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057:首都到着 と 白銀の双子

2017/6/28

ユノの左目に触れる描写が抜けていたので、追加しました。

左目にお洒落眼帯付けているという文が追加された以外、本文に変更はありません。


 ユノ達を乗せた馬車が、ハニィロップ王国首都サッカルムに到着すると、そのまま貴族街へと向かい、そこにある大きな屋敷へと入っていく。


 カイム・アウルーラの立場が、国より一段階下という建前上、政治的に誰かを招くよりも、訪問する機会の方が多い。

 その為、カイム・アウルーラは近隣諸国の貴族街に、屋敷を一軒構えさせてもらっていた。


 この屋敷は、カイム・アウルーラの共通財産であり、普段は屋敷の管理人と使用人達だけが滞在し、維持している。

 この管理人や使用人達は、局長をはじめとした各要人が屋敷に滞在中、そのまま滞在期間中限定の従者として仕える為、どんな主であっても的確に仕えることができる選りすぐりの集められている。


「常々思ってたんだけど、この滞在館。

 外交強い人に、外交全権預けて駐在させちゃえば、各国との外交がスピーディにならないかしら?

 使わない時の維持費もバカにならないだろうし、優秀な使用人を無駄に飼い殺しにするコトもなくなるんじゃない?」

「面白いアイデアではあるわね、ユノ。

 必要なモノではあるけれど、だからといって使わない時期が長い場合もあるし、予算ばっか掛かるから、どうしようかと思ってたのよね。そのアイデアは持ち帰ってみんなで検討してみるとしましょう」


 馬車が止まり、戸が開かれる。

 そこでユノもネリネコリスも会話をやめて、貴族らしい穏やかな笑みを浮かべてみせた。


「ここからは、わたくしメアですわね」

「ええ。心配はあまりしていませんが、花導品(フィーロ)が関わった際にボロなど出さないようにお願いしますよ、メア」

「心得てはおりますが、確約できません」

『お嬢様。そこは確約してくださいませ』


 思わずそっぽを向くユノに、同乗している侍女三人は異口同音にツッコミを入れるのだった。




 滞在館の使用人達に荷おろしはまかせ、ユノ達は屋敷の中へと入っていく。


 この屋敷の管理人達にも、お嬢様の姿の時はユーノストメア、修理屋(リペイア)の姿の時はユノと呼び、別人として扱って欲しいと言い含めておくのを忘れない。


 政治的な事情も込みで、今はまだユノとメアが同一人物であると国外の人達に知られたくないのだと言えば、この屋敷の者達も理解してくれた。

 何より、ここで働いている者達は皆カイム・アウルーラを実家とする者達だ。カイム・アウルーラを愛する以上、カイム・アウルーラが不利になるようなことはまずやらないだろう。


「さてと、今日はもう屋敷でするコトはありませんよね?

 ユノになって街を探索してきます。ユズリハとライラも来るでしょう?」


 そう声を掛けるが、そこにネリネコリスの待ったが掛かった。


「だめですよ。悪いのだけど、今日明日はメアのままでお願いします。

 この後で、明日のパーティでの受け答え用にメアのバックボーンを作るのです。明日の社交パーティでの受け答えはそれをベースにしたいので、私とメアだけでなく、ムーシエ、ユズリハ、ライラも一緒に話し合いましょう」

「…………かしこまりました、お母様……」


 ものすごく不満そうな顔でうなずくユノに、ネリネコリスは苦笑する。

 ユノとメアを別人で通したいのであれば、その辺りの筋書きでボロを出すわけにはいかないのをユノも理解はできるのだ。

 とはいえ、理屈と感情は別問題である。我慢はするし、理解はできるが、不満はある。仕方のない話ではあるのだが。


「奥様、お嬢様。よろしいでしょうか?」

「ええ。どうかして、ムーシエ?」

「お嬢様が、花修理職人(フルール・リペイア)としてユズさんとライラを連れて街を歩くのでしたら、お二人も侍従としての偽名が必要であるのではないでしょうか?」

「そうですね。髪型もいじった方が良いかしら?」


 ムーシエの言葉にネリネコリスがうなずいて思案していると、ユズリハが楽しそうな笑みを浮かべた。


「奥様、ムーシエさん。私……良いものを持ってきておりますよ?」


 ユズリハの示したモノ――それは様々な色や髪型のウィッグや、西部では珍しい東部風の髪飾りなどの小物の数々。

 他にも私物として、変装に使えそうな道具の数々を色々と用意してあるらしい。


 それを見て、そして聴き――目を輝かせるネリネコリスとムーシエに、ユノはこっそりと嘆息した。


「どうかいたしましたか、お嬢様?」


 そんなユノの様子に、ライラが首を傾げながら訊ねてくる。

 それに、ユノはうんざりとした調子で答えた。


「貴女も覚悟をしておくと良いですよライラ。今日はこれから、わたくし達はお母様やムーシエ、ユズの着せ替え人形になるのですから」



 その後――ライラは着せ替えさせられたり、髪型をいじられたりする自分を楽しんでいたようで、ユズリハ達と一緒に盛り上がっていた。

 テンションがだだ下がりだったのは、ユノだけである……。



「何事も楽しめる性分って、とてつもない強みなんだって理解できたわ……」



 そうして、慌ただしくも――ユノ以外は――楽しく、その日が過ぎて行くのだった。



     ♪



 社交パーティ当日。


 ジブル・リリウム・ブランカルスは、正直言って退屈していた。


 もちろん、立場的にこういった場に出席しないわけにはいかないのは理解しているし、まだ十四という年頃なれど、施されてきた教育は、常に王族たれというもの。

 ハニィロップ王国の国王の子として、生まれた時から背負っている責務も別に、今では当たり前なので煩わしいとも思わない。


 それでも――


《退屈なのは間違いない。

 なぜ挨拶に来る者達は揃いも揃って似たようなおべっかか皮肉しか口にしないのだろう》

《ジブル兄様、それは念話以外で口になさりませんよう》

《もちろん、分かっている》


 横にいる彼とまったく同じ色を纏う少女は、表面上はにこやかにしたまま、念話でぼやくジブルに、同じく念話で返してきた。


 銀髪と蜂蜜色の瞳を持つ、ジブルと瓜二つの少女の名はドリス・リリウム・ブランカルス。彼の双子の妹だ。

 生まれた頃から、心の中――というか頭の中というか――で、思ったことをやりとりできる念話という能力を互いに有していた。


 こういう場では、お互いに冷静さを保つ為に、良くこうやってやりとりをしている。


 ただ、最近はこの念話。どうにも有効範囲が狭まっている。

 幼い頃は城の敷地内ならどこでも念話でやりとりできたはずなのだが、ここ数年では、同じ部屋の中にでもいないと上手く行かないのだ。


(原因は……ここ最近、顕著になってきたドリスとの不和、であろうな)


 そんな思案をしながらも、表面上は笑顔を張り付けて、自分の元に来る者達と挨拶を交わしていく。


 ハニィロップ王国において半年に一度行われる定例会議。これには、国中の貴族達が集まってくる。

 そのうちの晩春に行われる定例会議は、会議後に普段接点のない者達の交流会を兼ねた大規模なパーティが行われるのが通例となっていた。

 この社交パーティは任意参加である為、定例会に来た貴族全員が参加するわけではないのだが、会議と違い家長だけでなく家族の参加も許可されている為、定例会以上の参加人数となる。


(多くの子連れ貴族は、僕かドリスとの顔つなぎなのだろうがな)


 また、このパーティには近隣諸国の貴族も事前に申し出ていれば、参加できることになっている。

 人によっては、あわよくば近隣諸国の権力者とお近づきに――というのも少なからずあるだろう。


 そんなゲスト枠だが、今回は――身近な者以外には伏せられているが――王自らが声を掛けて、誘った相手だという。

 だからというワケではないが、誰が来るのかジブルも多少の興味はあった。


 ハニィロップ国内の貴族達の入場が終わると、次はゲスト達の入場だ。


「カイム・アウルーラ行政自治領、行政局局長ネリネコリス・ルージュレッド・クレマチラス様。ご息女ユーノストメア・ルージュレッド・カルミアーノ・クレマチラス様」


 名前が呼ばれると、ホール内の雰囲気が変わった。

 カイム・アウルーラの貴族達は外に出て来ることが少ないのだ。こういう場に現れること事態が珍しい。

 しかも、現れたのは局長のネリネコリスであり、彼女に子がいるという話は噂話程度で事実かどうかは不明であるとされていた。

 これに驚くなというのが無理と言うものだ。


《ジブル兄様、ユーノストメア様は四節名でしたわね》

《ああ――養子か、何かに(あやか)って付けたものなのか……》


 ホールの入り口が開き、ネリネコリスとその娘が侍女を三人ほど連れて入場してくる。

 護衛はいないのか――とも思ったが、親子は元より、三人の侍女も腕が立ちそうなので、護衛も兼ねているのだろう。


 そして、親子の姿はハニィロップでは一般的な、布を多く使ったドレスではなかった。

 彼女達が着ているのは、最近は商人達の間ではやり始めているスーツと呼ばれる衣服に似たものだ。

 それらに合わせるように、踵が高く、爪先へ行くにつれスリムになっていく靴を履いている。


 ネリネコリスは襟や袖にフリルの付いたブラウスに、コサージュ付きのジャケット。スカートは細い筒を思わせるタイトなものだ。


 ユーノストメアは、黒い膝丈のワンピースの上に赤のボレロに似たジャケットを羽織っている。こちらもコサージュが付いている。


 二人のキビキビとした動作に似合う動き易そうな格好だが、同時にシンプルさと華やかさを兼ね備えたものとなっている。


 その格好に驚嘆と落胆と嘲笑と……いくつかに反応が分かれた。


《ドリス。分かる範囲で、彼女らを見下した者の顔は覚えておけ》

《分かっております。伝統衣装で無くとも、あの異装の質の良さは見れば分かりますしね》


 服の要所要所になされた刺繍は、非常に細やかで職人芸ともいえるものばかり。ジャケットに付いているコサージュは間違いなく霊花(エテルネルール)――もしかしたら不枯れ精花(アルテルール)の可能性もあるくらいのマナを感じられる。


 恐らくあれはカイム・アウルーラ貴族の流行の最先端だ。

 それを理解できない者に用はない――という親子の意志の現れのようにも思える。


 それに気づかず落胆したり嘲笑したりという者は、クレマチラス親子を見下したということだ。

 服の質もそうだが、彼女が元綿毛人(フラウマー)であったことを知る者も少なくないのだろう。

 つまり平民の出身だと侮っているわけだ。


 また、ユーノストメアが左目に眼帯をしているのも、バカにしている理由の一つとしてあろう。

 眼帯と言っても、野盗が付けているような無骨なものではなく、ユーノストメアの容姿にあう華やかなデザインとして作られたものであることは見て取れる。


 ユーノストメア本人からすれば、もう当たり前になっているものなのかもしれないが、ここに集まる貴族達にとっては、年頃の娘が眼帯をつけねばならぬ状態にあるということは、嘲笑の対象であった。


(まったくもって、愚かしいとは思うがな。

 傷なのか病なのか……彼女とて、好きで付けているわけではなかろうに)


 ジブルは胸の裡で独りごちて肩を竦める。

 何であれ、侮蔑も落胆も、胸中でするのなら構わないが、露骨に態度に出すのはいただけない。


 そもそもクレマチラス親子は、領主という肩書きながら、その権力は王族に匹敵するものなのだ。

 カイム・アウルーラの近隣諸国においては認識しておくべき常識であるはずなのに、彼らはそれを隠さなかった。

 知らずにやっていても、知っててやっていても――その行為は反乱分子とまではいかないが、いずれカイム・アウルーラと揉め事を起こしかねない危険分子ではある。


 ジブルが胸中であれこれと思っていると――やがてネリネコリスとユーノストメアが、王族である自分たちの元へとやってきた。


 ネリネコリスは――今のスカートではスカートを摘まめないからだろう――左足を後ろへ下げ、左手を右胸に当て、右手は本来であればスカートを摘んだ手があるだろうところへと伸ばして、優雅に一礼した。


「ターモット陛下。この度はお招き頂きましてありがとう存じます」

「ああ。良く来てくれた、ネリネコリス殿。

 声を掛けて見たものの、カイム・アウルーラの重鎮は皆、腰が重いからな。夏の精霊に雪の降る予定を訊ねるような気持ちではあったが、この場で顔を合わせるコトができて、これほど嬉しいコトはない」

「あら、大げさですコト。単に皆、自領に引きこもってるのが好きなだけですわ」

「それを腰が重いと言うのではないかね?」


 父ターモット・リリウム・ブランカルスと笑い合っているネリネコリスの振る舞いを見ると、とても綿毛人(フラウマー)からの成り上がりとは思えない。

 もっともカイム・アウルーラには、元貴族の綿毛人(フラウマー)が集まりやすいという話を聞いたことがある。それを思えば、彼女もそういう出身の可能性もあった。

 むしろ、そういう出身だからこそ、今の立場になれた可能性の方が高いくらいだ。


「そうかもしれませんわね。

 では、そんな腰の重い引きこもり貴族の中でも、特に腰の重い、私の娘をご紹介致しますわ」


 そうしてネリネコリスが一歩引くと、娘が一歩前へ出てネリネコリスと同じ所作で一礼をした。

 娘の方のスカートなら摘まんで持ち上げることができそうだが、丈が短いのでややはしたなく見えてしまうのかもしれない。

 それに、敢えてスカートを摘ままず母親に合わせたところもあるのだろう。

 そうすることで、この礼の仕方が現在(いま)のカイム・アウルーラにおける、スカートを摘まむことのできない格好をした女性のマナーであると示したのだ。


 事前に決めていたことなのか。娘が今この場で思いついたことなのか。

 どちらであれ、この親子を侮って良い事など一つもなさそうである。


「お初にお目にかかります。ターモット陛下。

 新たなる季節の訪れになろう出会いを与えてくれた春の精霊に感謝を。

 母より紹介を預かりました、ネリネコリスの娘ユーノストメアと申します。呼びづらいようでしたら、メアとお呼びくださいませ。

 母からは腰が鉛で出来ているかのように紹介されましたが、雨を嫌う炎の精霊というワケではございません。

 幼少の頃より、学術都市にて暮らしておりました故、社交界に顔を出したコトがないだけなのです」


 ユーストメアの自己紹介に、ターモットは笑みを浮かべながら問いかける。


「湖から出たがらない水の精霊を引きこもりと言うのではないかね?」

「失礼ながら反論させて頂きますと――それは見解の相違というものです。

 わたくしは湖の中の物に興味が尽きぬだけのコト。それに興味が尽きれば、やがて新たな湖を探してそこを後にしましょう。それこそ今のわたくしのように。なればほら、外へ出る足を持っている為、引きこもりとは言いませんでしょう?」


 その屁理屈に、ターモットは思わず笑った。

 横で見ていたジブルも少なからずユーノストメアに興味が湧いてくる。

 今の会話を思えば、彼女は学術都市への興味が失せて、今は新しい興味を探しているということではなかろうか。


 会話が途切れたところを見計らい、ジブルは父へと声を掛けた。


「父上。我々のことは、ネリネコリス殿やユーノストメア嬢に紹介していただけないのでしょうか?」

「おっと、そうであったな。すまぬ……。

 ネリネコリス殿も、会うのは初めてであったか?

 息子のジブルと、娘のドリスだ。白銀(しろがね)の双子――などという二つ名くらいならば、聞き及んでいるのではないかね」


 紹介されて、ジブルとドリスは二人へと一礼する。

 季節を絡めた初対面の挨拶を口にして、名を名乗った。


 ドリスとともに名乗りを終えたジブルは、ユーノストメアに訊ねる。


「ユーノストメア嬢は、学術都市への興味が失われたようですが、今は何に興味が?」

「わたくしは元より、花導技術(フィオレクトロジー)こそは唯一無二の興味の対象であり、花導品(フィーロ)こそが生涯において愛すべき存在にございます。学術都市への滞在はその一環にすぎません」


 生涯愛する存在などと大袈裟な――などと胸中で笑いつつ、ジブルはもう少し踏み込むように訊ねる。


花導技術(フィオレクトロジー)への興味であれば、学術都市から出る必要はなかったのでは?」


 瞬間、ユーノストメアが笑顔のまま雰囲気だけ変わって見えた。


「あそこは確かに叡智の宝庫ではありましたが、ただの宝庫でしかありませんでした。出口が閉ざされ、持ち出すことも見せびらかすことも出来ぬ全知など、何の意味がございましょう。

 出口なき叡智の宝庫は、感性と発展の行き止まりです。どれだけ叡智を得ようと、あの光当たらぬ袋小路の中で育つものなどたかが知れております。

 閉じこめられた知の若芽は、発酵して変質することもなく、ただ緩やかに腐りゆくだけ。多少育ったところで、腐敗した感性に飲まれ、やがては同じ場所で知らずに腐臭を放つだけの存在になるというもの。

 そんな腐臭に満ちた叡智など、わたくしにとっては無価値でございます」


 楚々とした穏やかな笑顔が、父が良く貼り付けている穏やかに見えるだけの無機質な笑みへと変化したように感じる。

 横にいるネリネコリスや、年長の侍女。東部服の侍女の眼差しにやや焦りが見えることから、自分が迂闊な発現をしたのだということに嫌でも気づいた。


《ジブル兄様。もしかしてユーノストメア様の火竜の尾を踏まれたのではありませんか?》

《……そのようだ……》


 恐らく学術都市の話題そのものが、火竜の尾だったのだろう。


(しかし、学術都市を腐敗していると言う者がいるとはな……大陸最高峰の勉学の場という話ではなかったのか……?)


 疑問が湧くが、まずはユーノストメア嬢の機嫌を少しでも良くしてやるべきかもしれない。

 だが、何の話をするべきか――ジブルが悩んでいると、ドリスから自分に任せろという念話が飛んできたので、妹に任せることにする。


「ユーノストメア様は花導品(フィーロ)にご興味がおありだそうですが、我が国の清らに(サンクトゥ・)水湧く(フェントゥス・)花噴水(リリランジア)はご覧になりまして? カイム・アウルーラの多乱風花の(プールス・フロース・)大時計(オロロージョ)

同じくこの街の……いえ、この国のシンボルとして、いくつかの街の中心にありましてよ」


 ドリスがそう訊ねると、ユーノストメアは雰囲気を一転。

 花でも舞いそうな笑みを浮かべながら首を横に振った。


 そのとろけそうな笑顔だけで、本当に花導技術(フィオレクトロジー)が好きなのだと分かるほどだ。


「実はまだどれ一つとして見てはいないのです。パーティの後で、ゆっくりとじっくりとしっかりと見せて頂く予定ですわ」


 どこか恋する乙女が思い人について語る様を思わせる表情のユーノストメアに、ジブルは小さく安堵する。

 どうやら機嫌は直ったらしい。


(それにしても、我々兄妹に媚びを売る気はない、か)

 

 それだけで、ジブルとしてはありがたい存在だ。

 だがそれ以上に――


(それ以上に、なんだこれは――?)


 ドリスと楽しそうに言葉を交わすユーノストメアを見ていると、不思議と気分が高揚してくるように思える。


 ユーノストメアの側にいる東部服の侍女が、その穏やかな顔の下で、かなりの警戒した眼差しを向けていることなど気づかずに、ジブルは自分に生じた奇妙な感覚に首を傾げるのだった。

 恋愛要素? この物語にそれは期待してはいけません。


 正直、社交パーティは可能なら一話で終わらせるつもりだったのですが、さすがにちょっと無理があったので次回へ続きます。

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