082:思惑の根は断たれ、恵みは巡る
気がつけば連載開始から一年が経っておりました。
これからもよろしくお願い致します。
扉を開けて中に入る。
花噴水の内側は、植物の中というよりもまるで建物の中のようだった。
筒状の建物――一種の塔だ。
もっとも、壁は石や煉瓦を積み上げてつくった時のような溝などは一切無く、凹凸のない滑らかな陶器のようだった。
ちょっとした運動場のような広さの部屋の中心にも、花噴水が植えてある。だが、その花噴水の足下には、ほかの花噴水にはない機材のようなものが色々と設置してあるようだ。
恐らくあれこそが花噴水の本体――あるいは制御装置なのだろう。
それ以外にも、枝のない細い花噴水のような柱があちこちに点在している。
「くぅぅッ、テンションあがってくるわぁ……」
溢れ出る笑みを押さえようともせず、ユノはその中心にある花噴水へと駆け寄っていく。
さっと制御装置に目を走らせ、仄かに光る紫雲英の不枯れの精花にマナを巡らせた。
すると、正面のガラス板のようなところに花導情報板(フィールボード)が出現する。
「この花噴水、随分と前から――もう五十年以上も前から不調を訴えてはいたようね」
花導情報板には、貯水湖に異物を関知しているという障害情報が表示されていた。
「これだけ長い時間稼働してるのに、地底湖以外に障害が発生してないのはそれはそれで恐ろしいけど……」
苦笑しながら、花導情報板を操作して、内部の地図を表示する。
「待っててね。今、五十年続く痛みを取り除いてあげるから」
「何ともまぁ、慈愛に満ちたお顔ですコト」
花導情報板と対話するように操作しているユノの遠巻きに見ながら、レインが思わず呟いた。
「花導品との対話は、ユノにとって、貴方が楽しめる相手と戦うのと同じくらいの人生の楽しみなんだから邪魔しちゃダメだよ、クラウド」
「マジか、それは邪魔できねぇし、邪魔しちゃならねぇなッ、邪魔もさせないッ!」
ユズリハは軽い冗談混じりだったのだが、クラウドはやる気のない死んだ魚のような瞳に光をともしながらうなずいた。
あまりにも強い反応だったので、冗談を口にしたユズリハが驚くほどだ。
(クラウドにとって、私の存在がそういうものだとしたら――どこかで一度、本気で相手してあげた方がいいのかもなぁ……)
ただそれは今ではないな――と胸中で苦笑しながら、ユズリハは周囲を見渡す。
ユノが花導情報板に地図を表示しているようなので、地下への道はすぐに分かることだろう。
その間に、自分は周辺に脅威がないか警戒するだけだ。
「恐らくだが、この内部には敵性体の存在はないぞ。オレを楽しませるコトができる女」
「ユズリハ」
嘆息混じりに、ユズリハは自分の名前を口にする。
「ん?」
「私の名前。ユズリハ・クスノイ。
いつまでも、その変な呼び方しないで欲しいんだけど」
「そいつは悪いな。どうにも人の名前を覚えるのが苦手でな」
「そういうのは人それぞれの能力みたいなものだから良いだけどさ、そうは言っても『オレを楽しませることができる女』だなんて相手を呼んで自分だけ楽しんで、相手を楽しませるつもりがないっていうのはいただけないよね?」
「そんなコト言われてもなぁ――オレは他人を楽しませる方法なんて、これしか分からないんだよ」
そうして剣を示して見せるクラウドに、ユズリハは軽く肩を竦めた。
「だったら、まずは相手を不快にしないコトから始めたら?
別に全員に対してそうしろとは言わないから、せめて自分が認めた相手くらいには、さ」
ユズリハが告げると、クラウドは困ったように眉を顰めた。
「したいのはやまやまだが、どうして良いのか分からない」
「簡単だよ。少なくとも私に対しては、名前で呼んでくれるようになればそれでいい」
「うーむ……」
「そんな難しいコトかなぁ……」
困り顔で苦笑して、ユズリハは告げる。
「呼びづらいなら最初はユズでいいよ。
いつか私に本気で相手して欲しいなら、フルネームも覚えてね」
「マジでッ!? 覚える覚えるッ! 覚えるからッ、絶対に本気で付き合ってくれよッ!」
「はいはい」
あしらうようにうなずいて、ユズリハはフロアの中を歩き始めた。
ユノの邪魔にならない程度には周辺の状況を把握しておくべきだろう。
フラフラとフロアを歩き回るユズリハ。
その後ろを付いて周りながら、何か嬉しそうなクラウド。
それを見ながら、ライラは首を傾げた。
「会話だけ聞いてると、クラウドさんがユズお姉ちゃんにプロポーズしているような……」
「彼にその自覚はありませんよ?」
ライラの言葉に、レインが反応しながら肩を竦めてみせると、ライラも理解してると、笑みを返す。
「だよねー」
そして徐々に――散歩中、飼い主にジャレつく犬と、それを軽くあしらう飼い主のようにもなっていくが、ライラは気にしないことにした。
どっちがどっちなのかは、言わずともがな。
「これでよし、と。
ユズ、ライラ。地下へ行くわよ」
花導情報板からの情報収集を終えたユノは、二人へと声をかける。
二人はそれぞれに返事をすると、歩き始めたユノの近くへと駆け寄っていく。
ユノは一見何もない柱の前まで行くと、それに手を翳す。
すると、そこに花導情報板が出現。合い言葉の入力を求められるが、ユノは躊躇わず入力した。
「何で合い言葉知ってるの?」
「制御装置の花導情報板に、変な詩が混ざっててね。それが合い言葉に対応してただけよ」
ユノが入力を終えると、入り口の扉から見て、ちょうど向かい側の床が動いて階段が現れる。
「なんか、結構厳重?」
一連の流れを見たユズリハがユノに問うと、ユノは困ったような顔をして曖昧に首を振る。
「それもあるけど、マリア・クイン・プロテアはこういう仕掛け考えるの好きだったみたいよ?」
「うー……イメージ崩れるなぁ……」
以前からクイン・プロテアに興味を持っていたライラにとってはショックな事実だったようだ。
それを慰める――というわけではないが、ユノはライラに告げる。
「英雄――なんていうのは当時の情勢や、後世の研究の結果でしかないのよ。周囲がどう言おうと、彼女は英雄である前に、一人の人間だったってだえけでしょう。
自分の理想を、現実に押しつけちゃダメよ」
「……はーい」
イマイチ納得していないようではあるが、別にそれで構わないとユノは思う。
今は納得できずと、いつかそれを理解してくれればそれでいい。
「ほら、とりあえず降りるわよ」
ユノは二人にそう言って、壁に沿うように螺旋を描く階段を下りていく。
ユノたちが階段を下りていくのを見送りながら、クラウドはレインへと向き直った。
「あいつらは地下に行っちまったけど、オレらはどうするレイン?」
そう問うてくるクラウドは獣人族ではなかったはずだが、何故か元気なく萎れている犬の耳と尻尾を幻視してレインは思わず吹き出しそうになる。
なんとかそれを自制して、返事をする。
「さて、どうしましょうか」
実際、どうしようか迷うところだ。
とはいえ、ユノが精霊を通じてドリーとサニィを呼んでいたので、ここで待機するのが一番だろうとは思うが。
レインがそんなことを考えていると、背後の扉の開く気配を感じて、警戒しながら振り返る。
入って来たのは、ドリーと呼ばれていた綿毛人と、サニィだった。
「お、サニィじゃねぇか。無事か?」
「何とかね……迷惑かけたわ」
「そう思うのでしたら次からはお気をつけたくださいませ」
「……ええ」
「何だよ病み上がりのやつにまできっついコト言ってやるなって」
「いいわよクラウド。レインが言ってるコトも間違ってないから」
三人のやりとりの横で、ドリーがキョロキョロとしている。
それを見て、レインは彼女へと告げた。
「ユノ・ルージュさんたちでしたら、地底湖へ向かいました。
下で何が起きているのかまでは分かりませんから、ここで待機するコトをすすめますけど?」
「……そうですね。では、そうさせてもらいます」
やや緊張した面もちでうなずくドリーに、サニィが小さく笑った。
「別に、わたしたちは貴女をとって喰ったりしないわよ」
「されても困りますが……」
「少なくともこの場では休戦――っていうか、そもそも指輪が絡まないなら、積極的に敵対する理由はないの。
もうちょっと肩の力抜いて平気よ。むしろ、わたしを助けてくれた貴女にそんな警戒されるのも、ちょっと疲れるわ」
サニィが告げると、ドリーはキョトンと彼女を見つめる。
「な、なによ……?」
「あー……いえ、サニィお姉さまもユノお姉さまは本当にソックリなんだなと改めて思いまして」
「……何でわたしまで、お姉さま呼びなのよ?」
「なんででしょう?」
半眼になるサニィに、ドリーは楽しそうに首を傾げた。
「でも、ユノお姉さまと同じような雰囲気がするのですもの。
だから自然と、そういう風に呼びたいなと思ってしまったんです」
「……ユノが聞いたら嫌な顔をしそうね」
「サニィお姉さまも充分嫌な顔をされているので、たぶん同じ顔をされるんでしょうね」
クスクスと、ドリーは笑っている。
ひとしきり笑った後で、ドリーはサニィに訊ねた。
「あの……答えにくいのであれば、答える必要はないのですけれど……」
「なに? 改まって」
「ユノお姉さまとサニィお姉さまって――どういう関係なのですか?」
ドリーの言葉に、サニィは少し目を伏せる。
サニィが何を思ったのかまでは、誰も分からなかった。だが、それでもサニィは少しの間の後で口を開く。
「わたしが知ってる情報に偽りが混ざってないのであれば、わたしとあの子の関係は恐らく従姉妹よ。ここまでソックリになるのはただの偶然だろうけれど」
「そうですか」
それ以上のことはサニィは口にしなかったし、それ以上のことをドリーは聞かなかった。
ただそれでも、ドリーは少しだけ考えているようだ。あるいは祈っているのだろう――
ユノとサニィが少しでも仲良くなれますように……そんなようなことを。
壁に沿う巨大な螺旋階段を三周半ほど歩くと、一番下までたどり着く。
降りている途中から、激しく水の流れる音が聞こえていたが、一番下までたどり着いても、水らしきものは見えない。
剥き出しの岩そのもののような地面を踏みしめ、少し歩いていくと、細い洞窟のような――この地下そのものが洞窟のようなものだが――廊下があり、そこを抜けていく。
そうして、視界が開けると、制御装置があったフロアよりも広い地底湖がそこにあった。
高い天井からは鍾乳石が無数にぶら下がっていた。
今の場所から見て左側の壁には大きな穴があいておりそこが滝のようになって地底湖に水を満たしているのだろう。
そして溢れた地底湖の水は、右端の方の滝から飛び出して、更なる地下からどこかへと流れていっているようだ。
階段を下りている時から聞こえた音はその二つの滝の音なのだろう。
湖の上には、床と同じような石でできた橋が無数に掛かっている。その橋は交差したり、枝分かれしたりと複雑に組み立てられており、一種の迷路の様相を呈していた。
そんな石造りの迷路橋の上の様々な場所に、プリマヴェラの王冠のような、アジサイとユリが組み合わさったオブジェが設置してあるの見える。
恐らく、花噴水が恵みを雨を降らせる際に、地底湖から汲み上げる為の花導器だろう。
さらに、そんな迷路のような橋の中心に、黒いモヤのような塊が浮かんでいる。
あのモヤそのものは、その場から動けないのか、あるいは意志のようなものは希薄なのか、動く気配はない。
「ヒースシアンを呼び寄せてたのはアレみたいね。
そして、花噴水の機能不全を引き起こしてる原因もあれなのは間違いないわ」
「――で、お前らはそんな状態で浄化するのか?」
突然現れた男性の声に、ユズリハとライラがぎょっとしたような顔をするが、ユノは気にした様子もなく、その男性――ジャックに訊ねる。
「いつの間に来たのかしら?」
「我ながら便利な花導具を作ったモンだと感心してるところだ」
「本当に便利そうね」
エグゾダス・ケルン――どうにか一つくらいモノにできないだろうか……と、ユノの脳裏によぎる。
だが、そう簡単にはいかないだろうと、すぐに思考を打ち切った。
「こいつは俺が見落とした結果だ。浄化すんなら手伝うぜ?」
「これはあたしが受けた依頼よ。ホイホイ協力なんて――と言いたいところなんだけど、あたしもユズリハも結構いっぱいいっぱいだし、手伝ってくれるっていうなら、お願いするわ。
でも、手間賃はでないわよ?」
「構いやしねぇよ。言っただろ、自分の不始末の尻拭いだってな。
契約精霊のチカラをちょいと貸してもらいたくはあるけどよ」
「……だ、そうよユズリハ。もうひとがんばり、できる?」
「そりゃあ、その為にここまで降りてきたんだしね」
ユノ、ユズリハ、ジャックが、湖の中央に浮かぶモヤへと向けて並び立つ。
「ライラ。悪いんだけど、不測のできごとがあった場合に備えて警戒しててね」
「わかった!」
そうして、三人の幕を下ろす為の詠唱が地底湖に響き渡り、邪精の生き残りへと、幕引きの花銘が告げられた。
♪
ハニィロップ王国 首都サッカルム
貴族街 カイム・アウルーラ滞在館 食堂
会議室や応接間ではなく、敢えてこの食堂に、彼らは集まって話し合いをしていた。
「ふむ、そうであったか」
サルタンが遭遇したコキゾザークに関する一連の戦いの流れを聞き終えた平民姿のハニィロップ国王ターモットは、それにうなずいて、茶で口を湿す。
「しかし、ジブルの変装であったとはいえ、コキゾザークがドリスをねらっていたのは明らかか」
「まともな思考ができなくはなっていましたが、言動からドリス姫を狂言誘拐でもする算段があったのでしょう」
サルタンの言葉に、ターモットはマグカップを両手で包み、微かに湯気を漂わせる琥珀の液体に視線を落とした。
茶に映る自分の顔を見、僅かに逡巡してから、ターモットは小さく首を横に振った。
「それなのだがな――狂言誘拐計画そのものが首謀者の狂言だった可能性があるかもしれん」
「首謀者――それはつまり、コキゾザーク男爵へオダマキの指輪を送った者、でしょうか?」
女装を解き元の姿に戻って席に付いているジブルの言葉に、ターモットはうなずく。
「ああ、最初からコキゾザークが暴走してしまうコトが折り込み済みだった可能性だ」
ターモットの言葉に、食堂にいる者たちが口を思案顔を浮かべた。
「……だとしたらまずいかもしれませんね……」
そして、最初に口を開いたのはジブルの幼なじみでもある文官見習いのゼーランだ。
「まずいとはどういうコトだ?」
ジブルの問いに、言葉を選ぶように逡巡してから、ゼーランは答える。
「良くない予想がいくつかあるのですが……。
まず一つが、人を変質させるオダマキの指輪は、コキゾザーク男爵の持っていたもの一つだけだったのか――というコトです」
「なるほど。確かにその懸念はもっともだわ。
それに――首謀者が、コキゾザーク男爵ともどもドリス姫を亡き者にする気だったのであれば、次の手を打ってくる可能性もあるわけね」
ネリネコリスの考えに、ゼーランはうなずき、補足するように続けた。
「もしほかにもオダマキの指輪が存在しているのであれば、次は恐らくモブレス男爵あたりが暴走するのでは――と愚考します」
「根拠はあるのかね?」
ターモットに真っ直ぐ見つめられながらも、ゼーランは気負ったりせずに見返しながら返答する
「全ては推論でございます。根拠らしい根拠というものはありませんが――まずコキゾザーク男爵とモブレス男爵の仲が良いコト。
二人とも王子派閥ではありますが、王子派閥の中で嫌われものだったコト。
そして、二人でよく密会らしきものをしていたという情報もあります」
「それで?」
「首謀者が、二人の無駄に高いプライドを刺激し、後のないモブレス男爵の後援を名目として、オダマキの指輪と狂言誘拐計画を示唆しただろうと考えております」
その上で――と、ゼーランは続ける。
「推論に推論を重ねただけの空論ではありますが、容疑者としてはヒースシアン伯爵があがります。
実際、コキゾザーク男爵とモブレス男爵の両名と、時折、密会していたようですから」
「ふむ……」
「もしヒースシアン伯爵が首謀者であった場合、もしかしたら口説き落としていた女性たちにオダマキの指輪をプレゼントしている可能性まで考えられます」
ゼーランの言葉に、ターモットは下顎を撫でながら、強く目を瞑る。
どれだけ怪しくとも、根拠が足りない。
だが、何らかの対処が必要になるのは間違いないだろう。
今回はカイム・アウルーラの滞在館の近辺で発生した暴走だったのでえどうにかなった。
だが、これが綿毛人たちもあまり訪れることのない、平民の住居街であったなら――そう考えると恐ろしい。
「尻尾は出しはしないでしょうが、一度ヒースシアン伯爵を呼び出すべきでは?」
ジブルの言葉に、ターモットはうなずこうとした。
その時――
「ヒースシアンなら呼び出す必要ないわよー」
食堂のドアが開いて、ぽいっと裸のヒースシアンが放り込まれた。
「治療しても目を覚ますかは分からないけど、扱いは任せるわ」
何でヒースシアンが裸なのか――という疑問はもとより、投げ込んできた少女も、どうしてここにいるのか……と皆が眉を顰める。
「えーっと、ユノ?」
「なに、ママ?」
そのヒースシアンを放り込んだ犯人――その人物の名前を呼ぶと、彼女は何事も無かったかのように返事をしてくる。
「シェラープにいるんじゃなかったかしら?」
「原因の一つは取り除いたから、報告に戻ってきたのよ。
ついでに持って行ってなかった工具のいくつかも取りに、ね」
「馬車で片道一日はかかるのでしょう? まだ三日しか経ってないわよ?」
「まだ三日しか経ってないとは思えないほど、濃い時間だったわね……」
うんざりしたように嘆息する様子を見るに色々あったようだ。
「いやあの、だから帰ってくるにも早すぎないかという話をしてるんだけど……」
「ま、ちょっとした裏技よ。
これからすぐにシェラープへ戻るから、何があったかの報告は、この娘――綿毛人のドリーに任せるわ」
ドリー? とネリネコリスが首を傾げるのを余所に、ユノはその人物を食堂へ招き入れる。
入ってきた少女は綿毛人の格好をしているとはいえ、それが誰であるかは明白であり、誰もが苦笑をこぼした。
「それじゃあ、ドリー任せるわね」
「はい、任されました」
ユノは自分の言葉に、ドリーが笑顔でうなずくのを確認すると、青い珠種のようなものを取り出してみせる。
「これが裏技アイテム、エグゾダス・ケルン」
新しい玩具を親に自慢する子供の顔で、ユノはそれを掲げた。
「それじゃあ、必要なものは回収したからシェラープに戻るわ。
あ――守護剣も連れて行くから、もしママに剣が必要な時は自前の使ってね」
一方的にそう告げると、ユノの手にあるエグゾダス・ケルンとやらが輝き始める。
「待ちなさいユノッ! もうちょっと説明を……ッ!」
ネリネコリスが全てを言い終える前にユノの姿は光に包まれていく。
やがて、その光が収まると、そこにユノの姿はなくなっていた。
全員が呆然とする中で、いち早く正気に戻ったサルタンが、苦い笑みを滲ませながら、ドリーへと視線を向ける。
「それじゃあ、ドリーちゃん。
こんな中での報告は大変だろうけど、よろしくお願いするね」
「はい。お任せください」
全員からの視線を受け、ドリーもやや困り気味の笑顔でうなずくのだった。
そんなワケで元凶退治終了です。
面倒くさい報告の大半はドリスに押しつけて、ユノは再びシェラープへ。
どうしてユノがエグゾダスを持っているのか等の説明は次回で。
前書きにも書きましたが、連載開始から一年が経ちました。
まさかこんなにも続けられるとは思っていませんでした。ここまで続けられたのも、ひとえにブクマしてくれたり評価してくれたり、そうでなくとも読んでくださってる方々いるという実感があったおかげです。
最初からここまでお付き合いしてくださった方々、途中からお付き合いしてくれた方々、あるいは最近お付き合いを開始して下さった方々、皆様に最大級の感謝を。
これからもマイペースにやっていくかと思いますが、よろしければお付き合いのほど、お願い致します。
また本日(?)の0時くらいに、新しい連載も始めようかなと思っております。
本当はもうちょっと書き溜めたいところでしたが、ちょうど「ネット小説大賞」の〆切間際ですからね。せっかくなのでタグでも付けて投稿しようかと思いまして……
もしよろしければ、そちらの方も、よろしくして頂けたらと思います。