たんぽぽの名前
「あのね、人は死んだら花になるんだよ」
そう言った君は、両手を空に上げ キラキラとした目をしていた。
綺麗だと思った。
なんでそう思ったかはわからないけれど…
夕暮れの空が綺麗だと思ったのか、それとも……
***
学校の帰り、幼馴染と河川敷で話すのが習慣だった。
春のあの日も河川敷で話していた。
「花?そんなの聞いたことないぞ」
君はイタズラっ子のような笑顔で言った。
「そりゃそうだよ。だって、今考えたんだもん」
俺は呆れてため息を吐いた。
いつも、君が話すことは意味がわからない。
でも、今日は一段と意味がわからなかった。
「だって、死ぬのって怖いでしょ?」
「それは、まぁ……」
君は、近くにあるたんぽぽを手に取った。
「でも、死んだら綺麗な花になるんだって思ったら そこまで怖く感じないの」
確かに、死んだら何もないと思うから怖いと感じてしまうのかもしれない。
綺麗な花に…か。
「誰かが、その花を手に取って 綺麗だなって見つめてくれるだけで幸せを感じると思うの…」
君はたんぽぽをじっと見つめながら、小声で「綺麗」と呟いた。
俺は顔を上げた。夕暮れの空が綺麗だった。
「じゃあ、俺は何の花になるんだろうな」
君は俺を見て、少し考え込んでから言った。
「そうだなぁ、雑草…とか」
俺は上げていた顔を戻した。
「はぁぁっ!?なんでだよ!?」
君は、ふふと笑った。
「だって、雑草はどこにでも生える強い草なんだよ。強い君にはピッタリだよ!」
「はぁ…つぅか雑草は花なのか?」
ごめんな、俺は強くなんてないんだよ。
「うーん、どうだろ」
君は笑った。
その笑顔をずっと見ていたかった。
「お前は何の花になりたいんだ?」
俺は女々しい奴だ。
「…たんぽぽ!たんぽぽになりたい」
君は儚げにじっと、たんぽぽを見つめた。
俺は、お前がいなくなった今でも…
お前との記憶に縋り付いてるんだ……
***
たんぽぽの話をした3日前。
君は治らない病気で余命も宣告されていたらしい。
昔から体が弱いことは知っていた。
でも、まさか こんなあっけなく死んでしまうとは……
君は必死で探したんだろう。
死ぬのを怖く感じない方法を。
君がいなくなった今でも、俺は学校の帰りに河川敷に行っていた。
きっと、頭の片隅で君を探していたんだ。
俺は立ち上がって、家に向かおうとした。
「あ…」
足元にたんぽぽが咲いていた。
そうか、あれから一年が経ったのか……
俺は、たんぽぽの前にしゃがみ込んだ。
「綺麗だな」
入学おめでとうございます!
花言葉を調べてみるのもいいかもしれません。また違った見え方になりますよ。