表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/54

第十話 「手掛かり」

挿絵(By みてみん)


「もういい------」


「え?」


"カタ"


「もう、十分だ------」


「・・・・」


"カチャ"


「鮎人さん....」


「・・・・」


鮎人は、殺害現場である屋上のロッカールームの


逆再生したVR映像を一頻(しき)り見終えると、


自分の頭に掛けていたゴーグルを外す


「やっぱり------」


「・・・・・」


"カタ"


鮎人が掛けていたゴーグルを外すと、


今、自分の前に浮かび上がっていた


"もう一人"の自分が、忽然と目の前から姿を消す


「・・・自分まで"再生"できるってのも


 驚きはするが、あまりいい気はしないな...」


「けっこう苦労したんだがな」


「(・・・・)」


今回、このオーシャニア・クルーズで


VR映像の総合ディレクターを務めている


今、目の前のテーブルに座っているイ。


「・・・ずい分、正確に映像を出せるんだな」


「何、面倒な基礎さえ覚えて


 時間を掛ければ、そこまで難しくない。


 それは分かってるだろ?」


「まあ、そうかも知れないが・・・・」


イと同じ現場に出入りする機会が多い鮎人は、


このイから、VR映像の編集に関しての


話を聞き、自分でもイの作業の合間に


パソコンを借りて編集作業を


手伝ってみたりはしたが、


今映像を編集しているイの様にはうまく


映像を出す事が出来ない


「事務所の仕事や、アイドルのマネージメントは


 お前の方が上手いかも知れないが、


 こっち(VR)だったらお前より、


 俺の方が上手く出来る」


「それより------」


「・・・あ、ああ。」


何故か話が別の方に向いたのを見て、


鮎人はテーブルに座っているイの肩越しに、


先程まで自分が見ていた"ロッカールーム"の


映像が映し出されたパソコンを覗き見る------


「殺害現場が、"女性"専用の


 ロッカールームか....」


「・・・・」


鮎人が何を言いたいのか分かっているのか


何か言う訳でも無く、イは


無言でパソコン越しに鮎人を見ている


「それに、今再現した、


 VR映像による小田切さんの


 倒れ方------....」


「完全に正確だとは言い切れないがな」


「・・・その二つから考えれば


 やっぱり、犯人は、"女"--------」


「お、女の人!?」


「そうなるな-------」


すでに、第一の殺害現場の検証、


そして、実際には最初に殺されていたが


発見されたのは三番目になる小田切の


遺体の周りの状況を見て


ある程度、女性が犯人だと言う事は鮎人、


そしてイにも分かってはいたが


鮎人の一言に澪は驚いた表情を浮かべる


「・・・それに、ほら------」


「・・・・?」


鮎人が、イのパソコンに映し出された


殺害現場であるロッカールームの


左下の隅の方を指す


「?? ・・・何かあるの?」


「イ、左下のロッカーの前、


 かなり拡大してみてくれ」


「・・・・」


"ピッ ピッ"


「これは------?」


「何か、細長い-------」


「"髪の毛"か?」


「・・・・」


"ピッ ピッ"


イが映像の左下の隅の部分を


かなりの倍率で拡大すると、その拡大された


無機質なコーティングが施された


コンクリートの床の上に、細く、長い、


"髪の毛"の様な物が落ちているのが見える-------


「・・・さっき、VR空間の中で


 見つけたんだが....」


「ずい分、変わった色をしてるな・・・」


「"茶色"ですね....」


「そうだ」


澪が拡大された、長細い髪の毛に目を向けると、


その髪の毛は、ロッカールームの照明に照らされ


鈍く茶色に輝いている-------


「これ、犯人が落とした物って事------?」


「・・・・多分、そうだろう」


殺害の現場、そして状況から鮎人は


このロッカーの前に落ちていた


茶色い髪の毛が、小田切を殺した


"犯人"の物では無いかと推測する...


「でも、少し、それは少し短絡的じゃないか?」


「・・・・」


イが、自分の後ろに立っている鮎人に


座ったまま振り返る


「別に、この浴室に入った


 別の女の物の可能性だってあるし...


 それに-------」


「・・・何だ?」


「いや・・・・」


イが、鮎人から澪に視線を向ける


「今回この船に乗ってるのは、


 RS事務所の関係者しかいない」


「・・・まさか、私を疑ってるんですか」


「いや、まさか」


「ならいいですけど」


「・・・・・」


何か(ふく)れ顔を浮かべている澪の言葉を聞いて


イは再び鮎人の方に振り返る


「今回この船に乗ってる女の中には、


 "茶色い髪"の女なんて一人もいないだろ?


 ・・・だったら、これはこの船の乗客が


 前に落とした物じゃないんじゃないか?」


「・・・今回の撮影は、コスプレ水着撮影会....」


「??」


「?」


あまり事件とは関わりが無さそうな言葉を


口にし出した鮎人に、横にいた二人の表情が固くなる


「・・・いや、別にコスプレがどうのこうのって


 話じゃないけど....


 コスプレの撮影には、


 "カツラ"を付けるだろう?」


「じゃあ、この床に落ちてる髪の毛は、


 "カツラ"の毛の一部か何かって事なのか?」


「・・・・・」


"スッ"


「あ、おい」


「鮎人さん?」


「("茶色"-------)」


「お、おい どこに行くんだ?」


「ま、待って」


「(・・・茶色い髪-------....)」


「鮎人さん? どうしたの!?」


「-------オイ」


「(・・・あの髪の色-------...)」


イはこの船内に、茶色い髪をした女は


一人もいないと言っているが


鮎人が以前見た光景が真実であるとすれば、


この船には、一人だけ


"茶色い髪"の人物がいる-------


「(有り得るのか------...)」


「あ、鮎人さん」


"コッ コッ コッ コッ--------....


「・・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ