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第1話 俺と幼馴染

 進級早々、事件が起きた。


「台無し」


 背中越しに、声がする。

 声の主はわかっている。

 幼馴染の藤白(ふじしろ)彩絵(さえ)だ。


「台無しだと言っているの」


 先ほどより強い怒気を込めて、彩絵が呟く。

 聞こえなかったんじゃなくて無視したんだって、どうしてわかんないかな。

 泣き言を言いたいのはこっちだっつうの。


「はぁ」

「あんた今、ため息ついたわけ?」

「そりゃため息の一つもつきたくなるさ」


 もう一つ、長く息を吐く。


「なーんで席替えしてまでついてくるのさ」

「はぁ!? ついてきたのはあんたの方でしょ!!」

「違いますー。俺の方が先にくじを引きましたー」


 黒板に記された座席順。

 目を閉じて開いても、書かれた文字は変わらない。


 教室窓側最前列に書かれた名前は俺のもの。

 火鼠(ひねずみ)和馬(かずま)だった。



 進級直後の座席順なんてだいたい出席番号順だ。

 そして出席番号は、五十音順がメジャーだ。

 すると当然、俺の後ろには奴が来る。


「げっ」

「最悪」


 藤白(ふじしろ)彩絵(さえ)

 俺の幼馴染だ。


 新しい教室に入り、互いに別の言葉を発し、多分、互いに同じことを考えた。


(またこいつと一緒のクラスかよ)


 昔から、クラスの集合写真には必ずこいつが映っていた。文化祭では必ず同じ歌を歌ったし、同じ催し物をした。

 幼稚園の頃から今日に至るまで。

 こいつとは、常に、同じクラスなのである。


 ここまでくるともはや呪いだ。

 この春休みの間にお祓いを済ませ、悪縁切りで有名な神社にまで足を運んだのに、神様は残酷だ。


「テンプレこなしなさいよ」

「はいはい。わかってますよ」


 何の話か分かるのは俺たちだけだろう。

 要するに、可及的速やかに席替えをこなすぞ。

 彼女はそう言っているのだ。


 先にも告げたが、進級直後の座席順なんてだいたい出席番号順だ。すると当然、俺の後ろには奴が来る。


 これはもうどうしようもない。

 俺たちは決定したクラスを再編する権力もコネも持ち合わせていない。

 運命の荒波に踊らされるほかにないのだ。


 だけど、その期間を短くすることはできる。


「えー、では、級長を決めようと思います。誰か立候補は……」

「はい! 藤白彩絵! 立候補します!」

「おお、ありがとう藤白君。他にいなければ藤白君に頼もうと思うが、どうかね?」


 他に手を挙げる人はいなかった。

 うちのクラスには、我の強い目立ちたがり屋が存在しない。級長なんて役割、誰かが担ってくれるなら万々歳って輩ばっかりなのだ。


「では次に、副級長を……」

「先生。ここからは私が進行させていただきます」

「え、でも」

「副級長は火鼠くん。お願いね?」

「うぃーす」

「書記は笹島さん。会計は東雲さん。それぞれお願いしたいのだけどいいかしら?」

「え、う、うん!」

「どうして私……いいけど」


「ほかに希望者がいれば投票で決めるけど、他に希望者はいる? いなかったら拍手」


 爆速進行。

 これが藤白彩絵の独裁学級だ。


 まず、最初に俺を適当な役職につける。

 俺は断らずに受けて、二人目以降が断りづらい流れを作る。あとは適当に指名すれば、時間がかかりがちの役員決めを速攻で終わらせられるというわけだ。


 同じ仕組みで保健委員や図書委員を任命。

 教師が想定していたであろう時間より早く役員決めが余る。


「さて、時間が余ってしまいましたね。どうしましょうか、火鼠副級長」

「そうですねー。席替えとかどうでしょう」

「あら、いいですね。そうしましょう」


 これが、11年間同じクラスになり続けた俺たちのテンプレだった。いや、今年で12年目だったか。


「じゃ、じゃあ先生があみだくじを作るから――」

「ここに横線の入っていないあみだくじがあります。端から順に回していくので、自分の名前と横線を3本追加して次の人に回してください」

「――仕事が早い!?」


 当たり前だ。

 彼女はクラス替えで俺の名前を確認したときから席替えの準備を始めている。


 そんな感じで、席替えが始まった。

 俺の手元に来た時、藤白の名前は書かれていなかった。まあ、作成した本人が先に名前を書いたら不正を疑われるからな。


 藤白は横線を追加しない。

 余った場所に名前を書くだけ。


 変なところでくそまじめな奴だ。


「はい。全員回りましたね。では、余ったここが私。私は番号を割り振った本人なので横線は引かないものとして、席順を発表します」


 クラスメイトがあみだくじを回している間に黒板に作っていた教室の間取り図。名前の記されていない座席に、一つ一つ名前が記されていく。


(来たッ!!)


 記された俺の名前。

 その座席は、窓側最前列。

 確定演出と言っても差し支えない。


(教室の隅!!

 藤白が隣に来るパターンはたったの二通り!!)


 そんな細い可能性引くわけがないだろう!

 なあ!?


「は?」

「は?」


 藤白と、目が合った。

 お、おい。嘘だよな?

 嘘だって言ってくれ。


(おいいいいいぃぃっ!! なんで席替えしたのにぴったりと後ろにつけてくんだよ!! おかしいだろ!!)


 そして話は、冒頭に戻る。


「台無し」


 席替えを終え、並んだ二つの席。

 後方から、般若の声が響く。


「台無しだと言っているの」


 先ほどより強い怒気を込めて、彩絵が呟く。

 聞こえなかったんじゃなくて無視したんだって、どうしてわかんないかな。

 泣き言を言いたいのはこっちだっつうの。


「はぁ」

「あんた今、ため息ついたわけ?」

「そりゃため息の一つもつきたくなるさ」


 もう一つ、長く息を吐く。


「なーんで席替えしてまでついてくるのさ」


 俺と藤白彩絵は、すこぶる仲が悪い。


お読みいただきありがとうございます。

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