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二十一
何か、
何か言わないと、生徒として、何か言わないといけません。
そうしないと、この沈黙はまた橋口さんを怒らせてしまいます。
「綿貫さん?」
源城先生は眼鏡を指先で持ち上げ位置を直しながら、教師らしい心配そうな表情をつくっています。
ずるい。
大人だから、気持ちの切り替えなんて簡単なのでしょう。
私は、もう、だめです。
数学が苦手なのに、それが分かっているのに、それで人生終わったのに、居眠りしそうになるなんて!
源城先生の姿が込み上げてきた涙で歪みます。
「綿貫さん、分からないことを分からないままにしているとそれはもう知らないことと一緒になります。ひとつ、ひとつでいいので分かるまで質問してください」
「先生……」
落ち着いた優しいトーンで源城先生はしゃべると、スラックスのポケットからハンカチを出して私の目の前に差し出しました。




