聞いていたため、女性の騎士や侍女を多く同行させていたが、そのまとめ役から伝えられた内容を、アルバートはあまり興味もなく聞いていた。


 依頼があって気量の良い娘や女児を探していたそうだから、見目が良いのは当然だろう。

 それはわざわざ報告する事なのかと、少しばかり頭が痛い。


 今更報告の内容にケチをつけるほど、部下の育成に問題があるとは思いたくない。


 普段はもう少ししっかりしているはずなのだが、やはり小さな子どもが誘拐されたのを目の当たりにして動揺でもしているのだろうか。

 いや、こいつはそんなに繊細な人間ではなかったはずだ。



 アルバートが部下にそんな失礼極まりない評価を下していると、侍女の1人が子どもを連れて部屋へ入ってきた。


「失礼いたします。さ、挨拶して」


 泣いて赤くなった目に、おどおどとした様子で口を開こうとする子どもを見て、アルバートはなるほどとうなずく。

 アルバートには幼女趣味などないが、客観的に見て驚くほどきれいな顔立ちの子どもだ。

 


「普段は髪も梳かしたりせずにぐしゃぐしゃで伸ばしっぱなし、それで顔を隠すように言われていたそうです。なんという事を、と怒りを感じていましたが、今は、身寄りのない弱い立場の子どもを守るための手段が他になかったのでは、という気がいたします」


「そうだな」


 管理人の女は子どもに同情的であったそうだ。

 そういう事もあるのかもしれない。



 どうという事のない平凡な茶色い髪が、子どもの柔らかなグリーンの瞳と合わさる。

 するとどういうわけか、新緑の季節に芽生えたばかりの若葉を宿す、木々の優しげな幹色に見えてくる。



 整った目鼻立ちは上品で、子どもらしく庇護欲を刺激するものだが、将来はその身柄を欲して争う者が後を絶たないだろう。

 だがそれはその心を得んとしてではない事が、孤児であることから容易に想像できた。



「娘」



 アルバートは、できるだけ優しく聞こえるように声を出す。


「島の聖霊教会には司祭がいない。そのため、お前の身柄はわたしが一旦預かり、領都の聖霊教会へと連れていく。何か不都合はあるか?」


 そんな事こんな小さな子に言っても、と、周囲のいく人かは目を閉じ、天を仰いだが、本人はいたって真面目だ。

 小さな子どもでも当人なりの意見はあるだろうと返事を待つ。

 すると子どもは床を見ながら手をいじりながら、ぼそぼそと言った。


「ハンナに会いたい」


 アルバートは顎を撫でてうなずくと、そばに控えていた騎士に確認する。


「ハンナとは誰だ」


「聖霊教会の管理人ですね」


「よし、手配しよう。他にはないか?」


 ふるふる、と無言で首を振った子どもを侍女とともに下がらせると、アルバートは再度騎士に訊ねる。


「あの子の両親については何か残っているか」


「ええ。父親は生まれる前に嵐で死んで、母親もあの子が1歳のときに死んだそうです。父親が訳アリで、島内の別の村から追い出されてきたらしいですよ」


「それだけか?」


「それだけですね」


 ふむ、とアルバートは目を細めた。


「鄙には稀な、とはよく言うが、そんな事が本当にあるものなのだな。まあいい、そのハンナとやらと面会させてやれ。できる限り早く領都に戻るぞ」


「分かりました」


 出て行こうとした騎士を、アルバートはそういえば、と引き止める。


「髪で顔を隠して目を引かないようにしていたのに、あの子はどうして攫われたんだ?」


「なんでも、島に着いたその日に教会に来て、『売り物になるかどうか分からんが攫っとこう』と思ったんだそうです。代官の息子に追いかけられて、見た目も大事にされてない様子だったので、攫っても騒ぎにならないだろうと考えたようで」


 ああ。


 アルバートはため息をついた。

 容姿を隠すための細工が、悪党を惹きつける結果になる。

 結局は、ああいった連中というものは、どうやっても弱者の匂いを嗅ぎつけるものなのだろう。



 報告書には多くの痣や傷跡があったと書かれていた。

 昨日今日ではない、長年に渡っての虐待が考えられると。


 おそらく管理人ではない。

 もしそうなら会いたいなどとは言わないはずだ。



「嫌な話だな」



 つぶやいたアルバートに、騎士は「全くです」と同意した。










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