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21、修道院ではなく

「どうぞ、なかへお入りください」

 

 ジークさまが、扉を開いて勧めましたが。おばさまは首をふりました。


「いいえ。結構です、ここで。私が入れば、モニカまであなたの家に入ることになります。それはなりません、私が許しません」


 きっぱりとした口調でした。

 そしておばさまは、モニカに向きなおったのです。


「モニカ。よくもローゼンタール家を、こうも滅茶苦茶にしてくれましたね」

「おばさま」

「あなたにおばさまと呼ばれる筋合いはありません」


 おばさまの言葉は鋭く、モニカはすがろうとした手を宙でとめました。


「新聞を見たのね」

「新聞? ああ、とうとうかぎつけられたのですか」


 おばさまのほうが、記者に先んじて動いていたようです。


「国外に流出したローゼンタールの家宝については、こちらで追跡します。オークション会社に問いあわせれば、誰に売られたかわかりますからね。ああ、もちろん買い戻すためのお金は、あなたとデニス・テルメアンが支払うのですよ」


「そんなっ。私はなにも」

「あなたの配偶者がしでかしたことです。それにあなただって、母親の宝石を売り飛ばしたのではなくて? モニカ、あなたがローゼンタール家を軽んじたから、デニスを増長させたのです」


「私のせいだっていうの?」

「当然でしょう? いまさら被害者ぶってどうするんですか」


「もうデニスはいないわ」

「大丈夫。私の夫の人脈をたよれば、行方はすぐにわかりますし、連れ戻されますよ。よかったわね、姉から奪うほどに愛している夫でしょう?」

「あんなやつ、愛してなんて」


 おばさまは、目を細めてたいそう優しい笑みをうかべました。


「あらあら。デニス・テルメアンは、あなたが子どものころに、クリスタから奪ったお人形ではないのよ。神の御前みまえで永遠の愛を誓ったのでしょう?」

「……おばさま」

「安心なさいね。かならず見つけてあげますからね」

「いまさら……会いたくもないわ」


 モニカは地面にへたりこんだまま、わたしを見あげてきました。

 今にも泣きそうに瞳をうるませて、唇をかみしめています。


「お姉さまは、わたしを見捨てたりしないわよね。だってお優しいもの」


 そのとき、わきあがった感情をなんと名づければいいのでしょう。

 たしかに幼いころは、モニカもまだ素直で、わたしの後をついて歩いていました。


 けれど、彼女との思い出の大半は、さげすんだ目と半笑いでわたしを馬鹿にする姿です。

 わたしのものを奪い、両親にとがめられれば嘘泣きをして、妹である自分は可愛がられていないのだと主張する。

 誰も手がつけられなくて、結局あきらめるしかなかったのです。

 

「モニカ。あなたはわたしを優しいなんて思っていないわ」

「そんなことないわよぉ」


 急に発せられた猫なで声は、彼女がデニスに取り入っていたときと、おなじ声でした。


「いいえ。騙しやすくて愚かな姉だと思っているわ。ずっと愚鈍だと侮ってきたわね」


 突然、モニカがわたしを睨みつけ、立ちあがったのです。

 いつの間に握っていたのか、手にはこぶしほどの大きさの石。

 わたしの顔めがけて、石が投げつけられます。

 手で顔を覆うひまもなくて、とっさに瞼を閉じました。


 鈍い音がして、それでも衝撃は訪れませんでした。

 恐る恐る目を開けると。ジークさまの腕が、わたしの顔のまえにあるのです。石は足下に。

 彼が、わたしを守ってくれたのだと知りました。


「俺が今、剣を持っていなかったことに感謝するんだな。たとえクリスタの身内であろうとも、その手を斬っていたからな」

「な、なによぉ」


 顔をくしゃくしゃにして泣きだすモニカ。

 誰も彼女をなぐさめることはありません。

 おそらくこの先も。


「どうせ、私を修道院にいれるんでしょ」

「まさか」


 おばさまは肩をすくめて首をふりました。


「こんなにも品がなく、礼儀を知らない娘が子爵家の人間などと恥以外のなにものでもありません。神さまだって、願い下げでしょう」

「じゃあ、どうしろっていうのよ」


「そうね。身分を隠して、郷紳ジェントリの女中にでもなって、いろいろと学んだ方がいいわね。夫の弁護士仲間にジェントリ出身の人が何人かいるので、あたってあげましょう」

「ジェントリって、いやよ。どうして下の人間に仕えないといけないのよ」

「あなたという人間が、貴族という身分に値しないからですよ」


 今度こそ本当に泣きだしたモニカを立たせて、おばさまとリタは去っていきました。


「屋敷と家宝を取り戻したところで、モニカや私の仕打ちが帳消しになるわけではありません。クリスタ、つらい思いをさせましたね」


「私は万事、せわしないわね」とおばさまは肩をすくめました。


 立ち去るときにリタが手渡してくれたかごは、たっぷりとした重さがありました。

 かぶされていた白い布をめくると、かごの中には麻の寝間着や下着、それに清楚なブラウスやスカートが入っていました。


 裁縫の得意ではないリタが、針で指をさしながらも、わたしのために縫ってくれたのでしょう。そして、ここに届ける途中でモニカを見かけたのでしょう。


「ありがとう、リタ」


 リタの靴が土で汚れていることに、わたしは気づきました。

 きっと無我夢中で、おばさまのお屋敷まで駆けてくれたにちがいありません。


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