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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マルクとミルク

作者: 伊藤山愛

この物語はフィクションです。


登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 お父さんへ


 こんな風に手紙を書くことは初めてだね。


 小さいころからお父さんが猛獣使もうじゅうつかいをしているのを見ていて,僕もいつか動物と一緒にサーカスに出たいなと思っていたよ。


 僕が小学4年生だった頃,ライオンのマルクとミルクが生まれて,僕がお世話をしたいと言ったとき,お父さんは反対したね。

 このとき,お父さんが僕の夢を阻止しようとしているんだと思ってたんだ。

 でも,結局は駄々をこねる僕に折れて,お世話をするのを許してくれたよね。


 赤ちゃんだったマルクとミルクは可愛かったなぁ。

 飲んでは寝て,飲んでは寝て。

 ほとんど一日中寝て過ごしていたけれど,でもその寝姿が最高だったんだ。

 団員のみんなも顔をユルユルにして見てたよね。


 生後2週間もするとヨチヨチと歩き出して,一カ月が経った頃には外で遊べるまでに成長したよね。

 マルクとミルクの成長は僕にとって最高の楽しみだったんだ。

 毎日一緒に過ごしていた,毎日一緒に遊んでいたから,僕らは親友のようになっていったんだよ。


 マルクとミルクが生まれて半年くらいたったとき,将来のために少しずつげいを覚えさせようとしたけど,マルクとミルクにとっては遊びほど楽しくはなく,なかなか芸を覚えてくれなかったんだ。


 お父さんが僕にこのマルクとミルクの世話をさせたがらなかった理由がこのとき分かったよ。

 猛獣使いは動物と友達になってはいけないんだね。

 そのことに気が付いて,僕はとても焦ったんだ。

 なぜなら猛獣使いになりたいという夢が,マルクとミルクと一緒に舞台に立つ,そんな具体的な夢に変化していたからだよ。

 でもこのままだとそれが不可能になってしまうと思ったんだ。


 でも,そんな考えが僕らを苦しめちゃったのかな。

 本当はゆっくり僕らのペースで成長していければよかったのだろうけれどね。


 僕が今までのように振舞わず,きつく当たったからか,マルクとミルクとの間にみぞが出来ちゃったんだ。

 それでも,僕はミルクとマルクもついてきてくれていたと思っていたし,芸を覚える速度は早くなっていったから,僕はこれでいいんだと思っていたんだ。

 いや,思い込んでたって方が正しいのかもしれない。


 毎日毎日,マルクとミルクとの溝が少しずつ深くなっていくの感じながらも,芸を覚えさせることに,晴れ舞台に立つことに夢中だった僕は,マルクとミルクの意思を完全に無視してたんだ。


 だから,マルクがあんな行動に出たのはしょうがないことだと思うんだ。


 《《僕の腕に噛みついたのは》》。


 僕が噛みつかれた直後,お父さんはマルクを殺そうとしたよね。

 でも僕が必死になってそれを阻止しようとすると,お父さんは何とも言えない顔をしていたね。

 息子が殺されかけたと思ったんだろうから当然なんだろうけど。


 この事件を機に,僕はマルクとミルクのお世話係を辞めさせられたね。

 これはとても悲しかったな。

 まぁ,利き腕をなくした僕は自分の生活すらままならなかったんだから,とてもマルクとミルクをお世話することなんてできないのは分かっていたけどね。


 僕が入院しているとき,マルクとミルクがいつも喧嘩しているって聞いたときは信じられなかったよ。

 マルクとミルクの仲の良さは僕が一番知っているからね。


 ミルクはきっと元通りになると信じていたんだ。

 僕らの関係が。


 だからこそ,ミルクはマルクへの怒りが抑えられなかったんだろうって思うんだよ。

 ミルクは頭がいいから,僕が大怪我をしたってことを理解してたと思うし,二度と元の関係には戻れないと思ったんだろう。


 でも僕は,僕が原因でマルクとミルクの間にも溝ができたんだと思うと,涙が止まらなかったよ。

 何でマルクとミルクにきつく当たったんだろうと何回も何回も後悔をしたよ。


 退院した後もマルクとミルクの喧嘩が続いて,でもお父さんから接触禁止令を出され,マルクとミルクに対して何もできないのが僕は本当に悔しかったんだ。

 ただ祈ることしかできないのがもどかしくて,悔しくて。


 流れ星が流れれば祈り,神社を見つければ祈り,教会を見つければ祈り。

 こんなことをずっと繰り返していたね。

 このときはなんにでもすがりたくなっちゃってたんだ。


 しかも,喧嘩が止まらないマルクとミルクの両方ともを飼うのは難しいからと,どちらかを売りに出そうなんて話も出ていたよね。


 このままだと僕らは一生バラバラになってしまうと思ったんだ。

 親友だった頃に戻れなくなるんだと思ったんだ。

 そんなのは嫌だ。


 だからね,僕は夜中にこっそりマルクとミルクに会いに行ったんだよ。

 このままではいけないと思って,マルクとミルクに会いに行っていたんだ。

 接触禁止令を破って。


 後から聞いたけど,僕がマルクとミルクに会いに行ったその日から二人の仲は元通りになったそうだね。

 みんなはとても不思議がっていたけど,お父さんは僕がマルクとミルク会いに行ったんだってすぐ気が付いたんでしょ。

 お父さんはマルクとミルクのことを僕の次に理解してるからね。


 それから毎晩毎晩,マルクとミルクに会いに行って,昔のように遊んだんだ。

 僕らの溝は少しずつなくなっていき,かつてのように親友に戻れたんだ。


 いつの間にかマルクとミルクとの接触禁止令も有耶無耶うやむやになり,僕らは再び一緒の生活をすることになって,ますます僕らの絆は深まったんだ。

 本当,お父さんには感謝してるよ,見て見ぬふりをしてくれて。


 明日はついに初舞台。


 本来は僕には猛獣使いになる資格なんてないし,僕から芸を覚えさせようなんて微塵も思ってなかったんだけど,マルクとミルクがやる気になっちゃってね。

 マルクとミルクが僕の夢を支えてくれたんだよ。


 初舞台の前に,片腕の猛獣使いなんて言われて,僕が変に注目されちゃったけど,マルクとミルクがすごいんだってことを明日は披露できたらいいなと思ってるよ。


 根拠なんてないんだけど僕らなら全て上手くいくと思えるんだ。


 でも,もしものときはフォローよろしくね。

 お父さん。


 百田凛音ももたりおん


 P.S. いつも僕たちを支えてくれてありがとう。


最後までお楽しみいただきありがとうございました。


もしよろしければ評価のほうをよろしくお願いします。


下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると幸いです。


また,感想等もお待ちしております。


よろしくお願いいたします。

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