互いの理解度を試しましょう
なるほど、ここに来てようやくペアゲームらしいなと、紬はふむと頷く。
しかしこのゲーム内容なら、他ペアの方が有利なのではないかとも危惧する。
なんといっても、紬とジンはまだ出会って半年な間柄。ギャルペアのように恋人同士でもなければ、中学生ペアのように初々しい青春まっさかり同士でもない。
所詮、家主と押しかけ居候。
漫画家とアシスタント。
なんなら種族も違うのだ。
それなりに仲良しな自覚はあるが、相手への理解度勝負は少々分が悪い。
「まあ、今までのゲームでぶっちぎり絆ポイントを稼いできましたし、ラストゲームはそこそこの成績でもなんとか……」
「――――なお、このゲームで勝てば絆ポイントは今までの五倍! 大逆転のチャンスです!」
「そういうこと言い出す!」
じゃあ今までの勝負はなんだったんだ!?
紬は運営のやり方にもの申したかったが、観客陣はふーふー! と盛り上がっているため、水を差すようなことはいえない。どんな勝負も、負けている組に逆転のチャンスがあった方が燃えるものだ。
「うう……たまにありますよね。こういうラストがすべてで、過程はガチ無視的なの……お絵かきがんばったのに……」
「まあまあ、ツムギ。この勝負も勝てばいいだけではないか。我々のお互いへの理解度はたいしたものだぞ。皆に見せつけてやればよい」
「ジンさん、私の誕生日とか知っています?」
「ん? あ、当たり前だろう。そうだな……に、二月十四日?」
「バレンタインデー! 違います、十二月です! じゃあ私の血液型は!?」
「rhマイナスだったかな……」
「B型です!」
基本的なパーソナル情報すら知らないのに絶望的である。
あああと苦悩する紬に、ジンは慌てて言い募る。
「でもでも! 我は男性側だから、己の回答を正直に書くだけだぞ! 我の答えを予想して書くのはツムギなんだからな!」
「うっ……そうでした。そっちはそっちで自信ないです……」
「ツムギなら大丈夫だ、我のこと大好きだからな! 必ず当ててくれると信じているぞ! あ、我もツムギのことは大好きだぞ!」
「へ!?」
「おおっと、公開告白かー!?」
うるせえ、司会者。そこだけ拾ってんじゃねえ!
ジンのストレートな物言いに、他意はないとはいえ、不意打ちでドキッとした自分を内心で平手打ちしつつ、紬たちは再びスタッフが風のように用意したペア用の回答席に着く。
席が二つ並べられ、それぞれの前には画用紙とマジック。これに答えを描き込むらしい。
ペアの間には衝立でしきりもされていた。
「任せてね、まー君! まー君のことなら、私なんでも知ってるから、みたいな? 自信あるしー!」
「俺、みきりんのことマジ信じてっから」
「まー君……」
「みきりん……」
見つめ合うギャルカップルに。
「に、西田先輩の好きなもの、私はちゃんと把握してますから安心してください! その、ずっと先輩のことを見てきたので……」
「……なあ、それってどういう意味」
「あっ……な、なんでもないです」
「ふーん……」
激しいブルースプリングを吹き荒らしている中学生ペアに。
「逆に聞きますけど、ジンさんって誕生日いつなんですか」
「魔人にはそういった概念がないからな。あれだ、365日がバースデーだな。毎日お祝いしてくれてもよいのだぞ」
「じゃあ特に祝わなくていいですね。血液型は? そもそも血とか流れているんです? 色は赤? まさか青とか緑です?」
「言われてみれば……我の血って何色なんだろう……やだ、怖くなってきた……」
不安しかない漫画家ペアに。
反応は三者三様だったが、司会者は「盛り上がってますねー」と満足そうにうんうんと頷き、さっそく一つめのお題を発表する。
「一つ目のお題はずばり……『好きな食べ物』! これは信頼するペア同士なら知っていて当然ですね。かなり初級のやさしめなお題かと思います。男性は自分の好きな食べ物を正直に、女性は男性の答えを予想して書いてください! はい、スタート!」
「ジンさんの好きな食べ物か……」
紬は腕を組んで難しい顔で考える。
何気にジンが押入れに現れて、奇妙な同棲生活をはじめてから、ジンと紬はいつだって食事を共にしている。魔界のものならお手上げだが、さすがにここは空気を読んでジンも人間界のものにするだろう。
それなら記憶たどれば当てられるかもしれない。
思い出せ……あの魔人が嬉々として食べていたものを……と紬は念じる。
余り物チャーハン……はジンさんが作ったんだった。一緒に出されたデザートもおいしかったな。
ふわとろオムライス……もジンさん作か。ケチャップアートがクオリティ高すぎて、SNS映えヤバかったんだよね。
クラムチャウダー……もジンさん作。
すき焼き……も私が作ろうとしたのに、台所を乗っ取られて結局ジンさん作。
温玉カレー……は私の好物か。いやまて違う。私の好物でもない違う。早く改名したい、この『温玉カレー丸』っていうペンネーム。次はもっとまともな名前にする。
などと思考が斜めに逸れつつも、紬はようやく「これじゃね?」という答えをひとつ見つけた。
当時のジンの『アレ』を食べているときの感動っぷりといったら、天上に昇る勢いだった……気がする。
「よし、これだ」
紬は画用紙に答えを書き込んだ。
ギャル女子は「超余裕だしー! 百パー正解っしょ!」と、女子中学生は「西田先輩のことなら……24時間、どこにいても見張っていますから。このくらいは基本です」と、それぞれ自信ありありのようだ。
というかなんかヤバいぞ、女子中学生。逃げて西田先輩。
「さてさて皆さん、答えは出揃ったようですね。どうですか、暫定一位のペアのジンさん。当ててもらえる自信はありますか?」
「無論だ。我々は強い絆で繋がっている。具体的には、寝食を共にし、どこに出掛けるのにも一緒で、同じひとつの理想を追い掛けている仲なのだ(※漫画家とアシスタント的に)」
ジンの明らかに誤解を招く発言に、悠由たちは「やっぱり紬とジンさんって……きゃー!」やら「あれはすでに入籍しているわね……」やら、支離滅裂な興奮状態に陥っている。
帰ったらシバこう。
アイツの未読の漫画、最後まで朗読する極刑に処してやると紬は笑顔で決意した。
「いやあ、熱に当てられてしまいましたね。ははっ、これが永遠の愛……ってやつかな?」
「司会者ウザい!」
人差し指で鼻の下をへへっと擦りながら、キメ顔をする司会者に、紬は不敬とか忘れて対ジン相手のようにツッコミを入れてしまった。メンタルが鋼な司会者は「褒め言葉です!」と、親指を立てて進行を再開する。
「それでは! いっせいに答えをオープンしてください!」





