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第4話 子と午と卯

 仕事という字に()()()はあるが、(トリ)(終わり)は無い。

 子(北)午(南)兎(東)はあるが酉(西)は無い。

 皆、西(シャー)なしに働くしかないのだ。


「ということで家名の火()、お兄ちゃんの和()、私の()乃香をとってお子午兎(しゃーなし)プロジェクトってのはどうかな!?」

「なんでそんなに目をキラキラさせてるの」


 妹はお子午兎(しゃーなし)プロジェクトのロゴ案をPC画面に映していた。どうしよう。字面にポジティブ要素が一つも見つからない。


「だったら西要素を集めてワールドワイドプロジェクトにしよう」

「それだとアイドルグループのNewS(ニューズ)と被るでしょ!」

「いや被らんだろ」


 西、西ねぇ。

 (さる)(とり)(いぬ)あたりが候補かな。

 そういえば猿と犬は十二支でケンカしたことから、仲が悪いことを犬猿の仲と表現するようになったんだったか。


 犬猿の仲。


(いやいや、彩絵(さえ)はないな)


 間髪入れずにアイデアを没にする。


卯乃香(うのか)が正しかったよ。お子午兎(しゃーなし)プロジェクトにしよう」

「急に手のひら返されると怖い」

「西方向は犬猿の仲って言葉があったなって思っただけだ。縁起が悪いだろ?」

「お兄ちゃん……っ!」


 この妹、ちょろい。


「で、記念すべき一曲目はどれにするんだ?」


 実は、卯乃香が作った曲は一曲だけではなかったようだ。入院している間、ひたすらに歌詞を書きなぐっていたらしい。


 かのルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは耳が聞こえない状態で「運命」を作曲したという。

 かの弾幕シューティングの作者はテキストエディタだけでゲームの曲をたったの15分で作り上げたという。


 が、妹はその辺の超人ではないので、普通に作曲ソフトを使い、メロディを打ち込んでいるのだが、デビュー曲をどれにするつもりなのかは気になる。


「これ! これにしようと思うの!」


 卯乃香が提示したのは英語タイトルの曲。


 ――"There is Justice or Justice"


 この曲を短く表現するなら、そうだな。

 善でも偽善でも、貫き通した信念に嘘偽りはない。

 だから今は信じて歩み続けよう。

 そんな曲だ。


「始まりにぴったりの曲だな」

「でしょ!? でもね、一つだけ問題があるんだ」

「問題?」

「イラスト、どうしよっかなって」


 あー。


 これまでは基本ボカロ楽曲のカバーが多かったから、PVは原曲で使用されてるものに頼ればよかった。

 また、そうではない曲は、俺がとってきた写真に卯乃香がエフェクトをつけて動画として作っていた。

 ぶっちゃけ、今回だってそうすれば乗り切れる。

 乗り切れるが、できない。


「最初の曲だもんな。できることは全部やりたいよな」

「そうなんだよね」


 サムネイル――動画を再生する前に表示される1枚絵のことだけど、ぶっちゃけこれによって再生数は大きく左右されると言っても過言じゃない。

 もちろん、俺の場合は歌い手の子午(しご)としての実績があるから、ネームバリューだけでもある程度の人には聞いてもらえると思う。


 だけど、聞いてもらえるのは俺を知ってくれている人だけだ。より多くの人に届けたいという目標に対して人事を尽くすというのなら、ここは曲げられないはずだ。


 写真に魅力がないと言っているわけではない。

 ただ、俺が撮った写真なんて所詮は素人。

 カメラマンを雇ったり、イラストレーターに依頼したり、その道の専門家に頼むべきだという話をしている。


「ねー、お兄ちゃん良い伝手は無い?」

「お互い人脈には苦労してるな……」

「ほんとにね」


 仲のいいイラストレーターさんとかがいれば一発だったんだけど、これまで一度も頼ってこなかったゆえにあてはない。

 それは卯乃香も同じだ。


 というか、普通に生きていたらイラストレーターに依頼する機会なんてそうそうなくない?

 せいぜい推しのお絵描きVtuberがお仕事なくて困ってるときに依頼するくらいじゃない?


 まあ俺はお絵描きVtuberさんとの伝手もないわけだけど。

 Vシンガーの相互フォロワーならいるからその人に紹介してもらうか?


「……あ」

「え!? なになに!? いるの!? かいてくれる人!」

「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど、今日学校にいるときSNSでめっちゃ印象的なイラスト見かけてさ」

「へー? どれどれ」


 スマホを開き、SNSを立ち上げ、ブクマ一覧を表示する。

 どういうわけか。

 その力強いイラストと、また目があった気がした。


「わっ、すっごく目を引くイラストだね」

「だよな?」


 昔から卯乃香とは好みが似通っていたので大丈夫だとは思っていたけれど、自分がいいと思ったものをいいと評価してもらえるのはやっぱりうれしい。


「お兄ちゃん! 絶対にこの人だよ! この人に描いてもらうべきだよ!!」


 俺もそう思う。

 彼女のイラストは"There is Justice or Justice"の世界観によく合っている。


 問題があるとすれば、ただ一つ。


「……知らない人に声かけるの、こわい」

「小学生か!?」


 あほなこと言ってないでと、妹にスマホを取られた。

 あ、だ、だめー。

 乱暴にしちゃだめー。


「はい。DM送っといたよ。いい返事が来るといいね!」

「はい」


 はいじゃないが。

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