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047:ユノとライラと怪しい筋肉 - 前編 -


「ユノお姉ちゃん、初代魔人プロテアと二代目魔人プロテアって、同じ人なの?」

「まったくの別人のハズよ」


 職人区北西の外れにある、ダンディライオン孤児院。

 その学習室の中で、ユノは質問をしてきた少女――ライラの横に座って、目の前に広げられた本のページをめくる。


「魔人と呼ばれた最初のプロテア――キング・プロテアが現れたとされるのは、第一文明期の末期。当時いた二つの種族、白の花人(シロノハナビト)黒の花人(クロノハナビト)との戦争へ介入して、文明ともども両軍を叩き潰して、戦争を終了させた人物が、キング・プロテアと名乗っていたらしいわ」


 そう言いながら、該当のページを開いて、指で示す。


「戦争の終わりが、第一文明期の終わりでもあるんだよね?」

「ええ、そうよ」


 少女――ライラ・クックセンの言葉にうなずいて、ユノは再びページをめくりだした。


 薄紫色の煌めくような髪色をしたライラは三歳になる前からこの孤児院にいる少女だ。

 明るく快活で勤勉な彼女は、十三歳を迎えた今も勉強に余念がない。読み書きや計算を大人顔負けのところまでできるようになったので、最近はユノの時間がある時に、大陸史や花導史などを習っていた。


 ライラは自分にとって未知の新しい知識を前にすると、夕暮れ色の瞳をキラキラと輝かせる。


 人に教えたりするのは苦手などと口にしているユノも、その情熱に溢れた、好奇心旺盛で純粋な輝きに負けて、こうやって時々教えるようになってしまったほどだ。


 それにやられてしまい、彼女の先生になったのは何もユノだけでない為、ライラは多くの人から多くのことを教えてもらっているそうである。


「さらにキング・プロテアはそのおよそ千年後、第二文明期末期に出現している。

 主に魔人と呼ばれているプロテアは、こちらのキング・プロテアね」

「えーっと、魔族っていう人たちと一緒に第二文明の国々を襲ったんだっけ?」

「そう言われてるわ。その魔族の末裔がアニマ族とも言われてるわね。

 まぁ正直、第一・第二文明期のどちらも資料が少なすぎて正確なコトは分からないんだけど」

「この本に書いてあるのに?」

「この本に限らず、古い歴史っていうのは、確証が少ないからねぇ……。

 正確な記録や考証がなされているものならともかく、そうでないものはだいたいが、こうだったんじゃないかな――程度のものなのよ」


 話が横に逸れたわね――と、言ってユノは、第三文明期について書かれたページを開く。


「そして、英雄クイン・プロテア。

 彼女は魔人プロテアの子孫を名乗り、第三文明期に現れた災厄の精霊ジャンク・アマナを倒すべく、討伐隊を率いた。

 その討伐隊を先導し、人と精霊の架け橋となった彼女は、人と精霊の連合軍を勝利へと導いた。

 魔人の子孫だけあって、充分強かったらしいけれど、彼女は純粋な強さよりも、人と精霊を纏め上げたそのカリスマ性こそが神髄であるとされ、後世――つまり現代では先導の英雄として語り継がれている。

 そして戦いの後始末を終えると同時に、第三文明期の終了が告げられ、今現在あたしたちが生きている第四文明期が始まった。

 そのことから、終末の戦乙女(いくさおとめ)とも言われてるわね」


「すごい人だよね! 憧れちゃう!」

「そう? 先導だの隊長だのなんて面倒なコトしたくないわねぇ……。どうしても戦争しろっていうなら、バックで花導兵器(フィオデュエリオ)でもいじってる方が絶対良いわ」


 左右でふんわりとしたお下げにしてる後ろ髪を振りながら目を輝かせるライラに対し、ユノは半眼になってうめいた。


 人と精霊を纏め上げるだなんて、想像するだけでうんざりする。

 手を取り合うことはやぶさかではないが、指導者だの英雄だのなんて立場は勘弁願いたいものである。


「ユノお姉ちゃんは、どんな時代でも花導品(フィーロ)をさわれればいいんだよね?」

「そうよ。良く分かってるじゃない」


 ライラの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


「そんなワケで、本にちゃんと書いてある通り、最初のキング、第二のキング、そしてクインの三人は間違いなく別人。

 そもそも、それぞれの登場の間には時間にして千年ほどの開きがあるんだから、同一人物説なんて仮説すら立たないわね」

「そもそもキングさんは男の人で、クインさんは女の人だものね」

「そう。そこは間違いなく別人でしょう?」

「確かにそうだねぇ……。

 こういう本には、プロテアとしか書かれてないから、つい同じ人だと思っちゃった」


 歴史家や研究者たちからすれば、どの文明期のプロテアであるかがわかれば良いので、文脈から判断できるのであればいちいち書かないのだろうが、彼女のように勉強をしはじめたばかりの場合、逆にそれがネックになることが多い。


「プロテアって単語で覚えるよりも、全部通してそれぞれの時代に現れるプロテアの血族って覚え方をしたほうがいいかもね」

「うん、そうする」


 ユノのアドバイスに、ライラが素直にうなずく。

 ちょうどそのタイミングで、院長が学習室へとやってきた。


 院長は穏やかな眼差しと、柔らかな物腰の女性だ。

 その穏やかさの陰に隠れているが、肉感的な身体付きをした女性でもあった。ある意味、ユノやユズリハとは正反対の肉体の持ち主である。


「空調の修理に来てくれたのに、ライラのお勉強を見てもらって悪いわね。ユノさん」


 言いながら、院長はユノとライラにお茶を出す。


「院長先生ありがとー」


 笑顔でお礼を言ってコクコクと飲み始めるライラを見ながら、ユノも小さく礼をしてカップを手にとった。


「ライラはちゃんと話を聞いてくれるし、覚えも良いから教える方も楽しいのよ」

「だって、ユノお姉ちゃんみたいに頭良くなれば、もっとみんなの為に何かできるんじゃないかなって、思うんだ」

「そう」


 ライラの言葉に、院長が嬉しそうに笑う。

 ちょうど、そんな時だ。


「せんせーッ! どこーッ!?」

「学習室よ」


 院の子供の大きな声が響く。

 ドタバタと足音を立てながら、立て付けの悪いドアが開け放たれる。


 数人の子供たちが入ってくると、ユノと院長の周囲に群がり服を引っ張ってきた。


「せんせー! あのね!」

「ユノ姉ちゃんもいるッ!」

「二人ともちょっと来てーッ!」


「みんな、どうしたの?」


 首を傾げるライラに、子供たちは口々に告げる。


「なんかね。院のお庭に、変な人がいるの」


 その内容に、ユノと院長は思わず顔を見合わせた。





 鬱陶しくまとわりついてくる子供たちを捌きながら、ユノは院長と共に庭へと出る。


 すると、子供たちの言う通り庭の真ん中で腕を組んで仁王立ちしている男がいた。


 身長は高く、四肢が丸太のように太い、筋肉の固まりのような男だ。薄緑色の髪はボサボサで、逆立っている。何故か上半身は裸で、がっしりとした大胸筋や、しっかり割れた腹筋がピクピクと動いていた。


「変態よッ! 変態がいるわーッ!!」


 その上半身を見るなり、ユノが思わず叫ぶ。


「誰が変態であるかッ!」

「アンタよッ、アンタッ!」


 酷くショックを受けたように男が声をあげるが、ユノは即座に切り返す。

 ユノの横で、子供たちが「へーんたい!」「へーんたーい!」と大合唱しており、その度に、男がどんどん気落ちしていく。


 男の下半身は幸いにも黒い簡素なズボンをはいている。

 ダボついているが、丈があっていないのか、膝丈だった。そのズボンの腰と裾のあたりをベルト代わりの紐でしばっていた。


 極めつけは丈の合っていないマントだ。

 薄汚れ、ボロボロになっているマントが風になびいている。だが、丈があっていなさすぎて、マントというかケープに見えてしまう。

 まるで巨漢が子供用のマントをしているような姿である。


「ええいッ、子供たちよッ! 私は変態などではないッ! 断じてないのであるッ!」

「じゃあ何? 筋肉? 筋肉人形? っていうかいちいち喋る度にポーズ取りながらピクピク動かさないで鬱陶しいっていうかキモい」


 ユノの非情な口撃に、突如現れた筋肉怪人はたじたじになっていた。ユノの言葉をマネして無邪気な援護攻撃を繰り返す子供たちからのダメージも相当なもののようだ。


 そんなユノや、子供たちを制して、孤児院長が問いかける。


「それで、貴方はこんな寂れた孤児院に何のご用なのでしょうか?」

「うむ。それなのだがな――」


 ようやくちゃんと話を聞いてくれそうな人が現れた――そんな女神に感謝するような面持ちで、筋肉がうなずく。やはり上半身をピクピクさせながら。


「いや、まずは名乗ろう。

 我の名は、マッスル……マッスル・プロテア! 今代のプロテアであるッ!」


 瞬間――


「嘘つけぇぇぇぇぇッ!」


 ユノとライラの靴底が、マッスルを名乗る男の股にいる息子を貫いた。



 そのあまりにも壮絶すぎる攻撃に、子供といえども男であるちびっ子たちは、思わず自分の股間を押さえて竦み上がる。


「ユノ姉とライちゃん……なんて恐ろしい技を使うんだ……」

「あの技だけで、どれだけの男を葬れると思っているのだ……」

「くくくくくッ、あの程度で悶絶するなど、やつは変態筋肉の中でも最弱」

「真なる変態筋肉であれば、ねーちゃんたちの股間への攻撃にむしろ喜ぶべきだ……」

「いや、ないだろ」

「ねーな」

「なんで喜ぶんだよ」


 竦み上がりながらもふざけ合っていた男子たちだったが、急に冷静になって、一人に対して半眼になった。

 突然手のひらを返された一人が愕然としているようだが、それはさておき――


「それで、貴方はなんなんですかッ!」


 股間を押さえながらフラフラとしている筋肉にビシッと指を突きつけて、ライラが問いかける。


「うぐ……ぬ、言った通り、今代のプロテアである」

「聞かなかったコトにしてあげます筋肉さん。

 なので、改めて聞きますね。貴方は何なんですか?」

「なぜ、認めぬのか――――ッ!」


 頭を抱えて叫び出すマッスルに、ライラは若干顔をひきつらせて、一歩退く。


「鬱陶しい野良筋肉ねぇ……」

「誰が野良筋肉かッ!」


 思わずユノがうめくと、耳ざとく聞いていたらしいマッスルが声をあげる。だが、この場でのそれは、逆効果だったようだ。


「やーい、野良筋肉ぅ~!」

「野生に帰れぇ!」

「院長先生、野良筋肉飼ってもいい?」

「自分で責任を持てないようなペットなど飼おうとしてはいけませんよ」


 ついには院長まで筋肉いじりをはじめてしまい、マッスルは涙目になって叫ぶ。


「やめんかッ! というか少し黙りたまえッ! 話が一向に進まんのであるッ!」

「別にあたしは進まなくても困らないし。勝手に困ってなさい」

「言われてみればそうだよね。野良筋肉さんの不法侵入なわけだし」


 大袈裟に肩を竦めるユノと、それに同意するライラ。


「良いかッ! 私はッ、今代のプロテアであるッ!」


 ポーズを決めながら、筋肉をピクピク動かし、再度そう主張するマッスルの頬に、ナイフが掠めていく。

 マッスルの頬から、赤い雫が小さくこぼれた。


「子供たちの情操に悪そうですので、そのピクピクさせながら喋るのやめていただけませんか?」


 この院長、穏やかな見た目や物腰に反して、ゴールデンベリィのところの戦猫団ツィファー・ズカッツェの元メンバーでもある。


 今も必要とあらば裏の顔として、元メンバーであった実力を遺憾なく発揮している。


 先の騒動の時にも、その後輩たちと共に暴れ回っていたくらいだ。


 そんな彼女が子供たちにカン付かれないように細めた眼から、極めてシャープに束ねた殺気を野良筋肉に飛ばす。

 するとか彼は面白いように青ざめて、激しく首を縦に振るのだった。




 場所を移して、院内の食堂。


 簡素な木のテーブルを囲い、やや小さめの椅子に窮屈そうに座っているマッスルに、皆の視線が集まっている。


「改めて名乗ろう。私はマッスル・プロテア。

 世界各地を巡りて、プロテア伝説に憧れる者を訊ねて回っている者である」

「まず根本的にどうやってプロテア伝説に憧れてる人を探してるワケ?」


 ユノが胡散臭げに目を眇めて訊ねると、彼はうむ――とうなずいて、答えた。


「だいたい憧れているのは子供ゆえ、それっぽい子供がいそうな場所に赴いては気配を殺して聞き耳を立て、そういう話をしていたのであれば、タイミングを見計らって姿を見せていたのである」

「完全に変質者ですね」


 院長が絶対零度の眼差しを向けると、マッスルが顔をひきつらせる。


「仮にマッスルさんがプロテア家の関係者だったとして、その行為になんの意味があるんですか?」


 ライラの素朴な疑問に、マッスルは真面目な顔をして答えた。


「そういった者たちから向けられる羨望の眼差しに、先祖の偉大さを感じ取るのである」

「先祖は偉大でも、アンタは間違いなく小者ね」

「そんな人には憧れられないよねぇ……」


 胸を張るマッスルに、ユノとライラの冷めた眼差しが突き刺さる。


 そもそも――と、ユノが半眼のままマッスルに訊ねた。


「アンタがプロテア家の末裔であるという証拠は?」

「この筋肉こそが証であるッ!」


 それが完璧な証明書であるかのように、ムキッっとマッスルがポーズを取る。

 蹴り飛ばしてやろうか――と、ユノは思ったものの、ふと自分の師匠の姿を思い出し、動きを止めた。


 師匠――フリッケライ・プロテア。

 花修理職人(フルール・リペイア)なんて言葉が似合わない筋骨隆々な強面の男。


 そんな師匠の姿を思い出しながら、ユノはマッスルに問う。


「ねぇ、フリッケライ・プロテアって人、身内にいる?」

「いや。聞かぬ名だな」

「そう。ならいいわ。気にしないで」


 思い過ごしか――と、ユノは嘆息する。

 小さく(かぶり)を振って、気を取り直すと、改めて訊ねた。


「それで。筋肉がどうして、証拠になるわけ?」

「そんなコトも分からぬのか?」


 器用に方眉だけ跳ねさせて、どこか小馬鹿にしたような表情をしてから、マッスルが口角を上げる。


「先祖代々、我らが一族は一様にして強きチカラを持っていたッ! これすなわちすばらしき筋肉の躍動者(やくどうしゃ)であるというコトであるッ!!」

花術師(フルーラー)だったら筋肉関係なくない? それにチカラだけでなくて、頭の良さとかカリスマとか、そういうのが必要でしょう?」


 ライラの言外に、筋肉しか誇れないお前はやっぱりプロテア一族ではない――と言っていたりするのだが、そこは筋肉。論破されたことそのものは理解できても、言外の言葉までは聞こえていないようである。


「ライラすごいわね。貴族みたいな含み言葉。どこで覚えたの?」

「うふふん。わたしだって色んなところで勉強してるんだよ?」


 ユノに誉められたライラの満面に喜色を浮かべた。


「少し待ちたまえ。彼女は言外に何を言ったのであるか?」

「分からないなら分かる必要はないし、分からない方が悪いっていうタイプの言葉回しだから気にしたら負けよ」

「気になる言葉なのであるッ!?」

「直訳すると、『(うそ)筋肉(きんにく)うぜぇ』かしら」

「嘘つ筋肉ッ!?」


 酷くショックを受けた顔をする。

 見た目の厳つさと筋肉に反して、ずいぶんとメンタルが弱い男のようだ。


「くぅぅぅぅ……ここまでコケにされたのであれば、男として黙ってはおれぬ……ッ!」

「野良嘘つ筋肉として黙っててくれるとありがたいんだけど」

「合体しているのであるッ!?」


 自分を振る立たせようとがんばっているマッスルに、ユノは容赦なくたたき落とす。


 さらには、野良嘘つ筋肉という言葉が、周囲の子供たちのツボに入ったらしく、「のーら!」「うーそつきー!」「きーんにくー!」とよく分からないリズムで合唱を始めた。


 その合唱がガシガシとマッスルのメンタルを削り取っていくのだが、それでも彼は、『男の子なんだから負けないもん』と自己暗示を掛けながら立ち上がる。


「ぬおおおおおおッ! こうなったら、決闘であるッ!」


 叫んで、ユノに指を差そうとするが――


「あぁん?」


 ガンを付けられたマッスルはビビってその指先を院長に向け――


「あらあら」


 微笑みながらも、氷でできたナイフのような殺気を向けられ、顔をひきつらせたマッスルの指は――


「……決闘であるッ!」


 ライラに向けられることになった。


「野良筋肉だせー」

「嘘つ筋肉カッコ悪い~」

「筋肉びびってるぅ!」

「ダメな筋肉だねぇ」


 子供というのは、本当に容赦のない生き物である。


「う、うるさいのであるッ!」


 もはや子供に対してもまともに反論できなくなっているマッスルのことなどはどうでも良い――と放置して、ユノはライラに向き直った。


「どうすんの? 受ける理由はないけど」

「それなんだけど……あのね、ユノお姉ちゃん。こんな時なんだけど、わたし、勉強をがんばってるご褒美をほしいなーって」


 子供らしく愛らしい笑顔に加え、甘ったるい声で、ユノへともたれ掛かかりながら言ってくる。


 確かにライラはがんばっているのは知っているし、かなり勉強ができるようになっているから、ご褒美をあげることはやぶさかではないのだが――


 自分の武器を最大限に生かしたライラのおねだりに、ユノは院長へと半眼を向けた。


「誰の仕込み?」

「ライラは本当に何でもよく覚えるのよ」


 ユノから目を逸らし、院長はバツが悪そうに嘯く。


「ライラはどこに向かってるのかしらね」

「どこにでもッ、どこまでもッ、だよ!」


 えへへー……と笑うライラに、ユノは観念したように両手を挙げた。


「それで、どんなご褒美が欲しいわけ?」


 ライラが耳打ちしてくる内容にユノは数度、目を瞬く。


「あたしは、別に構わないけど……」

「なら、決まりだねッ!」


 グッとライラはガッツポーズを取ると、ビシっとマッスルへと指を差した。


「そこの野良嘘つ筋肉ッ!」

「その呼び方やめぬかッ!」

「なら、野良嘘つきエセ筋肉?」

「この筋肉は本物であるッ!!」


 野良嘘つ筋肉が筋肉をピクピクと脈動させながら叫び返すが、ライラは気にした素振りもなく告げる。


「貴方からの決闘。受けてあげるわッ!」

「なんとッ!?」

「ただし、勝負は来週ッ! そこで貴方の筋肉が所詮見かけだけのハッタリ(きん)エセ(にく)だって証明してあげるからッ!」

「小娘ッ、吐いた唾は飲み込むコトはできぬのであるぞッ!」

「もちろんッ! むしろ、当日まで震えて待ってるといいわッ!!」


 ふふん――とライラは鼻で笑い、胸を張る。


「良いだろうッ! 来週を楽しみにしているのであるッ!!」


 そうして、去っていく野良筋肉の背中を見ながら、ユノは小さく嘆息した。

 正直、会話するだけで疲れる相手だったのは間違いない。


「それにしてもライラちゃん。勝負なんて受けて良かったの?」

「だいじょうぶだよ院長先生。

 正直、ユノお姉ちゃんからのご褒美もらえればそれで良かっただけだし。それでもまぁ、ご褒美があれば、勝負も何とかなると思う。我に秘策ありってやつですッ!」


 そう言って笑うライラの姿は、勝てない勝負などほとんどしない徹底主義者タイプの策略家の顔をしていた。





「ねぇライラの将来が怖いんだけど」

「カイム・アウルーラの為にがんばれる実力者が増えるのは良いコトじゃないですか」

「勉強以外のコトを仕込みすぎだって言ってるの」

「何せ、彼女は勤勉ですからね。

 それに時折、遊びに来てくれるユズさんやトミィさん。他にもサイーニャや、アレンさん何かからも色々教わってるみたいなので、全部が全部、私の仕込みではないんですよ?」

「責任を余所に押しつけてるようで、一部は自分ですって自白してるの気づいてる?」

「……あ」


 何はともあれ、ユノは来週がある意味で怖くなってしまうのだった。

※2017-4-18

 災厄の精霊の名前をジャック・アマナからジャンク・アマナに変更しました。


 そんなワケで大陸史をちょっと小出ししつつの筋肉回でした。筋肉ってほど筋肉でもない気がしますが。


 ユノは、フリッケライが過去に両親ととパーティを組んでいたのは知っていますが、そのフリッケライという名前を付けたのがネリィだとは知りません。そもそも師匠がかつて記憶喪失だったことも知りません。


 ライラは、明るく真面目な子のつもりだったのにどうしてこうなった……? この子がどこに向かっているかは作者にも分かりません。この話が前後編の長さになってしまったのは、恐らくこの子のせいです。


 それらはさておいて、1万PV突破していました。ありがとうございます。これからもマイペースにやっていきますが、よろしくお願いします。


 そんなワケで次回は後編です。

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