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第20話 終わりと始まりのエピローグ

 馬を水辺に連れていけても水を飲ませることはできないという言葉がある。


 その気がない人間は、いくら周りが気に掛けたところで無駄であるという意味である。


「ほら、そこ間違ってる」

「うー」

「うーじゃない」

「まー」

「いうまでもないけど馬でもない」

「お、いうま(・・)でもってか? 中島に教えてくる!」

「やめなさい馬鹿!」


 エスケープ失敗!


「だいたい! あんたが追試になるからいけないんでしょ!」


 そう。

 俺は今、彩絵指導員のもと追試対策の勉強をさせられていた。


 これに落ちると夏休みにびっしりと補習が詰められてしまう。

 それを危惧した彩絵が、俺に無理やり勉強させているという状況だった。


「効率よくやれば行けると思ったんだよ」

「山を張ることを効率よくとは言わない!」

「うー」

「うーじゃない!」


 名誉のために否定しておくが、赤点はとっていない。


「くそ、なんで今回に限って赤点プラス10点まで追試対象なんだよ。そういうのは先に言えよ……」

「口を動かす暇があったら手を動かしなさい」

「だが断る」

「断んな!」


 勉強したって面白くないんだよ。


「彩絵、知ってるか。貧乏人に学はいらない――」

「あんたは富裕層でしょ」

「はい。すみませんでした」


 あれから。

 彩絵を正式にメンバーに加えたお子午兎(しゃーなし)プロジェクトは、次々にヒット曲を生み出し続けた。

 テレビCMにも採用されるなどの大躍進。

 まあ、富裕層だよなぁ。


 もう受験するつもりはない。

 高校卒業後は広告費で飯食っていくんだ。

 本当に、なんで勉強してんのかな。


「はー。合格証書だけもらえたら今すぐ退学するのになぁ」

「どんな状況よ、それ」

「俺にも分からん」


 そんな特例があったっていいじゃない。

 ダメ? ダメかぁ。

 理不尽だなぁ。


「ほら、はやくしなさい。あんたがだらだらするたびにイラストの納品が遅れるからね」

「ぐっ、足元を見やがって」

「基本戦術よ」


 やっぱこいつ、嫌いかも。



「あ、お兄ちゃん、お帰りー。追試どうだった?」

「よゆー。ま、俺がちょっとやる気出せばこんなもんよ」

「おー、すごいじゃん!」

「ふふん。すごかろうすごかろう」

「おー。すごいぞーえらいぞーかっこいいぞー」


 わーい。

 褒められた。


「あ、お兄ちゃん。シロハさんからイラスト送られてきたよ」

「え? マジで?」

「うんうん。まじまじー」


 あいつ……。

 納品が遅れるとか言いながら、追試対策の勉強してる時には描き上げてたな?

 そういうところがむかつくんだよ。


「今回もすごいよー? ほら」

「ほう? 何を隠そう、俺は美術の酷評家。俺の口からそう簡単に凄いって言葉が引き出せるかな?」

「またまたー。いっつも『イイ』って言ってるくせにー」

「偶然が重なっただけだ」


 作業用のPC画面をのぞき込む。

 大画面ディスプレイには、一目でわかるシロハさんのイラストが映し出されていた。


 ……ああ、敵わないな。


「イイ」

「ほら、やっぱり言った」

「そりゃあ、いいもんはいいからな」

「私もそう思うー」


 ――♪


 スマホに通知が入る。

 表示されたのは、藤白彩絵の四文字。


『そろそろ家着いた? イラスト送ったから、確認しといて』


 本当に、時折こっちの思考が見透かされてるんじゃないかって思ってしまう。


『良かった』

『それだけ?』

『不安も悩みも、一人で抱えているようで、実は周りに支えられているって気づくような構図と色遣いがめっちゃ好み。好き』

『ん。よろしい』


 どうやら俺の回答はお気に召したようだ。

 続けて、彩絵からメッセージが入る。


『あんたの歌が今を超えてくるの、楽しみにしてるから』


 今というのは、彩絵に送った暫定版の音源のことである。

 シロハのイラストを見るたび、妹の卯乃香(うのか)は毎回アレンジを加えるので、最終的な俺の歌も当然変化する。

 その変化が、今を超えるものにしろと彩絵は挑発してきているんだ。


『当たり前だ。首を洗って待ってろ』

『うん。待ってる』


 その日もまた、電子の海に新たな伝説が誕生する。


 タイトルは、"人を恋せば"。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

もしよければ↓の☆☆☆☆☆で評価いただけると幸いです。

またどこかでお会いしましょう。

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[良い点] すごく好き。それ以外に何か必要? [一言] 妹ちゃんがチートだよね。居なくても物語が成り立つけどここまでスッキリはしなかったかも? 良い狂言回しでした。好き。
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