第二話 「RS芸能事務所」
「-------鮎人さんっ」
「澪・・・」
"ザアアアアアアアアァァァァァ...."
「------どうかしたんですか?」
「・・・いや...」
「鮎人さんはみんなの輪に
加わらないんですか...?」
「・・・・」
流れる澪の作る飛沫を目にしながら、鮎人が
オーシャニア・クルーズの船の端にある
手すりに寄りかかりながら海を眺めていると、
後ろから自分が所属している事務所の
新人アイドル
"吉川 澪"
が明るい笑顔を見せ、こちらに話しかけて来る
「あっ、もしかして--------」
「・・・・」
澪は、鮎人が浮かない表情を浮かべているのを見て
その顔を覗き込む様に
まじまじと鮎人の顔を覗き込む
「"楽しくない"って思ってません-------?」
「・・・そんなんじゃない」
「あっ だったら-------....」
「・・・・」
「もしかして、今回の、VRゲーム、
あんまり面白くないと
思ってるんじゃないんですか?」
「・・・」
「...すごいですよねー 船内の全部の場所を使って
そこをVRゲームの舞台にするなんて・・・!」
「(VR・・・)」
"VR客船・オーシャニアクルーズ"
「(孫社長も、何を考えてるかは
分からないが...)」
今回、鮎人達が乗る、この旅客船
オーシャニアクルーズでは
鮎人が所属するRS芸能事務所の
貸し切りになっており、
その代表取締役社長である
"孫 誠一"の思い付きの提案によって
このオーシャニア・クルーズの船上で
VR空間を使った、何か宝探しの様な
イベントを行うらしい...
「何でも、そのVRゲームで
出されたターゲットをクリアすると、
すごい賞品とかもらえるみたいですよっ!?」
「あまり興味ないな...」
澪が明るい表情で鮎人に語りかけるが
普段の仕事で面倒事ばかり押し付けられている
鮎人には、そのVRゲームとやらに
特に魅力を感じない
「え~っ だってこんな大きな船貸し切りにして
やるくらいのゲームだから、
ぜ~~~ったい、スゴい賞品に
決まってますよ!
もしかしたら、仮想通貨百万円分だとかっ!?」
「・・・・」
「よ~し、頑張るぞ~??」
「(・・・子供だな....)」
「あ、み、澪さん-------」
「咲茉-------....」
澪、そして鮎人がこの船の中で行われる
"ゲーム"について話をしていると、
少し離れた場所で事務所の仲間たちと歓談していた
同じRS芸能事務所の新人D-Tuber、
"指々首 咲茉"
が鮎人、澪の側までおずおずとやって来る
「も、もしかして-------...??」
「--------何?」
咲茉が、なにか臆病そうに話し掛けると
澪の表情が不機嫌そうな表情に変わる
「い、いえ-------...」
「だったら話しかけて来ないでよ」
「・・・おい、澪...」
「えーっ 何ーっ!?
鮎人さーんっ コイツの肩持つの!?」
「そう言う訳じゃないが・・・」
「いえ...
私なんか所詮、澪ちゃんと比べたら
全然ダメって言うか-------...
存在価値なんて無いですモンね-------」
「・・・・」
澪が、キツい言葉を浴びせると
咲茉は申し訳なさそうに澪、そして
鮎人の顔を覗き見る-------
「・・・手だって」
「・・・?」
鮎人が普段から何かと揉めるとまでは行かないが、
いつも口論に近い感じで話をしている
二人に表情を硬くしていると
隣にいた澪が小声で鮎人に耳打ちしてくる
「・・・あんな、何か
「私、何もわかりませーん...」
みたいな顔してるけど、
あれ、いつものアイツの手っしょ?」
「・・・・」
「そうですよね・・・ 私の存在価値なんて
この事務所では0(ゼロ)所か、
マイナスに等しい存在ですもんね...
分かってます....」
「(・・・・)」
"指々首 咲茉"
「(おかしな時代だ--------)」
澪と同じく、このRS芸能事務所に所属する
アイドルの一人だが、一昔前のアイドルとは違い、
この咲茉は、やたらと卑屈で、まるで男に媚びる様な
態度が周りに受けている様だ
「(・・・・)」
ふと、鮎人が申し訳無さそうにしている
咲茉の手首を見ると、そこには何か、
"傷跡"の様な深い痣が見える--------
「私なんて、所詮ただの
雌奴隷にしか過ぎませんから--------...
・・・こうやって皆さんの慰みに
少しでもなってれば、
私は、それだけで、
十分なんです--------....」
「アンタ、何っ!? ソレ?
また男に媚びてんのっ!?」
「そんな事-------...」
「おいっ 澪--------」
「孫さん---------」
"ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ"
「何だ-------澪~、咲茉虐めちゃダメだよ~」
「・・・え~でも~」
「孫さん--------」
「おっ 鮎人~ 頼むよ~」
「・・・・」
澪、そして咲茉が何か険悪な雰囲気で
言い争いをしていると、
向こうにいた事務所の同僚の輪から、
何か、体格だけは立派だが
その体格とは見合わない様な
情けない態度と顔つきをした男が
鮎人、澪、咲茉の三人の元までやってくる
「鮎人~ 頼むよ~...?
マネージャーの仕事ってのは、
事務所の"仲間"の輪を、
広げる事にあるんだよ~」
「あ、ああ、ハイ--------」
孫、は鮎人が澪と咲茉に何もしないのを見て、
鮎人に向かって間の伸びた声で
話し掛けて来る
「マネージャーってのは、その名前の通り、
"管理"するのが仕事な訳じゃない~??
・・・鮎人~ ちゃんと、
仕事やってこうよ~」
「あ、ああすいません---------」
「・・・頼むよ~」
「(・・・・)」
"ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ...."
そのまま孫は鮎人達に背を向けると、
氷と酒が詰まったクーラーボックスを手に
ガシャガシャと言わせながら、
再び事務所の輪の中へと戻っていく--------
「孫さん------、私みたいな、卑しい雌奴隷に
そんな言葉を掛けてくれるなんて--------」
「・・・ダメだ、コイツ。」
「(・・・・)」
"ビュォォォォオオオオオオオオオオオオ"
「・・・ッ!」
「あ、風-------」
「(・・・・)」
夕暮れから、夜へと差し掛かり、
RS事務所の一行を乗せた
オーシャニア・クルーズは
撮影の現場である無人島を目指して、
心地よい風の吹きつける
海の上を進んで行く--------
「------私なんて、存在価値、
"無い"
ですから-------....」
「(・・・・)」