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070:思惑の枝端、黒き種朱


「……っと、恵みの雨の時間か……」


 ジャックが花噴水のある広場へと足を進めていると、街路樹サイズの花噴水たちが輝き始めた。


「傘――は、もう諦めるしかねぇわな」


 ハニィロップの住民でもないと、晴れの日にも傘を持つという感覚がなくていけない。

 降り注ぐ恵みの雨に濡れるのは仕方がないと諦めて、ジャックはそのまま歩みを進めていく。


 そうして花噴水のある広場へとやってくると、どうにも様子がおかしい。


「……?」


 訝しみながらも、何やら騒がしい方へと歩いていく。

 どうにも広場にいた人間が、綿毛人(フラウマー)や兵士達に案内されて、広場の外へと誘導されているようだ。


 ただ事ではないな――と判断したジャックは、避難誘導に加わっているらしい綿毛人(フラウマー)に声を掛けた。


「おう。誘導中悪いな。何があったか教えてもらってもいいか?

 今さっきここへ来たばかりでな。なんでこんな騒ぎになってんだ?」

「広場に突然、魔獣がでちまってな。

 仮面の旦那――腕に覚えがあるなら、ちょいと花噴水の方の戦線に加わってやってくれねぇか?」

「花噴水ってのは……広場中央のやつか?」


 綿毛人(フラウマー)の男がうなずく。

 ジャックはその男に礼を告げると、そちらの方へと進む。


 そうして目に飛び込んできたのは、えらく巨大化した花蜂(フルービィ)だった。


「おいおい。

 花蜂(フルービィ)の寵愛種ってのは、少し前に居合わせた綿毛人(フラウマー)の嬢ちゃんが倒したって聞いたんだがな」


 ジャックがやや大げさな言い方をしながら戦線に近づいていくと、それを聞いていたらしい綿毛人(フラウマー)が苦笑する。


「ああ、そうだ。間違いなく倒してた。その死体を処理したのは俺だしな。あれは、また現れた新個体だよ」

「寵愛種なんてそうポンポンでてくるようなモンじゃねぇと記憶してたんだが」

「俺もだよ」


 お互いに苦笑しあった後、話をしていた綿毛人(フラウマー)の男は花蜂(フルービィ)へ向かって駆けていく。


「突発型寵愛種の多発――偶然じゃねぇんだろうな……」


 だが――今は考えるのはあとだ。


 花蜂(フルービィ)を見据え、ゆっくりと歩きながら、ジャックは詠唱(コール)を重ねていく。


「始まりは、我先にと集う炎。

 続章は、燃え広がる枯れ葉の乱舞。

 終章は、膨張する焔罪(えんざい)

 ――重ねて三つ」


 両手を開き、花蜂(フルービィ)に真っ直ぐと向ける。

 ジャックの周囲に百は越えるだろう無数の炎の(つぶて)が現れ、さらに手の中にひときわ大きな火の玉が現れる。


「お前らッ、巻き込まれるなよッ!」


 大声を出して周囲の綿毛人(フラウマー)たちに一方的に告げると、ジャックは花銘(ワーズ)を口にした。


「其は咲き乱れる原初の仇花(あだはな)ッ!」


 まずは火球の群れが、弧を描くように飛んでいき、花蜂(フルービィ)の逃げ場を奪うように降り注ぐ。

 着弾したそれは、二周りほど大きくなってから爆発を起こす。


 並の人間ならその炎の礫ひとつで致命傷になりかねないのだが、花術に対する耐性が高いのか、花蜂(フルービィ)はあまりダメージを負っているようには見えない。


 だが、爆風によってよろめき、足を止める。それだけで充分な効果だった。

 一度足を止めれば、あとは大量の火の玉を叩きつけられるだけだ。しかもしれで終わらない。


 完全に身動きがとれなくなった花蜂(フルービィ)へ、子供の頭ほどのサイズの火球がぶつかる。それは着弾と同時に二倍ほどサイズが膨らんだあと、火柱となって花蜂(フルービィ)を飲み込んだ。


 爆発と火柱が収まると、残ったのは、地面に横たわる黒こげになった巨大な花蜂(フルービィ)のみ。


「原型が残ってるたぁ、大した防御力だ」


 独りごちながら、ジャックはその焦げた花蜂(フルービィ)に近づき、軽く触れた。

 間違いなく絶命しているのを確認すると、周囲に合図してみせる。


 そうして、周囲にいた綿毛人(フラウマー)やギャラリーは盛大に安堵をしてみせた。


「助かった。アンタが来てくれなかったらも、苦戦してただろうし、最悪逃げられてた」

「構いやしねぇよ。しかし、どこから現れたんだコイツ?」

「それが――話によると突然現れたって」

「……つまり、この辺を飛んでた花蜂(フルービィ)が寵愛化したってコトか?」

「だろうな……たぶん」


 声を掛けてきた男と言葉を交わしながら、ジャックは顎を撫でた。


「なぁ、俺はつい最近、この国に来たばかりだからよ、教えてほしいんだが……この辺りじゃ、寵愛種が増えてんのか?」

「そんなコトは……」


 男がジャックの言葉を否定しかけて、首を横に振る。


「いや、言われてみれば……最近、討伐依頼が増えてる気がするな」

「それは突発型と、定着型……どっちだ?」

「それ、見分けられるのか?」

「ん? まぁな。厳密には突発型は、いわゆる寵愛種とはちょっと違うからな。

 まぁ学術的な話は置いとこうや。突発型の大半は、今の蜂みたいに暴れ回るタイプが圧倒的多数って知ってりゃ問題ない」

「なら突発型だ。暴れ回る上位種・暴走種の討伐依頼をいくつかやった」


 ふむ――とうなずいて、ジャックは思案する。

 そんな彼を見ながら、男は訊ねてくる。


「もしかして、増えている原因に心当たりが?」

「おう。まだ推測どころか妄想の域を出ないから、口にする気はねぇがな。アタリを付けるにも、ちと情報が足りねぇな」


 ジャックが答えると、男は少し何かを考えてから、独り納得するように小さくうなずいた。


「なら、こんな情報はどうだ。今回と前回の、寵愛型花蜂(フルービィ)出現の共通点」

「ほう。興味あんな。聞いてもいいのか?」

「参考になるかどうかは分からないし、偶然で片づく話でもあるけどな。

 どちらの花蜂(フルービィ)も、恵みの雨の直後に現れた」

「…………」


 仮面の下に隠れるジャックの眉間の皺が深くなる。


(まずいな……ユノに任せておけば何とかなるだろうと思ったが……。

 何の気配もないからと、完全に見落としちまってたのが、ここへ来てやばいコトになってきてやがる……)


 推測が確信に変わり出す。

 内心の焦燥はおくびにも出さず、ジャックは男に礼を告げた。


「ありがとな。推測の補強になりそうだ。

 急用が出来たんで、もう行くぜ。討伐報酬は俺抜きで計算してくれて構わねぇ」

「あいよ。何だかわからないが、がんばってくれ。

 それで寵愛種が増えてる原因が解消されるってんなら、ありがたい」

「ああ。じゃあな」


 そうしてジャックはその場から離れて、適当に人気の少なそうなところへ向かって歩いていく。

 ややして――


「ジャック様」


 歩いているジャックの横に、仮面を付けたメイド姿の少女が突然姿を見せた。


「取り急ぎ、お耳に入れたいコトが」

「どうしたレイン?」


 すれ違う通行人の数人が、レインが突然現れたことに首を傾げているが、さして気にはしていないようだ。


「オダマキの指輪型武護花導具(ハルモフィオレ)なのですが、商業都市デグレシアの北の遺跡より大量出土したものでした。それをデグレシアを中心に活動している行商たちが売り歩いているようですね。

 ただ、サニィからの報告にあった黒い種朱(ケルン)が一緒に出土したという情報はありませんでした」

「そうか……」


 ならば、その黒い種朱(ケルン)の出所はどこなのだろうか……。

 ジャックはやや逡巡するが、すぐに頭を振った。


「わからんコトを悩んでても仕方がねぇな。

 ありがとよレイン。さすがの素早い情報収集だ」

「恐れ入ります、ジャック様」


 主に褒められて、レインが口元を綻ばせた時――


「……ッ!」


 ジャックが慌てた様子で、どこかへと視線を向けた。


「ジャック様?」


 直後、ジャックが何に反応したのかレインも察した。

 ジャックが視線を向けていた方角から、黒い火柱のようなものが一瞬現れたのだ。


 当然、街の人間たちもそれを見た者がいる。

 その黒い火柱をきっかけに、街がざわつき始める。


「レイン」

「はい」


 あまり聞いたことのない、ジャックの冷たく堅い声色にレインが背筋を延ばす。


「お前は大至急でクラウドと合流だ。

 サニィがヒースシアンとともにシェラープに向かっている。サニィを取り戻せ」

「取り戻す、というのは?」

「恐らくヒースシアンは――」


 ジャックの言葉に、レインは目を見開く。


「今ならまだ間に合う。サニィを取り戻し、ヒースシアンの持つ黒い種朱(ケルン)を全て壊すッ! だから――」

「かしこまりました。謹んで拝命いたします」

「悪いな。頼む」

「ジャック様は如何なさるのですか?」

「俺は少し、火消しをしてくる」

「かしこまりました。ご武運を」


 レインは優雅に一礼すると、エグソダス・ケルンを起動して姿を消す彼女を見送ってから、ジャックは走り出す。


(あれは貴族街の方角だったな……ヒースシアンのやつ、何か仕掛けていきやがったのか?)


 それを急いで確認するべく、ジャックは走る速度を速めていった。



     ♪



 コキゾザークは自宅の庭の一角で、右手の小指に付けたオダマキの指輪を撫でた。


 黒い種朱(ケルン)の付けられたこれは、盟友ヒースシアンよりもたらされた、最近発掘された古い(アルテ・)武護花導具(ハルモフィオレ)なのだそうだ。

 通常の武護花導具(ハルモフィオレ)とは比べものにならないほどのチカラを秘めたこの指輪。

 身体への負担は大きいが、ひとたび使えば国王付きの近衛兵すらも、ひと捻りだけるだけのチカラを得ることが可能だという。


 半信半疑ではあるのだが、ヒースシアンの真っ直ぐな目を見ていると不思議と信じたくなってしまう。

 まるで、マナか何かに満ちたようなその瞳の持つ求心力のようなものは、王と比べものにならない――と、コキゾザークは考えている。


 それはそれとして、この指輪だ。


 実際にどんなものであるのかは、使ってみた方がいいだろう。

 身体への負担が大きいということなので、どの程度の負担があるのかを確かめてみる必要もある。


 これを使った作戦――というのを、親友のモブレスとともに考えた。

 金で人を雇い、そいつらにドリス姫を誘拐させた上で、このチカラを使った自分とモブレスが颯爽と助ける。

 ――というのが案に上がった。


 悪くはない。それで姫からの覚えが良くなれば、姫自らのみならず、姫派の連中からも覚えが良くなり、立場がかなり良くなるだろう。

 モブレスも恩赦を得られ、貴族名の返上を免れられるかもしれない。


 もう一つは救助の際に、その場にいる者たちとともに姫も亡き者にしてしまうという方法。

 暗殺の成功となるので、王子派の上層の者たちからの覚えがよくなるかもしれない。

 単純に、王子派の立場が良くなるので、それだけで美味しいとも言える。


 問題があるとすれば、モブレスを救うことができないことか。


 そうなると、やはり取るべきは前者かもしれない。

 だが、前者は前者で、王子派として居づらくなる可能性もゼロではないのだが。


「考えていても仕方なくはあるか」


 独りごちて、小指のオダマキの指輪にマナを巡らせる。

 

 オダマキの指輪に付けられた黒い種朱(ケルン)が小さく輝き、直後に身体の奥底からチカラが沸き上がっていく。


 とてつもない開放感と充実感に全身が満たされていく感覚。


「おおおお……素晴らしいな」


 今の状態で何が出来るのかを試してみたくなる。


 少しだけ考えて、コキゾザークはその場で小さくジャンプをした。そう小さくジャンプをしたつもりだった。


 だが、気がつくとコキゾザークは屋敷の屋根よりも高い位置まで飛び上がってしまっているう。


「これは……これはぁぁぁぁぁ――――ッ!?」


 驚愕。歓喜。そして恐怖。


「着地……どうすれば良いのだろうか?」


 考えてる間に、そのまま地面へと落ちてしまう。

 着地と言うよりも落下とも言うべき無様な姿で地面に激突し、草むらを転げてしまった。


 だが――


「痛く……ない?」


 自然、笑みがこぼれてくる。

 あれだけの高さから落下したのに、痛みは微塵もなく、身体に異常を感じない。


「素晴らしい……素晴らしいぞッ、この指輪は……ッ!!」


 興奮と感動の余り、恵みの雨が降りはじめているのも気にせずに、彼は色々と試していく。


 自分の考えたカッコいい構え。

 自分の考えたカッコいい攻撃。

 自分の考えたカッコいい決めポーズ。


 そして、自分の考えた最強の必殺技。


「完璧すぎる……!」


 自分の思い通りにキレ良く動く身体。

 普段の贅肉まみれの身体では、息切れするはずの激しい運動をしてもなお余裕のある身体。


 コキゾザークは最高の気分だった。


 もっと、もっと色々試したい――そんな内なる衝動にあらがわずに、どんどんと指輪にマナを巡らせていく。


「ハハ……ハハハハハハ……!」


 高笑いをあげてしまうほどに、ハイな気分。


 指輪の効果によって、認識も鋭くなっているのか、恵みの雨が身体を打つたびに、そこに含まれるマナを自分の身体が取り込んでいっているのをハッキリと理解できた。


 そして、恵みの雨のマナを――身体と指輪が吸収するたびに、より気分が良くなっていく。


 とりわけ、恵みの雨に混ざる黒いマナを吸収すると、一気にチカラが増すのを感じるのだ。

 その際に生じる自分の内側が膨張していくような感覚が、楽しくて仕方がない。


 今なら――誘拐して殺すという作戦を、たった一人で実行できてしまいそうだ。


「一人か……悪くないかもしれんな……」


 モブレスには悪いが、実行しよう。


「そうだ、実行しよう。殺そう。それが最高になれるはずだ」


 元々無茶な作戦内容ではあったのだが、それでもそこには理性があった。

 だが、今は明らかにその理性の歯止めが緩んでいる。

 そしてコキゾザークは、自分の理性が緩みだしているのなど気がつかないまま、地面を蹴った。


 勢いで屋敷の塀の上に跳び乗り、さらにそこから大きく跳ぶ。

 屋敷同士の間隔が広いはずの貴族の家々を屋根づたいに飛び跳ねながら、おぼろげに脳裏にある、綿毛人協会(フラウマーズギルド)に出入りしているという情報に笑みを浮かべた。


 ――綿毛人協会(フラウマーズギルド)に行けば姫がいる。


 そんな単純な理由だけで、飛び跳ね続ける。


 途中で銀のロングヘアを見かけると足を止め、自分の記憶の中の姫と比べる。

 それを繰り返しながら、街の中の屋根を跳び回っているうちに、ようやく――ドリス姫を見つけた。


 何やら男と一緒だし、平民の格好をしていた。

 その男に手を引かれながら、足早に動いている。


 よく見れば、彼女たちを追い回している者たちがいるようだ。

 彼女たちは彼らを撒くためだろうか。

 貴族街の路地へと入っていき、どこかへ向かっていく。


 その歩みにあまり躊躇いがないのは、最初から行き先が決まっているからだろう。


 コキゾザークは屋根の上から、その様子を眺めていると、やがてひとつの結論に至った。


「滞在館、か」


 選択肢としては悪くない。

 彼女たちを追い回しているのが貴族が放った刺客であるのなら、なおさらだ。


 滞在館の近くで騒ぎを起こせば、国同士の問題に発展しかねないのだから。


 だが、今のコキゾザークには関係がなかった。


「逃げ込む前に、助けて殺せばいい」


 このチカラがあれば、それができる。

 確信とともに、ニヤリと笑う。


 いつの間にか、恵みの雨は止んでいた。

 だが、それに何の意味もない。


 雨が降っていようと、降っていまいと、今の彼がするべきことは変わらない。


 ややして、彼女たちは滞在館の前で、大きな剣を背負った男に駆け寄っていた。

 綿毛人(フラウマー)のようにも見えるし、貴族のようにも見える、奇妙な男だ。


 その男は彼女たちが追われているのだと即座に気づくと、背負っていた剣を抜き放ち、彼女たちに迫っていた男たちをあっという間に叩きのめす。


 かなりの実力者なのが見て取れる。


「試し甲斐がありそうだ」


 コキゾザークは屋根から飛び降りると、その男の前に着地した。


「何だ、おまえは?」


 こちらを訝しむ男の後ろで、姫様が小さく呟いた。


「コキゾザーク男爵……?」

「待て――男爵にしては、痩せているというか、スマートすぎるだろ」


 姫様と一緒にいる少年が眉を顰めた。


 スマート――という言葉が気になって自分の腹へと視線を向けると、ものの見事にへこんでいる。

 それどころか、衣服のあちこちが、緩くて緩くて仕方がないのだ。


「素晴らしい指輪だ。完璧で理想のダイエットができた」

「それ、絶対にロクな指輪じゃないぞ」


 男はそう口にしてから、剣を構えなおして訊ねてくる。


「それで、コキゾザーク男爵だったか……突然、空から降りてきてなんの用かな?」

「姫様を助けに来た。助けて犯して殺す為に、助けるんだ。そうすれば覚えが良くなる」

「……はぁ?」


 目の前の男が、妙な視線を向けてきた。

 こちらは何か間違ったことを言っただろうか。


「……あのダイエットの指輪とやらのせいか? ちと、まともじゃなくなってるのか……?」


 男は訝しみながらも、背後の二人と、二人の周辺でこちらを見ている兵士たちへと告げた。


「二人とも、館の敷地へ。

 そこ兵士は二人の護衛だ。もう一人は中へ行ってネリィに報告してこい」


 即座に返事をして、兵士たちは動き始める。


「剣士殿――姫様を館の中へ幽閉とは、我が国とコトを構えるつもりかな?」

「お前さん、自分で自分が何を口走ったか自覚してるか?」

「はて? 姫を助けるのが何か悪いのですかな?」

「助けて殺すとか言ってただろうが」

「そうです。殺すんですよ。賊から助けたあと、殺すんです。完璧な作戦でしょう?」

「それを俺の目の前で口にせず、影ながら実行できてるんだったら、完璧な作戦だったかもな」


 剣士は何とも奇妙なことを口にする。

 こちらは作戦な完璧を口にしたはずなのだが。


「貴方が何を仰っているのか、よく分かりませんが――殺す前に試したくもあったので、まぁいいでしょう」

「俺はお前さんが何を言っているのか、まったく分からなくて別の意味で怖ぇよ」


 そしてコキゾザークは改めて、右手の小指に付けたオダマキの指輪にマナを巡らせた。

 すると、今まで以上の黒く輝き、黒いマナが迸る。


 右手の小指から全身に掛けて、黒いマナが駆けめぐる。

 それに併せて身体が青黒くなっていき、筋肉ははちきれんばかりに膨張し、上着が弾け飛ぶ。

 下半身の筋肉も膨張し、太股より下は靴もまとめて弾け飛んだ。


「最高の開放感だぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

「突然膨張した筋肉をヒクつかせながらの露出野郎は言うコトが違うな、おいッ!」


 髪も爆発するように伸び、一気に白く染まっていく。


「うおおおおおお――――ッ!」


 開放感が押さえきれず、コキゾザークは拳を天に突き上げながら叫ぶ。

 瞬間、コキゾザークの足下から黒い光が沸き上がり、その身体を駆け巡ったあとで、拳から空へと放たれた。


 まるで黒い火柱のような光景に、剣士は呻く。


「マジでロクな指輪じゃねぇな……」


 この剣士はこの素晴らしい指輪のチカラを良く思わないらしい。


「このチカラがあれば、安泰だと思わないかね?

 誘拐できるし、助けられるし、殺せるし、そこまですれば、派閥は安定の位置で楽しめる。そうは思わないかね?」

「なあ……お前さん、思考と言動が支離滅裂になってるの、気づいてるか?」

「いやいや、冷静だよ。指輪のおかげで気分はとてもいいけれど、冷静に冷製だ。そうれいせい……霊性、励声、レイセイだよ? レイセイレイセイ」


 なぜか剣士は大きく嘆息した。

 よく分からない。こちらの言動に何かミスがあっただろうか。


「……俺は、カイム・アウルーラ九重会が一つ、守護会の会長にして、カイム・アウルーラ守護団ならびに市内警邏団の総括団長――サルタン・セントレアル・クレマチラス。

 その権限と、責務で持って、お前さんをカイム・アウルーラならびにハニィロップ両国に対する危険因子と判断する」


 サルタンの言葉に、コキゾザークはますます不思議な気分になった。


「危険因子? 危険? 私が危険? 危険なのは姫でそれを助けるのが私なのに?」

「助けてどうするつもりだった?」

「それはもちろん、派閥の為に殺しますよ? 大事でしょう? 助けるの」

「うあー……どんどん悪化してないか、これ」


 うんざりしたような顔をしながらも、サルタンはしっかりとその両手剣を構えた。


「色んな意味で相手をしたくないんだが――まぁ、仕方ないよな。

 お前さんはただのダイエットのつもりだったのかもしれないが、騙されてそんな指輪を使っちまった末路ってコトで」


 よく分からないが、サルタンはこちらとやる気らしい。

 それは、コキゾザークにとっても、好都合だった。


「戦うのですね? 戦いましょう。試してみたかったのですよ。どこまで強くなれたのかをッ!」


 ジャック視点のシーンも、コキゾザーク視点のシーンも想定より長くなってしまったせいで、主人公たちの出番がなかったッ!?


 次回はパパvsコキゾザーク の予定です。




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