第三十四話 「背崖(はいがい)」
「い、いや....っ!
は、犯人は女だって------...」
「それも、関係ない事だ....」
鮎人が何とか咲茉、そして小澤が
犯人だと言う事を必死な表情で孫に伝えるが
イの言葉を聞いて冷静になったのか
孫は淡々とした表情で鮎人を見下ろす
「だから、
"女"、がどうだとか、"密室"が
どうだとか言う以前に~、その人間が
犯人と同じ時間に~、犯人と違う場所にいたら
そんなの"密室"だとか"密室じゃない"だとかは
関係ないじゃない~」
「・・・あ、でも-------
"スッ!"
「孫さん-------...!」
「イ~...」
「何です、孫社長?」
鮎人が孫に向かって反論染みた
言葉を返そうとするが、孫は
鮎人に視線も向けずその前を横切ると
ステージ上に立っているイを見上げる
「確かに、咲茉、小澤が犯人じゃ無いのは
分かったけど....」
「そうでしょう?」
「(・・・・!)」
何故か鮎人がイに目を向けると、
イはこちらに向かって嘲る様な表情で
軽く笑っている様に見える
「(こいつ-------...)」
"始めからこうなる事が分かっていた"
「(どう言う事か分からないが...)」
瞬間、イがほんの少しだけ見せた
歪んだ表情に鮎人はそれを感じ取る
「別にそんな難しい事は無いです」
「-------??」
まるで答えが浮かばないのか、孫は
食い入る様な目つきでイを見る
「先程、孫社長が仰った様に、
我々RS事務所のスタッフ達は
事件が起きた後、常に一緒に行動していて
犯行を行える様な時間は無かった-------」
「な、何かトイレとかそういう時間を使って
ろ、ロープのトリックを使って、
伊坂の部屋に入り込んだとか・・・」
「・・・・」
「・・・!」
鮎人の推理にまるで
軽蔑した様な表情を見せると、イは
その言葉に取り合わず更に言葉を続ける
「まあ、そんな事ももしかしたら....
できたのかも知れないが、それは
正直現実には有り得ない話だろう。
トイレの時間の十分やそこらの時間を使って
伊坂の部屋にロープを使って忍び込み、
女の二人が男の伊坂を殺した後に
すぐに事務所のスタッフ達がいる場所まで
戻って来る....」
「ふ、二人でやれば------」
「あ、鮎人、アナタ------っ!」
「・・・・!」
暗がりにいるのでよく分からないが、
鮎人が咲茉、小澤が犯人だと言う事に
こだわりを見せていると小澤が
怒気を含んだ声で鮎人を叱責する
「だが-------」
「だが・・・・?」
「・・・・! 孫さん...」
すでに鮎人の言葉よりイの言葉の方が
事件の解決に重要だと思っているのか
孫は鮎人からイに視線を移す
「・・・全員が同じ部屋で固まって
行動していたとは言ったが....
その固まっていた事務所のスタッフ達と
行動してなかった人間がいた筈だ....」
「ま、まさか------!」
「そう、それは、俺達だ....!」
「・・・・!」