四
こちらの作品にアクセスが確認されましたので、エブリスタでのんびり続きを書いていますが、できたところまでコピペします。
前ラトゥー国王のレイノルズが誘って、クリープ王子とフェノールと夕食を一緒に取ることになった。
「もうひとり、ゲストを呼んだよ」
嬉しそうにレイノルズがクリープ王子に伝えると、ベルヌーイたちはそれが誰かが一瞬にしてわかり、オレオ姫が表情を変えた。
「君ですら、なかなか会う機会もないと思ってね」
レイノルズが嬉しそうにそわそわしだす。その時間から、その人物が現れるまで、レイノルズが何度も城の玄関に見に行くのは、そこにいるすべての人がわかっていることで、
「誰が来るんですか?」
クリープがレイノルズに訊く。ほかの誰かに訊いてもいいのだが、こういう場合は、本人に訊くのが一番、本人が嬉しいのだとわかっていた。
大体予想している通り、
「うふん、僕の大事な人だよ」
レイノルズは応える。
クリープ王子は改めてその人物が現れるまでにそれが誰かを予想する。オレオ姫にとってはすこし困った人物で、それをベルヌーイが少しフォローしているように見えた。
登城する時間は決まっているのに、レイノルズは門のところまで何度も見に行ったりした後、日が落ちる頃には玄関前に座り始め、ゲストが現れるのをずっと待ち続けた。
そこまで一途な様子にクリープ王子も一緒に座りだす。
「閣下の大事な方のようですね」
「そうだよ。もう、孫もいるのにね」
↩
レイノルズは10代の頃から、王妃になる名家の少女と月に何回か城に呼んで、一緒にお茶会をしたり、食事会をしたりしていた。
「勉強と同じ、将来国王になるものの務めとして」
もちろんあまり、乗り気ではなかった。それは連れてこられた少女たちも一緒で、
「まるで、月に何度か自分たちだけが補習を受けているような気分だったよ」
いつまで続くかわからない。終わりの見えない、補習。
「大人たちの事情も今ならわかるけれどね。国王になる少年と生涯連れそうことができる誰かが見つかるまで続くなんて、考えてもいなかったよ」
少女のうち、誰かが癇癪を起して、もう城に二度といかないとかそんなことがあれば、その少女は不適合と幸運にも認められ、対象から外れる。
「まあ、でも、賢い少女たちはそういう大人の事情をなんとなく理解して、付き合ってくれたよ」
言われたとおりの日時に城に集まり、言われたとおりにお茶を飲んだり、食事をしたりして、時間をつぶし、解散していく。大人の期待とは程遠く。
「そんなことを続けていれば、そのうち、庭で昼寝している少女もでてくるわけで」
「趣向を変えて、毎回ゲストを呼ぶことにした」
「なるほど。つまらないお茶会に人気の姫騎士でも来てくれたのですか?」
クリープがベルヌーイを例えに出すと、
「そう。ベルちゃんのお母さんがね」
↩
ベルヌーイの母親、オイラーは当時流国一の芸妓であった。わざわざ流国から彼女を呼んで、歌や踊りを披露させた。
「一瞬で恋に落ちたよ」
まさか10歳も年上の芸妓にラトゥーの皇太子が恋に落ちるとは思ってもみなかった周りも驚いたことだろう。
「それで、その方との結婚は周りに反対されたんですか?」
芸妓を王妃に望むという展開は容易に想像できた。
「まさか」
レイノルズは微笑む。
「彼女を呼んで、挨拶して、歌を聴いて、踊りを見るだけで僕はもう一日中、幸せな気分だったよ。ようやく世間話ができたのは、オリフィスが産まれた頃かな」
「え?」
レイノルズはお茶会に参加していた名家の中の、周りが勧める女性と結婚していた。
「今でも彼女と何を話していいのかわからない時もあるのだよ」
「何万人もの国民を前に話をすることは全然緊張しないのにね」
「彼女を前にすると、ぼうっとしちゃって。だめだめなおじさんだね」
嬉しそうにレイノルズは続ける。
話をしている間もレイノルズの視線はずっと城の入り口、門衛のいるところにあり、彼女の馬車が現れるのを待っていた。
門衛の雰囲気や人数からしてまだしばらく、彼女が現れるのは後だとわかっていた。それでも、門衛がスタンバイする瞬間から彼女が自分に与えるショーが始まると思っているレイノルズはその状態すら楽しいのだという。
↩
まだ時間があるのなら、この際、すべて聞いておきたい気分になる。
「ラトゥーの皇太子が夢中になった彼女の心を射止めた男性は気になりませんでしたか?」
クリープが少しいらいらとした口調で訊いてしまう。ベルヌーイによく似たダニエルを微笑みながら胸に抱くオレオ姫の姿がまだ脳裏に残る。
「え?あ、ああ、うん。ランベルトのことかな?」
確か、彼女と10歳近く年が離れていたラトゥーの将軍はそろそろ引退を考えているくらいの年齢だったはずだ。
「ああ、そうだ。おもしろい話があるよ。」
「流はそんなことはないんだろうけど、ここ、ラトゥーではまだ識字率が100%ではないんだよ」
「それでね、軍部では採用テストに文字を使わないテストを行う」
「それを思いついたのはランベルトの妹なんだよ」
武具に使う鉄材は山のようにあった。流でみた面白いおもちゃをヒントにした。
「レベルごとに知恵の輪をつくってそれを外して見せる。見本としてね」
一度目の前で外して見せれば誰でもできると思う。そうやって見せて、実際にやらせる。大抵の出来ない者は癇癪をおこして、破壊しても、鉄材ならまた集めて作り直せばいいだけで、テスト用紙を破られるよりも格安だ。
「それが出来れば、採用」
↩
ランベルトの妹はレイノルズのお茶会に呼ばれた少女たちの護衛として、オイラーに会う機会があった。
彼女としては単なる興味で、彼女にいくつか作成した知恵の輪を見せた。そこから縁が出来て、今も知恵の輪作成にオイラー自身が関わってるそうだ。
そうやっているうちについでに長らく独り身だった兄の世話を押しつけるように、二人を結婚させた。
「ランベルトにそんな噂もなく、ある日突然だったから、僕は本当にびっくりしたよ」
もしかしてデマかもしれないとさえ思っていたが。
「ベルちゃんはかわいいし。僕のオレオちゃんの騎士になってくれたし」
「ああ、それにね」
「僕の孫が彼女にとっても孫なんだと思うとね」
「僕はもう本当にしあわせだよ」
門衛が数人突然現れだす。そして、指定の位置に立ち始め、門の外の様子を気にし始める。
「あ」
いよいよ準備が始まることを知ったレイノルズが慌てる。
「僕、最後にもういっかいトイレ行ってこないと!」
まさかのトイレ休憩が入りました。
↩