1.終わりの始まり
君がいなかったらどれだけよかっただろう。ううん、君がいなかったらどれだけ辛かっただろう。
全てはその日始まった。
『4時間後、北原川花火大会で人混みにトラックが突っ込む。多くの人をひき殺す事になるだろう』
夏休みも終盤になった。もっとも浪人生の私にそんなことはどうでもよい。
差出人は不明。
北原川花火大会は電車で数駅行ったところから5分ほどの場所で開かれる。それも今夜だ。この地域の夏の風物詩であり多くの人が訪れる。浪人生の私は家にこもり勉強するつもりだった。
なんなのこれ? 文面を確認する。いたずらメールにしか思えないが……
内容は信じていなかったが、少し不安ではあった
。
妹の七香が花火大会に行っているのだ。高校2年生の七香は高校生として青春を謳歌すべくクラスメートと花火大会に行っている。
まぁ念の為、七香には電話して帰宅させるか。
しかし七香に電話をかけても繋がらなかった。
テロが起きるなんて信じていないが、それでも不安になる。
私は浪人生が花火大会に行く事に罪悪感を抱きつつ、ノートパソコンを閉じて革靴を履いて家を出た。
玄関にカッターが置いてあった。郵便のダンボールなどを開けるものだ。私はただなんとなくそのカッターをポケットにしまい込んだ。そう、ただなんとなく。
テロなんて事起きるわけないだろうし、仮にテロリストと遭遇してもナイフ一本ではどうにもならないだろう。玄関のドアを開けると少し冷たい風が吹いていた。
家を出て自転車にまたがり、花火大会の開催される河川敷へと向かった。電車はおそらく、花火大会に行く人で満員だろう。そのため自転車で行く事にしたのだ。案の定、道も花火を見に行く人でごった返していた。
花火大会の会場に着いたが、メールにあったトラックなどは見当たらない。それに七香達も見当たらない。七香が朝、友達4人くらいで見に行くと言っていたのを思い出す。
この大勢の中から4人を見つけ出すのは厳しい、というか不可能だ。
せっかく川まで来たのだ。私も花火を見て帰ろ。
仕事中のお母さんに、友達の家で勉強するから帰るのが遅くなるとメールをして私は人の少ない場所に移動した。
あたりに人がいなくなるととても静かだった。近くにいるのは近所に住んでいるのであろう老夫婦だけだ。
私は自転車を降り、空を見上げた。7時前の夏の空は徐々に暗くなっている。
人混みの方にはたくさんの屋台が出ていて、皆色々な物を食べている。人のいないここには屋台などは1つもない。いや、屋台がないから人がいないと言う方が正しいか。
私はふと、誰もいない方を見た。
え? 嘘……
そこには1台のトラックがとまっていた。
テロ……
一直線の河川敷に、人混みの方を前にしてトラックは止まっていた。
トラックぐらい河川敷にあってもおかしくない。しかしあのメールが送られてきた矢先だ。
まさか、本当に……
私からは50メートルほどの距離だろう私から人混みまでは150メートル程だ。
私は自転車にまたがり、トラックの方へハンドルを向ける。電気を消し、薄暗い道を私は恐る恐る進み、トラックに近づいて行った。
トラックの中には誰もいなかったが、助手席にはダンボール箱が積まれていた。また、荷台にもよくわからないものがたくさん積まれていた。
運転席を覗いたが誰も乗っていないようだ。やはりテロなんて起こるわけ無いか、
ん?
私は運転席に1枚の紙が置かれているのに気づいた。私は運転席のドアを開けた。A4の白紙だった。私はその紙を裏返した。
[作戦666]
その紙にはそう書かれていた。「666?」スマホで「666とは」と検索してみる。
『666とは獣の数字で悪魔の数字とも呼ばれます。聖書によると、666とは………』
よくわからないけど666が不吉な数字だということは分かった。作戦666か……
いたずらにしてはこりすぎている。
このトラックご今からテロを起こすの?焦る自分を落ち着かせ、今できる事を考える。
ナイフはあるが何もできない。
私はポケットからサバイバルナイフを取り出し、試しに刃をタイヤに刺そうとした。しかしタイヤは固くてなかなか刺さらない。
だめだ。
落ち着け。まだ手はあるはずだ。だいたい、これだけでテロリストと決めつけるのもおかしな話だ。
ん?
足音?
かすかにではあるが人の足音がする。それに足音は確実にこちらへ近づいてきている。音がするほうを見ると小さな光が動いているのが見えた。懐中電灯だ。
私は慌ててナイフをポケットにしまい、荷物の積まれた荷台に身を潜め、荷物に被せてあったビニールシートに隠れた。