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姫騎士の蟠(わだかま)りごと  作者: 稲咲心
ラバール編
16/21

3頭の馬が街道沿いを走っていく。先頭には白い騎士服に身を包んだベルヌーイ、その後ろには、ほぼ同じ体格の赤い近衛隊の制服を着たブンゼンバーナーが続き、そこから少し遅れて、青の普段着を着たアスピレーターが続いていた。


まさかこんな急に呼び出されるとは思わなかった、と、ベルヌーイは一人呟く。


「え、何かいいました?!」

すぐ後ろを続くブンゼンバーナーが訊く。


「なんでもない!」

ベルヌーイは前方に向かって叫ぶ。


しばらくして村長の家に到着すると、村長は丁寧に迎えてくれた。流国のどこに行っても、ラトゥーの姫騎士、ベルヌーイの評判は良い。


「すぐに現場を確認しますか?」

村長は簡単なメモを片手に案内してくれた。


「消防の当直が気づいたのが、12時を回った頃」


「鎮火の確認をしたのが午前3時」


「的確な判断で延焼はありませんね。さすがです。」

ベルヌーイは微笑む。村長の背はベルヌーイよりも低く、少し見下ろす形になるため、威圧感を感じさせないために笑顔を心がける。


「原因はつかみましたか?」


「ええ、放火でしょうね」


「キッチンはほぼ燃えておらず」


「庭木がメインでしたので」


「なるほど」


「火事のことはわかりました」


ベルヌーイはウォッベの元王妃、ベンチュリの住んでいた家が燃えたくらいでここに来たわけではなかった。

ベンチュリが住んでいた、屋敷とは言えない粗末な家の裏に回り、そこからキッチンへ続く勝手口に向かう。村長の言った通り、日常的に火を扱うこの場所はほぼ無傷に近かった。多少壁がすすけているくらいであった。


「庭木をメインに燃やして、庭の隅で放置されていた物置小屋に延焼、そこからリビングの屋根に燃え移った。」


「というところですね」

ブンゼンバーナーがベルヌーイの後ろで呟く。


ベルヌーイとブンゼンバーナーは勝手口から中にはいり、寝室を確認する。足裏に何かを感じて、それが何かを確認する。


「それで元王妃はその後は?」

アスピレーターと村長が庭木が燃えた跡のところで話しているのが聞こえる。


ベルヌーイが足元から拾ったものを観察する。

「…」


「思わぬものが思わぬところで戻ってきましたね」

ブンゼンバーナーがのぞき込んで、うんうんと頷く。


「それ、ウォッベ潜入の時に元王妃にとられたって言ってた髪飾りですね」


ベルヌーイは無言で髪飾りをくるくると回す。


「それは置いて行ったようですね」


火事の後、ベンチュリはここから大慌てで荷物を取り出してどこかへ行ったらしく、寝室の扉と言う扉、引き出しという引き出し、すべて開け放されていた。


「どこに行ったんでしょうね」


「息子のグラスホフのところではないし」


「この家を買ってもらった男とはとっくに縁が切れているようだし」

「庭木がメインで焼ける、ておかしいよな」

庭先に戻ってきたベルヌーイが呟く。


「愉快犯かもしれないですよ」

アスピレーターが応じる。


「近くの街はもちろん集落からも完全に距離のあるところにわざわざ来るぐらいなら、もっと近場の人気のないところを選ぶ気がするんだよな」

ベルヌーイの言葉に、


アスピレーターは足元に何かないかを探し始める。反対にベルヌーイは座り込んで考え始める。


「どうする?」

ブンゼンバーナーは何かを探しても、何かを見つけられない自信があるので、どうしたらいいのか困っている。


「…」

言うべき言葉が見つからないベルヌーイに、


「こういう時、現場百回ていうけど、そんな頻繁にここにはこれないしなあ」

何かを探しながら応えるアスピレーターが、適当なものを見つけては、ブンゼンバーナーに手渡す。


「着火剤代わりの油脂の残り。」

ブンゼンバーナーが呟く。


「放火、と断定したのはこれがあったからだろうな」

アスピレーターが呟く。まだ何かを探している。


「着火剤があるし、こんな辺鄙なところにわざわざ来たんだから、計画的放火だよな」

ベルヌーイが確認するように呟く。


「何を考えてる?」

ブンゼンバーナーが訊く。


「目的。」

「動機。」

ベルヌーイとアスピレーターはハモらなかった。


一瞬アスピレーターが顔を上げて、ここはハモれよと無言の圧力をかけたが、ベルヌーイは気づかないふりをした。

一旦、ラトゥーの城に戻り、状況をラトゥー国王、ラトゥー皇太女に報告する。ベルヌーイの息子、ダニエルは皇太女に抱かれていた。


ベルヌーイが引き取ろうと両手を出すと、ダニエルは無言でぷいと反対方向を向いてしまう。反対側の視線の先には前ラトゥー国王、レイノルズがにこにことダニエルに向かって両手を伸ばしていた。


普通、一日、親の自分と離れていたら、帰ってくるまで泣いているものだろうと思ってたのに、ダニエルにとっては相手してくれる人が多い城の方がおもしろいのか終始ご機嫌で、帰る気もなさそうである。


「ウォッベに急いで帰る理由もないだろう」

オリフィスが息子のダニエルのよだれかけを替えながら、そう言えばそうなってしまう。


スパッタ王女はどうかと言うと、新しくできた弟?に対してすっかりお姉さんになっていた。よくわからないダニエルにきちんとおもちゃの正しい使い方を教えているあたり、教育熱心である。


話の内容からダニエルは席を外した方がいいと思うが、誰もそれを言うものがおらず、ベルヌーイは諦める。


「燃えていた庭木も、なんだかぱっとしないわねえ」

オレオがベルヌーイがもってきた報告書を確認しながら呟く。


「抜かれていた庭木もないんでしょう?」


「でも庭に何かあったんでしょうね」

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