十三
それからは姉さんに対して遠慮が生まれ、電話もなんだか早めに切り上げたくなったり、春休みに姉さんが学校へ戻ってしまうお別れの時、涙も出ませんでした。
いつもは姉さんを困らせるほど嫌がっていた私の唐突の変化に、姉さんは気づきながら何も言ってきません。
私は生きる気力みたいなものが無くなり、その事に現実が追いついてないと思いました。
すべて夢の中のように不確かに私をただ通り過ぎます。
姉さんをとても愛していたのに、それだけが私を私でいさせたのに。
ロープが外れた小船のように私は漂っています。
「あら、つかささん、お帰りになってたんですか?」
家政婦さんがびっくりしたようにリビングキッチンに入ってきました。
両手にはスーパーの袋が重たそうにぶら下がっています。
「うん」
「今日の夕飯はエビフライでよろしいですか?」
「うん」
「じゃ、作ってテーブルに置いておきますから、チンして食べてくださいね」
「うん……あ、牛乳こぼして拭いたけど、まだ汚れてるかも」
「はいはい」
私は家政婦さんの仕事場を空けるべく、そそくさと二階の自室に戻りました。
まだ苦々しい気持ちが胸の中で渦巻いています。
ベッドの上に置いてあるぬいぐるみをぎゅうぎゅうと抱きしめ、源城先生の言ったことを思い出していました。
「あなたのお姉さんに迷惑がかからないよう気をつけることですね」
これ以上、姉さんに失望されたくなんかありません。




