八
「私はもうどうでもいいと思っています」
「…進路のことでしょうか?」
「はい」
「この学校を卒業する気はある?」
先生の眼鏡のレンズがわずかに曇った気がします。
「そうですね。今の所はそのつもりです」
「……自己紹介の時の発言はあながち虚勢ではなかったんですね」
源城先生が面談が始まって初めてちゃんと私の目を見ました。
ぞわあっと毛が逆立つ感覚がして、半袖から伸びる腕に鳥肌が無数に現れます。きっと先生にも気づかれてる。
「それが綿貫さんの正直な気持ちなら、ぼくにできることはなにかありますか?」
私は黙り込んでしまいました。
どうとでも意味を捉えられそうな先生の言葉に慎重になったのです。
進学する気も、ましてや卒業する気も怪しい生徒に自分がしなければならないことはない、と暗に言っているのか、それでも担任として私の希望を聞き出そうとしているのか。
実験は終盤です。私の意見を聞いたうえで先生は教師としての態度を崩さなかった。あとは目的を伝えるだけなのです。
何も大袈裟な事じゃないですが、私の身体は密かに震えています。
「綿貫さん?」
落ち着かない私の様子に先生が心配します。私は意を決して息を吸い込みます。結果はどうあれ、実験は実験なのです。
「源城先生。橋口さんが先生のこと好きみたいですよ」