光り喰い
光り喰い
私の同僚に面白い人物がいる。
光に食欲をそそられると言うのだ。
その昔、テレビで見た電球を食べてみせるのと似たようなものかと聞くと、違うと言う。
彼が言うには人工的な、いわゆる電気の光、明かりには魅力がなく、ホタルやヒカリゴケ、深海生物のその光を食べたくなると言う。
嘘か本当かは分からないがホタルを食べた事や、また、こんなことも話してくれた。
彼がまだ学生だった頃、近くで火事が起こった。
見に行ってみると、その炎の美しさがただただ美味しそうに感じられ、まるで夢遊病者のように炎に向かったと言う。
警察、消防の人が止めなければ、炎の中に入っていたかも知れないと彼は笑っていた。
だが、そう感じるほどに焼ける家の匂い、ゆらめく形、色、熱さまでもが極上の料理のようで、燃え上がる炎が目、鼻、耳、皮膚を刺激したと、夢見るように語った。
それは美食家が満漢全席を目の前にするも、食べることが叶わなかった焦燥と憧憬を一緒くたにしたような表情だった。
私は、正気なのかと疑った事を覚えている。
そして、その彼が…今、死んだ。
職場の溶鉱炉に、自ら入るように落ちて。
一瞬で焼き溶けていく彼の肉体が、まるでスローモーションのように、私の目に飛び込んできた。
彼は、熱さに苦悶しながら同時に間違いなく幸せ、いや、恍惚としていた。
その姿は、この世で見たことがないほど、醜く、美しかった。
その様に、私は見入ってしまっていた。
衣服は燃え上がり、四肢をあらぬ方向に捻じ曲げ、肉体が煙を上げ、燃えるよりも先に紅蓮を発する鉄の中に溶けていった。
彼の溶けた溶鉄は、あまりにも美しく吸い込まれるようだった。
この光を、このまま自分の身体に入れたい。
かつて覚えたことのない乾きが、私を襲った。
喉が、ゴクリと鳴った。