3.殺人
私はトラックの上で花火に心を奪われていた。すると突如、トラックが急発進した。私は慌てて荷台の上に立った。
ここで荷台から飛び降りようと考えたからだ。しかしこのままではトラックが人混みに突っ込み、多くの人が犠牲になるだろう。七香も。
私は荷台から運転席を覗く。猛スピードで進むトラックの荷台にはビュンビュンと風がくる。
行くしかない。
幸いにも、運転席の窓は開いていた。去年まで体操部だった私は身体能力だけには自信があった。私は荷台から運転席に飛び込んだ。
「だ、誰だ!?」
狼狽するのも無理はない。声の主は40代後半であろう男だった。おそらくこいつがテロリストだ。
「車を止めろ!」
私は叫んだ。
「や、止めてくれ」
え?
驚くことに男は泣いていた。悲しそうな目をしてハンドルを握っていた。
「このテロだけは成功させてくれ……」
私は男の足元に潜り込み、思いっきりブレーキを踏む。トラックが遅くなったり速くなったりをくりかえす。
駄目だ。
私は男からハンドルを奪おうとするがうまくいかない。私は助手席の方に飛ばされ、勢い良く窓に頭をぶつけた。
痛っっっ。
ふと前を見た私は息をのんだ。
七香。
20数メートル先に妹の七香がいた。トラックには気付いていない。
駄目だ!!
私は無我夢中で男に飛びかかった。
不意にトラックが止まった。
え?
顔を上げた私は息を飲んだ。
私の手には血がついていた。
私の右手はナイフで男の腹を刺していた。
「ふっ」
男は血を流しながら笑っていた。