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お化け屋敷は乗りきりました

『ここはお化け屋敷じゃないよ、楽しい楽しいアメリカンホームパーティーの会場だよ』と紬が暗示をかけ、それによって恐怖を払拭したジン(あほ)は、その後、ものすごい勢いで追い上げを見せた。


 血濡れの看護師さんが襲いかかってきても……

「くっ、待つんだアンジェリカ。今はアルフレッドのパーティーの招待状を探している。はしゃぎすぎもいいが、しばし落ち着け。アルフレッドのためにも」

 と交わし。


 腐乱したお医者さんが床を這ってきても……

「ジョン、いくらカクテルを飲みすぎたからといって、床で寝るのは感心しないぞ。今はアルフレッドがパーティーを追い出されるかもしれない危機なんだ。あ、招待状みっけ」

 と相手にせず。


 いきなりドアがバーンと開いても……

「おやおや、アルフレッドのイタズラかな?」

 困ったやつだHahahaと笑い飛ばし。


 実に余裕綽々な態度で招待状を集めていった。


「アルフレッド推しすぎじゃね?」と思いつつ、紬も紬で招待状(という幻想を見せているだけの、ポイントの書かれているお札)探しを黙々と行い、二人分を合わせると、お化け屋敷を無事に出る頃には分厚い束になるくらい揃っていた。


 しかも腐ってもジンは有能魔人。

 的確に高ポイントのお札だけを集めてみせたのだ。


「これでアルフレッドも浮かばれるな……アイツ、あのパーティーに参加するの、小さい頃からすごく楽しみにしていたから」

「なにその私も知らないセピア色のメモリアル。ジンさんの中でアルフレッドってなんなんです? 知らない間になくてはならい唯一無二の親友みたいになってません?」


 紬の暗示が利きすぎた単純なジンは、少々世界観に入り込みすぎて、勝手にアルフレッドと幼馴染みの親友関係にまで設定が飛躍していたが、なにはともあれ想像以上の成果をあげてお札探しは終えられた。


 そしてあっという間に全組のお化け屋敷inお札探しゲームは終了し、今は結果を集計中である。


「紬とジンさんってばすごいねえ! 私なんてほとんど集められなかったよ。途中で自分のペアがアズマ君かカズマ君か、なんかよくわからなくなったし」

「私たちはお札の数はけっこう集めたんだけど、スカばかりね。あと荻なのか萩なのか途中でわからなくなったわ」

「……なあ、アズマ。お前さ、何回間違えられた? 俺は23回」

「俺は32回。俺たちさ、もっと個性を磨いた方がいいかもしれねえな……」


 お化け屋敷の前で皆々が集まり、集計の結果を待っているところで、ジンと紬は悠由たちとも合流した。彼等の成果はいまひとつだったようで、まさかの紬たちが一気に期待の星となる。

 ジンはふふんと得意気だ。「私の暗示のおかげのくせに……」と紬はじっとりした目でジンを見つめる。


「なんだ、紬。我に礼を言いたいのなら、いくらでも申してみよ。我を讃える言葉になら、心はいつでもオープンハートだぞ」

「私の心はクローズハートですよ。あんなに最初は足引っ張っていたくせに、さも己の功績と言わんばかりのその態度。生意気な」

「……人間ってさ、そういう時代を経て強くなるよね」

「お前は人間じゃないだろ……あ、集計結果が出たみたいですよ、ジンさん」


 壇上に司会者が立ち、相変わらずの高いテンションで「皆さんご注目!」とアナウンスをかける。朱色に薄闇が滲み出した空に、キーンとマイクの音が走る。


 結果発表は下から読み上げていくらしく、早々に名前を呼ばれてしまった悠由&アズマペアは肩を落とした。「ごめんね、私がお化けさんのクオリティの高さに感動して、SNS映えを意識した写真を撮りまくらなければ……」「悪い、俺の個性がもっと薄くなければ……」と謎の反省会をしている。


 上位のターンになってきて、これは決勝進出メンバーになれるかと思いきや、切り捨てで呼ばれたのが凛子&カズマペアだ。こちらは「あんたが荻なのか萩なのか、アズマなのかカズマなのか、もっとはっきりしていれば……!」「お前だって、お化けを逆に怯えさせて萎縮させなきゃもっと……!」と、仲間割れを起こして睨み合っている。


 いまだ名前を呼ばれていない紬&ジンペアは、ひたすらドキドキである。


「ど、どうする紬! 心臓が早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだぞ! 魔界で数百万のゴブリン暴走族に囲まれたときにも、ここまでの緊張は感じなかった……!」

「あきらかにそっちの方が心臓終了案件なんですが」

「ゴブリンたちが特攻服に全員リーゼントだったからな。あれは怖かった」

「なにそれちょっと見たい……あ、ここを越えたら上位ですよ!」


 上位三組までが決勝進出で、四位にも紬たちは名前を呼ばれなかった。これだけでも、紬とジンは手を取り合って喜んでいたのだが、二位、三位ときて、そのまま驚きの一位である。


 わっ!と、周囲から拍手が巻き起こる。


「お、おおお! 一位! 一位だぞ、紬! これでアルフレッドにも星屑少年にも報いることができるな!」

「星屑じゃなくて星野ね! でも肝心なのはここからですよ、ジンさん! 次が決勝ですよ!」


 悠由や凜子、オギハギコンビからも「やったね!」「すげえ!」と称賛が注がれた。きゃーきゃーと盛り上がっていると、にこやかな司会の声が続く。


「一位のペアのお二人は、お化けスタッフからの評判もよく、異例のお祝いコメントも届いております!

『腐乱死体さん(28歳・独身)、とても怖がらせがいのある外国人さんで、ついここ数年出していなかった本気を出してしまいました』

『血塗れ看護師さん(32歳・本業主婦)、なぜか途中からジェニファーと名付けられましたが、リアクションが大きくこちらも楽しかったです。あの情けないイケメンの面倒を見る女の子に敬意を評したいです』

『頭に包丁が刺さっている患者さん(40歳・既婚)、彼とは初めて会った気がしなくてな……まるで幼い頃からの親友のような気分になったよ。ありがとう。達者でな、友よ』

 皆さん、とても好意的なコメントばかりですね! 本当におめでとうございます!」


 これ読み上げる必要あった!? ラストのアルフレッドだよね!?


 司会に内心で激しいツッコミを入れつつ、なにはともあれ目出度い結果に、紬も素直にジンとハイタッチをしておく。

 この後は、観覧車前の特設ステージに移動して、いよいよ三組による決勝戦を始めるそうだ。紬は気合十分だったのだが、ラストゲームのタイトルを聞いて、一気に不安になってしまう。



「これからはじまる決勝のお題はこちら! 『ペアの絆を確かめよう~私たちの愛は以心伝心マジ卍~』ゲームです!」



 すごく胡散臭かった。


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書籍版が4/17、ファン文庫から発売です!
タイトルがちょっと変更してます~
内容はけっこう改稿しておりますが、ほっこりコメディなところは同じです♪
よろしくお願いいたします!
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