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白きドレスに淡き永遠の孤独  作者: うみゆき
淡い花火は儚く散って。
8/12

夏の終わり

こんな夢を見た。


僕は暗闇を歩いていた。視覚を感じることさえ許されないような、永遠の闇。

そこで僕は、問題の彼女と対面していた。

闇の中で、お互いを確認できないまま。


「こんにちは」


挨拶をする。

しばらく時を置いて、返事が返ってきた。


「ごきげんよう、隼人くん」

「僕は君の名前を知らないのに君だけ知っているなんて卑怯だね。僕が呼べないじゃないか」

「私の名前を知りたい?」

「君が良いというならね」


彼女がくすりと笑う。

彼女の声は実際に対面して聞いてみると透き通った素敵な声だった。


「サンドラと知り合いだと隼人くんは前言ってたよね」

「そうだね」

「サンドラの事はどれくらい知ってるの?」

「僕は全然彼女については詳しく知らないよ。ただ、彼女は僕と同じ淡色の永遠の孤独の中に生きている。誰も救い出すことは出来ないし、彼女も僕も救われる事を求めている訳でも無い」

「そうよね、サンドラも隼人くんもちっとも自分の命の事を考えてはいないよね」


僕が頷くと、彼女は再確認するように僕の手を握って言った。

温もりに満ちた手だった。


「もう一度聞くけど、隼人くんはサンドラの本名も知らないんだよね」

「探すことも失礼だと思ったから、彼女の口から直接出てくるまで待ってる最中だよ」


そんな時、少しずつ灯が明るくなってくる。

彼女の姿が明らかに浮き彫りとなってくる。

彼女は、白い肌の童話に出てきそうな美しい女性だった。

僕よりは年下に見える。

そこで彼女は僕に優しく微笑んで言った。


「私の名前は、秋川沙耶。秋川という苗字は好きじゃないから抵抗なく沙耶と呼んでくれたら嬉しいな」

「…うん。君にちゃんをつけるのも悪い気がするから、普通に沙耶と呼ばしてもらうよ。その名前は両親から決めてもらったものなのかな?」

「そうだよ。だからあんまり好きで名乗りたい訳じゃないんだ。だけど隼人くんには知って欲しくて、今名乗らせてもらったの」

「でもそっちの方が気軽に話せて僕は満足してるよ。ところで、サンドラちゃんを知ってるみたいだったけど君はサンドラちゃんとどういう関係なの?」


僕の質問に彼女は少し考えるそぶりをした後に言った。


「腐れ縁、かしらね。私はサンドラの事を嫌いだし、サンドラも私の事を嫌いなはずよ。お互い、出会いたくないのに出会わなければならなかった。そんな関係」


彼女の肌は白すぎて、闇に呑まれたら帰って来れ無いような気がした。

そして、彼女の後ろにはもう闇が迫って来ているのも目に見えて分かった。


「私の命はそんなに長くないの。貴方よりは長いかもしれないけれど、きっと貴方が死ぬまでに、私は消失すると思うんだ」

「沙耶は消失したらどこにいくんだ?」

「そんなの分からない。人間死んだら天国に行くかもしれないし、地獄に行くかもしれないよね。私はきっとそんな場所にも行けずにこの世をさ迷いつづけるんだろうけど」

「さ迷って、また僕のような残念な人に取り付いて生きるのか」

「私はもう独りで居たくないの。独りは淋しくて、怖かった。だからこそ誰かと共存していたかったんだけれど、案外うまくいかないもので私が取り付いた人に挨拶をすると、相手は狂ったように騒ぎだして会話もしてくれないの。ずっとずっと、私は独りから変われなかったわ。隼人くんと出会うまでは」


彼女自身恥ずかしいことを言っているという自覚はあるのか、少し頬は紅く染まっているように見えた。

そんな彼女を見ていると、僕まで恥ずかしくなる。


「貴方も私を拒絶するように見えたけど、私と話してくれたよね。今だってそう、貴方は私との関係を切り離さないでくれた。そして私の事を救いたいと言ってくれた時は、泣きそうになるほど嬉しかったの。私を理解してくれる人がいて、私はその人に偶然出会うことが出来たって。だけどそれは違ったのよ。貴方は私と出会うべくして出会ったの」

「…え?」

「サンドラを、よろしくね。私は貴方の事が好きだから、貴方の身体を奪おうなんて事はしないから安心して。貴方だってそう長くないのだろうけれど、最期までサンドラの傍にいてくれたら私は嬉しいわ」

「沙耶」


僕は彼女を抱擁した。

柔らかい身体が僕の肌に触れ、優しく動く。

辺りがゆっくりと暗くなって行く。


「ごめん」


暖かい彼女の温もりが、暗闇の中でも結晶のように光り輝いていた。



「ねえ、サンドラちゃん」


僕らは夜道を二人きりで歩いていた。初夏のせいかまだ蒸し暑さが残っていて、購入したアイスを片手に荷物を運んでいた。

荷物というのは僕とサンドラちゃんの部屋を飾るためのインテリアの事だ。サンドラちゃんの思ったより多い注文に僕らは(特に僕は)死にそうになりながら荷物を運ぶ羽目になったのだった。


「何?」

「夏だねえ」


蝉が鳴く声。

温風の砂を持ち運ぶ音。

全てが陽炎のように揺らめいている。

僕らの存在さえも。


「そうね」

「夏は、僕が一番好きな季節なんだ。揺らめいて見える陽炎が、世界を包み込んでくれるようでね。僕は夏に自分を隠していたんだ」

「不思議な理由ね」

「今年の夏は、もっと楽しい予感がするよ」

「どうして?」

「だって…」


上目使いで僕を見るサンドラちゃんに自然と僕は笑っていた。

当然の答えを言うからだろう。


「――――サンドラちゃんが、僕の傍にいるからだよ」


僕の言葉を聞いて、サンドラちゃんは呆れたように微笑んだ。


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