5.惨劇
トラックの方へ走っていると運転席から誰かが飛び出した。どうやら女性のようだ。彼女は暗闇の方へ走り去って行った。
彼女は後にするとしてまずはトラックだ。僕はトラックまで全速力で走り、トラックの中を見た。
そこには悲劇そのものだった。
40代であろう男性が腹から血を流して気を失っている。
男の顔が見えない。どうにかして男の顔を覗く。
は?
う、嘘、だろ…
衝撃だった。何年も探したこの人が血を流して倒れている。
あの女が殺したんだ。
いや、待て。焦るな探偵。僕はトラックの中の様子をスマホで撮った。
ん?
男性のポケットに何かの紙が入っている。僕はハンカチを取り出し、その紙を抜き取った。
[作戦666]
紙にはそう書かれていた。
666、悪魔の数字と呼ばれる三文字でかつてイギリスのテロ事件で暗号とされた。
だとしたら今回も……
僕は言葉を失った。予想どうり、この人はテロリストなのだろうか。けれどこの人はそんな人じゃない、僕が知っているこの人は。それにどうしてこの人が刺されているのか。
僕は男の首に手を当てた。脈が無い。既に死亡しているようだ。
まだ、花火大会に来ている観衆はトラックに気付いていないようだ。
僕は自分が触った所、及び先程逃げ出した女が触ったであろう所の指紋を拭き取り、近くに停めてあるバイクの場所まで走った。
僕はバイクで女が向かった方へ飛ばした。無我夢中駅前まで来ていた。
あっ。
駅の前で立ち尽くしてる女がいる。彼女はハンカチを手にしている。そのハンカチには血がついていた。
アイツだ。
僕はバイクを放ったらかし駅の方へ走る。ホームで追いつき話し掛けようと思ったがやめておいた。黙って尾行する事で何か分かるかもしれない。そう考えたのだ。
僕は彼女と同じ電車に乗り、彼女が降りた駅で降りた。そして彼女が入ったカプセルホテルに入り、一晩を過ごした。
朝か。スマホを開くと4時50分。早起きは探偵の義務。昨日のことでまともに眠れていないが。僕は身支度を済ませるとホテルの正面にあるカフェに入った。カフェには道に向いた席があり、ホテルの出入りがよく見える。シナモンロールとコーヒーを注文し、ホテルから女が出てくるのを待った。
パンを食べ終え2杯目のコーヒーも飲み終えたときだった。
昨日の女がホテルから現れた。僕はすぐ外に出た。
「すみません」
「は、はい、私ですか?」
「ええ。少しカフェで話しませんか? 勿論、奢りで。」
彼女は何かを悟ったような表情を作った。
「どなたですか?」
「ただの大学生です」
「……分かりました」
逃げても無駄だと考えたのだろう。彼女は僕の横の席に座り、トーストとアイスコーヒーを注文した。