第二十二話 「嘘と偽り」
「・・・でも...」
「何だ? 咲茉?」
映像解析から導き出された
伊坂の部屋のバルコニーに掛けられていた
縄の事を鮎人が口にし、
伊坂が他殺である事を伝えると
事務所のスタッフの中から、咲茉が進み出て来る
「・・・もし、鮎人さんの仰る通り
伊坂さんの部屋の手すりに
縄がかけられていたとしても、
それが事件を解決する事には
ならないと思うんですけど....」
「・・・・」
何か、以前の幼い雰囲気から
少し冷たさを感じさせる様な態度の
咲茉の言葉を聞いて、鮎人は思わず
ステージの下にいる顔のよく見えない
咲茉を見下ろす
「------どう言う事だ?」
「い、いえ....」
咲茉、は隣にいた
ディレクターの原に話しかけられると、
少し戸惑った様な様子で
周りの顔を確認する様に見渡しながら口を開く
「いえ...ごめんなさい....
特に、私が言う事でも無いかも
知れないんですけど...」
「------澪、言ってみろ」
「あ...それなら....」
普段はあまり強い口調で自分に話し掛けない
孫が口を開いたのを見て、咲茉は
ステージ上の鮎人を見上げる
「・・・鮎人さんの仰ってる事だと、
伊坂さんの部屋が密室でない-------、
そう仰っていますが、それと
伊坂さんがお亡くなりになった事は
特に関りが無いのでは...?」
「・・・何でだ?」
「そもそも、今回伊坂さんが
お亡くなりになられて、一番おかしな所は
"この部屋にいる全員にアリバイがある"
その様な事ではありませんか?」
「・・・・」
「伊坂さんの部屋が密室、
又はそうではないとしてもこの部屋にいる全員に
同じ部屋にいたというアリバイがある以上、
伊坂さんが自殺か、他殺か...
その様な事が問題なのでは無く
"犯行が可能だった人物が誰もいない"
その様な所が問題なのでは
ないでしょうか-------」
「・・・確かに...」
一見、鮎人の推理に、何か重大な
事実があったと思いかけた孫は、
冷静な態度を見せている咲茉の一言に
感心した様な表情を見せる
「------確かに、咲茉の言う通り....」
「じゃあ、誰が犯人だとか、
全く関係ないんじゃないか?」
ADの三浦が飽きれた様な表情を浮かべながら
鮎人を見る
「ただ、そんな事は問題じゃない...」
「では、一体何が問題だと言うのでしょう-------」
「・・・・」
"スウウウウウウウウゥゥゥゥ--------....
「手すり・・・」
鮎人が、イに何かを指示したのか
今度は鮎人の前に浮かび上がった別の窓枠の中に
拡大された手すりの部分が浮かび上がる
「その手すりの高さ------」
「な、何だ?」
「手すりの高さがどうしたの!? 鮎人!?」
「(・・・・)」
村上は、鮎人の目の前にある手すりを見上げる
「・・・今回の事件の犯人は、
女である可能性が高い-------」
"コッ コッ コッ コッ--------
「・・・・!」
鮎人の一言にホールの中にいる
女性スタッフ達の視線が一斉に鮎人に向かう
「あ、ああ、状況から考えると
どうやらそうみたいだが・・・」
「・・・・」
周りのスタッフ達の視線が、鮎人から
自分達の周りにいる
村上、咲茉、澪、そして
副社長である小澤に向かう
「伊坂さんは手すりから
突き落とされた....」
「そ、それがどうしたんだ?」
「・・・つまり....」
村上は、あせった様に自分に話しかけて来る
原の言葉を無視して、まるで台本の様な口振りで
今までのVR映像の情報から
浮かび上がったかなり確かな
"推測"を全員に伝える
「・・・もし、伊坂さんの部屋が
密室では無く、誰か犯人...
え~.... "犯人"の様な物が
出入り出来たとしたら...
...えぇと...その、"犯人"は
この高い手すりを越えて
体の大きい伊坂さんを抱えて
手すりの上まで伊坂さんを
持ち上げなければならなかった------」
「あ・・・」
「じゃ、じゃあ-------」
「い、伊坂は....っ」
全員の視線が村上からステージ上の鮎人に向かう
「そう... 今回の犯人が女性だとすれば、
伊坂さんをこの手すりの上まで担ぎ上げて
デッキの下に突き落とす事は
かなり難しい筈だ...」
「でも、伊坂を担ぎ上げるには、女一人の力じゃ、
無理なんだろ?」
「じゃ、じゃあ....」
小澤が、鮎人を見上げる
「そう、犯人は男、もしくは
"複数"って事になるんですよ....っ!」
「・・・!」
「は、犯人が男?」
「それか、"複数"....?」
「・・・・」
ザワ
ザワ
ザワ
「そうです-------」
「犯人が、男、それか、複数------....」
「(----------....)」
ザワ
ザワ
ザワ
"タンッ!"
「・・・・!」