第八話 「思い出の女」
「(犯人は、女------....)」
"ボスッ"
「(・・・・)」
殺害現場の"巻き戻し"を行った後、
鮎人は地下1Fにある船内の自室へと
一反引き返し、ベッドの上に寝転がると
自分の顔の横に置かれていた白いカバーが付いた
枕の上に頭をもたげながら船室の低い
天井を仰ぎ見る------
「(あの映像-------)」
"ボスッ"
「(まさか、な...)」
まるで、現実に居合わせたかの様に
再現された犯行現場の中井出の姿にも驚いたが、
それ以上に、鮎人はイが作り出した
3Dモデリングの"犯人"だと思われる
立体映像に、何かよく分からない
不安の様な事を感じていた-------
「(・・・・)」
"有り得る訳が無い"
「(そんな事-------...)」
一瞬、3Dの立体映像に鮎人はどこか、
昔に出会った"女"の事を思い浮かべるが、
「(・・・・)」
考えても仕方が無い事だと思い
目の前の"事件"に意識を向ける...
「(もしかしたら俺は
"そうあって欲しい"
そう思ってるのかも知れないな....)」
"ボスッ"
「(今までの殺人-------....)」
寝そべったまま顔を横に向け
自分が横たわっているベッドの
マットレスを軽く叩くと
今までの事件を思い返す------
【ま、また人が死んだのか-------】
【こ、これで何人目だ-------??】
「(まさか、また俺の周りで
また人が-------)」
"ボスッ"
【お、おい、これからどうなるんだ------??】
【こ、この中に
犯人がいるってんじゃないだろうな-------...】
「(・・・・!)」
"ボスッ!"
「(それは、無い------..!)」
"ザアアアアアアアアァァァァ--------
鮎人がベッドから体を起こし、
頭を預けていた枕を壁に投げつけると、
その枕カバーの中身のビーズ状の粒が
狭い、室内の床の上に撒き散らされる
「(・・・・)」
"手掛かりがあり過ぎる"
「(VR-------....)」
【じゃ、じゃあ、そのイが使ってる
VRの映像で、犯人が分かるかも
しれないってのか!?】
【だったら------!】
「(・・・確かに、あのイの撮影した映像で
犯人の姿は、何となく
浮かび上がって来たが-------...!)」
【な、何だ!? それで犯行現場が
再現できるんだろ!?
だ、だったら------!】
【・・・犯行現場が
"巻き戻し"できるとは言っても、
ある程度そこまで高くない精度で
再現できるだけで、実際に犯人の顔だとか、
犯人が誰かなのかはそこまで正確には
分からない------】
【じゃ、じゃあ-------】
「(・・・今までの犯行現場の
"巻き戻し"で分かったのは--------)」
"犯人は非力、そして小柄な人物"
「(って事は-------....)」
"犯人は女"
「(・・・・)」
今まで、既にいくつか起きた犯行現場の
逆再生、そして現場周辺に落ちていた
証拠品によって鮎人、そしてイは
多くの犯行に関わっている人物が
小柄で非力な人物、そしてそれが
"女"では無いかと考えていた-------
「(だが・・・・)」
そもそも、正確に現場を再現できているのか、
そして、仮に殺害現場を
鮮明に再現できていたとしても、
犯人が女性だとするなら、この船に乗っている
RS芸能事務所の所属タレント、そして
女性スタッフ達には
全員、"アリバイ"がある--------
「(・・・・!)」
"ガタッ!"
「(だったら-------)」
何か、自分の頭に有り得もしない
非現実的な考えが過り、鮎人は座っていた
ベッドから起き上がり、
船室の円い窓の側に立つ-------
【あ、アレ-------!】
【お、おい! 鮎人!?】
「(まさか-------....)」
"ガチャッ"
「あ、鮎人さん--------」
「澪-------....」
頭に浮かんできた"犯人"
その考えを打ち消そうと鮎人が
窓の外の波間を眺めながら気を落ち着けていると、
部屋の外から鍵の掛かった室内で
部屋を分けて別の部屋に泊まっている
吉川 澪が、鮎人の部屋の中へと入って来る
「-----....」
「・・・・」
"スッ"
普段の日常では起こり得ない様な事件が
次々と起きた事に、どこか
意識が定まらないのか、澪は
窓の側に立っている鮎人に見向きもせず
そのまま鮎人のベッドの上に腰を下ろす------
「・・・・」
「・・・鮎人さん...」