第十七話 「謎の女」
「・・・あっ!」
「------どうしたんだ?」
「そう言えば------、!」
「千晶・・・」
「な、何だ?」
少しの間、劇場の中が静まり返っていると
ステージの下にいたスタッフの中から
若い、特に特徴のない
ぼんやりとした印象を感じさせる
髪の色だけは派手な緑色をした女が
事務所の輪の中から鮎人の前に進み出て来る
「そう言えば、鮎人さんは、
何か、"女の人"を見たって
言ってませんでしたっけ?」
「・・・ああ...」
"村上 千晶"
RS事務所で、所属タレントのメイクや
衣装の担当をしている女性で、
今回の死出島で行われる撮影会にも
当然の様に事務所のスタッフとして同行している
「確か、鮎人さんの話だと------...
ええ...と...あれ、いつだったか-------
そう! 事件が起きる前、初日の日じゃない?
何か、鮎人さんが
「船の中にスタッフじゃない女の人がいる!」
なんて・・・
そんな事言ってたでしょ?」
「・・・女?」
「事務所のスタッフじゃないのか?」
ザワ
ザワ
ザワ
「そんな女がいたのか-------...」
「(・・・・)」
メイクである千晶の一言に
暗がりの中にいた事務所のスタッフ達が
お互いに顔を見合わせる
「------その話、本当か?」
「なんでも、髪が、茶色くて-------
事務所の中に、髪が茶色い人なんて
いないじゃない?
それなのに、鮎人さんが
「その女を見た!」って-------」
「・・・・」
「鮎人~...」
「孫さん....」
千晶の一言に何か不信感を感じ取ったのか、
事務所の代表である孫 誠一が
元から細い目をさらに細めながら
鮎人の側まで近づいて来る
「何~....そんな事、あったの~」
「い、いや...」
孫は、ゴーグルを掛けたままステージの上にいる
鮎人に諭すような目つきで呼びかける
「...それ、かなり大きい事じゃない~...
もし、この船の中に、誰か、別の知らない人が
乗ってたとしたら
それ、大問題だよ~...?」
「-------...」
「鮎人~、それ、何で今まで私達に
内緒、秘密にしてたの~...?」
「(・・・・)」
「鮎人~、"分ける"、"分けて"行こうよ~??
事務所の輪を保つためには、
情報を、"分けて行く"事が
大事な訳じゃない~?」
「・・・い、いや...」
今回の事件。
「(確かに、俺はこの船の初日に
デッキでよく分からない------
"女"の人影を見た様な気がしたが...)」
"宏美"
「(どことなく、何か-------....)」
高校時代、これから鮎人達が向かう死出島で
あの"事件"が起きた時に、
鮎人をかばっていた女性の事で、
あの時を境に、宏美は滄城学園から姿を消し、
それから八年の月日が経ったが、
今ではどこで何をしているかは
鮎人にはまるで分からない
「(・・・・)」
デッキで女の後姿を見かけた後すぐに鮎人は
その女の後を追って行ったが、
その時に偶然咲茉とぶつかり、その咲茉の姿が
宏美の後姿に似ているせいもあってか、
鮎人はその女の存在自体が咲茉の見間違いだと思い、
忘れようとしていた所に今回の事件が起き、
その事について考える時間すら無かった
「・・・いや」
「・・・?」
孫が自分に対して責める様な口振りで
話し掛けてくるが、鮎人は
今自分が何をしているかを思い出すと
ステージの下にいる孫を見下ろす
「・・・それは、今回の事件とは
何の関係もありません。」
「・・・本当~?」
「現に、この二日間、
この船の中に事務所の人間以外は
見当たらなかったですし、
仮にそんな人間がいたとしても
今回の事件には何も関りがないです-------」
「・・・何でそんな事が言い切れるの?」
「・・・今から、説明します------」
「・・・・」