4.逃亡
タッタッタッタ、誰かがこちらに駆けてくる足音がする。
ヤバい。本能的にそう思った。
私はトラックから飛び降り逃げ出した。誰もいない暗闇の方へただ全力で走った。
ヒューーーーバン、背後で数発目の花火が上がった。
ハァハァハァ。
どのくらい走っただろうか。私は河川敷から少し小さな町に出た。駅があり駅前には喫茶店がある。私は慌てて手についた血を拭き取った。ポケットにはカッターが入っている。
私は何も悪くない。テロリストを刺し、テロを防いだ。妹を守った。悪いどころかヒーローだ。花火大会にいた、大勢の人を救った。でも、
じゃあなぜ逃げた?
私は人を刺した。相手が誰であろうと私は人間を刺した。笑っていた男の顔が浮かぶ。
男は死んだのだろうか。警察は来たのだろうか。花火大会は中止になったのだろうか。私の存在に気付いた人はいるのだろうか。
無限の不安が私を襲う。
刺すつもりは無かった。ただ単に皆んなを、七香を救いたかった。
こんな言葉を信じてもらえるだろうか。信じてもらえたとして私は無罪なのだろうか。
それに人を刺したというこの不快感、恐怖感は消えるのだろうか。
『とても勉強がはかどってて、家に帰るの遅くなるかも。泊まるかもー』
お母さんにメールした。
人を刺した後に親へ嘘のメールを送っている自分が恐ろしかった。
家に帰る気にはなれなかった。家族に会ってはいけないと思った。
浪人生の私は学校がないのだ。それに私は予備校に通ってない浪人生、いわゆる宅浪だ。そのため家を出てもすぐに捜索とはならないだろう。
何考えてんだ……。自嘲してしまう程私は落ち着いていた。
私の今の所持金は現金2万円、カード11万円のみだ。友達には「持ち歩くには大金過ぎる」と言われていたが、家出をするとなると役に立つ。
私は隣街までの切符を買った。行きなれた街だ。
隣街に着き、1泊3500円というカプセルホテルに入った。
部屋に入るや私は体をベットに投げ出し、スマホを開いた。今日の事件の事を調べるためだ。
『8月6日20時30分頃に、--県--市の北原川花火大会でトラックを運転していた平田さん(40代男性)が何者かに刺され死亡しました。警察は……』
唖然とした。
死んだんだ。あの人。
私、殺したんだ……。
私、殺人犯なんだ……。
警察はまだ犯人が誰か分かっていないようだ。
私はスマホの電源を切り、枕に突っ伏した。
私の頭は混乱しすぎている。今、何を考えても無駄だ。
私はそのまま静かに目を閉じた。
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