人間回収車
「えぇー こちら、人間回収車です。不要になった人間を回収いたします。」
今日も人間回収車は行く。
不要になった人間を回収するため。
黒い髪の青年は行く。
いらなくなった人間を回収しに。
* * *
「すいません。これ、お願いします」
そういって、人間回収車に近づいてきたのは 50代くらいのおばさん、いや、お母さんだと察した。
たぶん、引きずりながら持ってきたのだろう。
男の尻は地面にくっついている。
女の人は、手で30代くらいの男の腕を掴んでいた。
「わかりました。不要だと判断した理由は?」
本当は何か、わかっている。
こういうのはとても多くあることだ。
「この子。34になっても働かないんです」
女の人の目から涙が零れ落ちる。
男は、怒りながら言った。
「だから、働こうとしてるって言ってんだろ!」
男は今にも殴るような勢いだ。
「何を言うの!いつも部屋に引きこもって…。もう、辛いのよ」
女の人は本格的に泣き出した。
「わかりました。それでは、回収いたします」
僕は、男の腕を掴んだ。
すると男は、怒り 僕を突き放した。
僕は尻餅をついた。
「ふざけんじゃねー!なんで、俺が回収されなきゃいけねーんだよ!」
僕は起き上がり、男に近づく。
「何してるの!暴力はダメでしょ!」
女の人は、少し怯えていた。
男がもし 今刃物などを持っていたら、きっと人殺しになっているだろう。
僕は、男の腕を今度こそ掴み トラックの中へと入れた。
男は、抵抗していたが 僕はこの仕事を何年もしている。
いわば、プロだ。
トラックの中は防音だから、何をしても聞こえないだろう。
僕は女の人にお辞儀をしてから、運転席へと腰掛けた。
女の人は、泣きながらも安心したようだ。
僕は他の場所へと運転する。
「えぇー こちら、人間回収車です。不要になった人間を回収いたします。」