美琴のこころ
お姉さん、今日は様子がおかしいよ
いいの、気にしないで
そうなんだ
そういえばね、近くにピアノを教えてくれる人がいるみたいで
明日、お願いに行ってくる
よかったね
うん
琴美はピアノの教室に向かった
ピアノを教えてくれる人の家はここかな
すごい、大きい家
きっと、お金持ちなのね
もしかして、このボタンを押すのかな
ピンポーン
わあ、音が鳴った
はい
いらっしゃい
おじゃまします
どうぞ
あ、あの時の人
佐藤さん
どうして、オルガンの先生なのですか
お昼は違う仕事をしていて
夜はピアノを教えているんだ
私はオルガンですけど
同じようなものだよ
でも、君とは思わなかったよ
はい
なんという名前かな
琴音です
そうか、琴音ちゃんか
もう、私は16歳です
そうか、ちゃんは失礼だったかな
じゃあ、琴音さんで
はい
佐藤さんでしたね
ああ
佐藤先生、よろしくお願いします
いっしょに、頑張ろうね
うん
先生、何か弾いてみて下さい
ああ、いいよ
じゃあ、僕が練習している曲の途中まで弾くよ
わあ、綺麗な曲
でも、なんだか悲しいですね
そうだね、この曲はショパンの別れの曲というんだ
でも、途中が難しくて練習中かな
そうなんですね
ああ
私もそういう綺麗な曲が弾きたいな
練習すれば、いつかきっと弾けるよ
はい、頑張ります
じゃあ、始めようか
はい
ここは、こうやって
そうそう、上手だよ
本当ですか
うん、素質があるよ
ありがとうございます
僕には妹がいて、事情があって別々に住んでいるんだけど
君は妹みたいだな
可愛いよ
からかわないでください
恥ずかしいですから
本当だよ
もう、帰ります
まだ、練習の途中だよ
急に用事ができました
そうか
また、練習に来るようにね
はい
よし、元気があってよろしい
頑張ります
そうだね
練習しておいで
はい
琴音は自宅で想いにふける
美琴、今日は様子が変よ
なんでもない
どうしたの
お姉さんに教えて
どうしようかな
いいから
お姉さん
私は好きな人がいて
前、言ったでしょ
佐藤さん
野原で会った人ね
うん
また、会ったの
ピアノの先生でね
ショパンという外国の人の曲を弾いてくれて
とても綺麗だった
そうだったの
うん
とても、悲しい曲だったけど
先生の素敵で一生懸命な姿がカッコよかったな
そうなんだ
でも、先生は、なんだかさびしそうだった
何か事情があるのかもね
私は片思いになってしまうのかな
う~ん、どうかな
でもね、私も片思いの人がいるの
じゃあ、お互い同じね
うん
今日は先生が夢にでてくるかもしれない
そうだとうれしい
そうね
私も夢にでてくるといいな
海といっしょに貝殻を拾う夢をね
私も先生といっしょにピアノを弾く夢をみたいな
じゃあ、早く寝ようか
うん
渡辺が夢の中で迎えにきてくれるのだろうか
僕はささやく
僕はいずれ
どうしたの、元気がないよ
何の独り言を言っているの
空耳だよ
それより、考えることがいっぱいあるでしょ
そうだね
自由の羽を奪われたんだ
また、そんなことを言う
悪いね
一人で呟いて
男らしくないわよ
今日は一人にさせてくれ
わかったわ
僕は想う
あの人に会いたい
どうして
僕はこうなるんだ
今頃、君は何をしているのかな
笑っているのかな
優しい笑顔だよね
怒った顔も見てみたい
でも、さぞかし可愛いだろうな
僕のことをどう思っているのだろうか
この世に神がいれば僕は見捨てられたようなものだ
きっと、そうだ
「ピアノ教室にて」
琴音ちゃん
あ、琴音さんだったね
やっぱり、琴音ちゃんが可愛いですか
先生
そうだね
琴音ちゃんの方が可愛いよ
じゃあ、琴音ちゃんでいいです
練習してきたかな
はい
最初はね、バイエルという教本で練習するんだ
これを練習したら、少しずつ弾けるようになっていくよ
頑張ります
琴音ちゃん、ドレミファの場所は覚えたかな
はい、先生
じゃや、弾いてみて
こんな感じですか
そうだよ
上手く弾けているね
次はバイエルの音階の簡単な練習曲を弾いてみよう
そうだよ、素質があるね
本当ですか
ああ
うれしい
この調子で練習しておいで
うん
琴美ちゃんは可愛いね
こういうところ、微妙な琴音の気持ちが読者に伝わるか
琴音ちゃんは可愛いね
先生、バイバイ
ここの繊細な表現をとるか
万人向けに説明してあげるか
基本的に
A
B
A
B
で書くから多くの人は台詞調でも理解できると思う
初期は段落を開けていなかったからわかりづらかったけど
琴音は恥ずかしい気持ちでいっぱいだった
もはや、逃げ出したくなるような気持ちで
「先生、バイバイ」と言った
ここまで書けば伝わるけど
ここまで書かなくてもわかる人にはわかるし
わからない人にはどうして??となる
書いた方が親切といえば親切だけど
そこが一番の悩みかな
スタイル、細かく説明した方がいいのか
誰が誰に言っているという問題は
喜ぶ琴音に対し揺れる心の水江
お姉さん、お姉さん
佐藤先生から褒めらてね
それでね、それでね
可愛いって言われたの
本当、よかったね
うん
うれしくて、今日は眠れるかな
佐藤先生、好きです
何か言った
何も言ってないよ
そう、琴美
明日、学校だから早く寝なさい
お姉さんこそ
明日は仕事でしょ
早く寝なさい
ここまで書けば十分わかると思う
これは大事だと思うけど
そうね・・・
どうしたの、お姉さん
ううん
渡辺さんのことを想っているの
琴美、おやすみ
おやすみ、お姉さん
水江の安らかな眠りを妨げる想いがつきまとう
渡辺さん
どうして、私の手をつないでくれなかったの
私の片思いなのかしら
でも、瞳のことを褒めてくれたし
あれはなんだったのかな
ただ、からかっただけかな
でも、海に誘ってくれた
私のことをどう思ってくれているのかな
海がきれいだったな
きれいな波の音にピンクの貝殻
また、連れて行ってくれるといいのに
ああ、こんなことを考えたら眠れなくなっちゃった
あの時のように月の明かりが照らしている