1
「あ、あれ……ここはどこだ?」
俺は気付けば知らない場所にいた。
周囲一面が真っ白の謎の部屋だ。
当然こんなところに来た覚えはない。
「おお、ようやく気づいたか、待ちくたびれたぞ」
と、そこで声がかかった。
見上げてみれば、そこにはほのかに光を醸し出すおじいさんがいた。
「あ、あなたは……」
「儂か? 儂はじゃな、おほん、驚くでないぞ。儂はなんと神じゃ」
神様……だって?
「あの、ここは一体……?」
「うむ、まぁここは俗にいう天国じゃな。まぁ正式には儂が作り出したただの仮想空間なのじゃが、お主の頭でもわかるよう噛み砕いた言い方としては天国で問題ない」
天国だって……ちょっと待って、ということは俺は死んだのか?
俺は自分の記憶を探ってみる。
そう、俺は確か通ってる高校からの帰り道を歩いていて……そこで……
「だめだ、思い出せない」
「お主は地球にて死亡した。雷に討たれてな」
「え……雷……?」
そんなの考えてもわかるわけがなかった。
雷に撃たれるとか本当にあるんだ。
「まぁ付いてなかったの。まぁじゃがこれに関してはこちらが謝らねばならん」
「どうして、ですか?」
「それがじゃな……」
神様は途端に困った顔になった。
「実は儂にも上司と呼べる存在がおってじゃな……そのお方がちょっとばかしぱーっと暴れてしもうてのう。あれほど飲み過ぎは良くないと進言したのに……」
「え、じゃあ僕は神様の上司さんのご乱心に触れてしまったと……?」
「そういうことじゃのう。と言ってもお主に非は一切ないがの。だからこそ本来は死んだ人間をわざわざ呼び出したりはせんのだが、一応お詫びをしたいと考えてじゃな……本当にすまんかった」
そうしておじいさんは頭を下げてきた。
「い、いや、別に神様が謝ることじゃ……」
「これは連帯責任なのじゃ。肝心のやらかした者がおらんくて大変申し訳ない。その方いわく『直接会ったら気まずいだろ』ということでの」
そりゃあ多少は気まずいだろうけど……それはしょうがないんじゃないか? 大丈夫なのかその人も神様なんだろ?
「まぁ本当に気にしてないので大丈夫です。ミスは誰にもありますよ」
「そう言って貰えるとありがたい。もちろんタダ謝まるだけで済むとは思うとらん。先程も言ったがぜひともお詫びをさせて貰えんか?」
「お詫び……ですか?」
なんだろう。神様からのお詫び……
「うむ、それなんじゃがな、えーっと、前回の記録でいくと……すまんな儂もこういうパターンは初めてであんまり慣れておらんのじゃ。前回は……二十七年ほど前に似たような事例があるの。その時は二択で選ばせたようじゃな」
何やらぶつぶつとどこからか取り出した本を見ながらつぶやく神様。
「よし、もう儂もこれでいこう。ええと、お詫びの件じゃが、とりあえずお主を生き返らせてやろうと考えておる」
「ありがたいです」
「しかし残念じゃが、地球にてそのまま復活! という訳にはいかんのじゃ。これは規則でそう決まっておっての」
そうなのか……まぁ死んだ人が生き返りましたとかなってもだいぶ変だしな。名残惜しくはあるけど、地球にそこまで仲良しな友だちがいたわけでもないし……まぁ親とかは悲しんじゃうだろうけども。まぁそこはもう諦めて貰うしかない。
「よって、お主は『地球にて別の人物として転生』するか、『別の世界に自分として転生』するかどちらかを選ぶことができる。前者の場合は当然元の記憶はなくなり、新たな個体として赤ん坊から生まれ変わる。その際運のパラメータはぐーんと上げといてやろう。逆に後者の場合、こちらは現在のお主の記憶が保持される。その代わり生き返る世界は見ず知らずの異世界じゃ。どちらにするかの」
えぇ……いきなりそんなこと言われてもな……。
まぁ無難なのは地球に転生することなんだろうけど、俺の記憶はなくなっちゃうんだろ? それってもう俺とは言えなくないか? 個人的にはそれは微妙に思えちゃうな。となると必然的にもう片方ということになるわけだが……
「その異世界というのは、どんな世界なんでしょうか」
「おお、たしかにそれは大事な情報じゃの……ええと、前回はどうやら死亡した者の希望を聞いたようじゃの。色々試行錯誤した跡があるわい……結構めんどくさい奴じゃったぽいの……おほん、一応前の者が選んだ世界だと、かなりファンタジーチックな世界観になるの。アシェロンという世界なのじゃが、様々な種族が入り乱れて暮らしておるなかなかに珍しい世界じゃな。特徴的なのは魔力という元素が空気中に溶け込んでおることか、生物はそれを用いて魔法を行使することができる……らしい」
「らしい?」
「わ、儂の管轄外の世界なのじゃ……世界はこの世に無数にあるからの。全てを把握することなど不可能なんじゃよ……」
まぁなんにせよそんな世界があるらしい。魔法か……要するにあれだろ? 爆ぜろ炎! 我が意志の元に! ……的なやつでしょ。うん、別に俺厨ニじゃないけどさ。そうだな、いいんじゃないかな。魔法って凄く楽しそうな気もする。
「例えばなんですけど、僕がその世界に転生するとして、魔法とか使えたりするんですか?」
「む? そうじゃの。望みとあらば行使できるような力を与えても良いが」
「そうですか……」
「じゃがあまりに強大な力は上に却下される可能性がある。前回のやつも欲張って弾かれとるの。世界にも秩序というものがあるのじゃ。結局はそこまで強大な力は与えられんと思うが、それでも構わんかの」
うーん、どうしようかな。まぁ転生させてくれるだけありがたいし、どうやら魔法は使えるってことだから何だって良いか。それだけあれば十分でしょ。
「じゃあそれでお願いできますか? 僕も地球ではなくてその世界に転生ということで大丈夫です」
「そうか、それは話が早くて助かるの。お主はめんどくさくないようじゃな。アイスの当たり棒のようなものじゃ。ほう」
一安心と息を吐く神様。
そうして俺は異世界に転生することになった。