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046:水道花導品 と 青の星 - 後編 -


 ローゼマリア・アンブロッソ。旧姓はハーヴスト。


 現在の夫であり、旅仲間のカプレシスと違って、お世辞にも名前が売れた綿毛人(フラウマー)では無かったが、それでも彼女とて長いこと綿毛人(フラウマー)をしていたのは確かである。


 怒りに任せ勢いで水道職人(アクエヴェクス)協会(ギルド)を飛び出してしまったことに、ちょっと後悔をしてはいるものの、馴れない街で一人で過ごすことに不都合を感じない程度には、旅馴れしているつもりだ。


 とりあえず、旦那と宿泊している宿屋から、少し離れた場所に改めて個人で宿を取り一夜を明かした。



 翌日――少し寝坊してしまい、宿屋に併設されてる食堂で遅めのお昼を食べてから、外へ出る。


 向かう先は綿毛人互助協会(フラウマーズギルド)だ。

 今の財布の中身では心許ないので、預けてあるお金を少しおろすつもりである。


「いらっしゃいませ」


 中に入って声を掛けてきた、メガネの女性従業員が侍女服だったのに若干驚きつつ、周囲を見渡す。

 どうにも、女性従業員は全員この格好のようだ。これがここでの制服なのだろう。


「すみません、貯金窓口ってどちらに?」


 メガネの従業員に訊ねると、彼女は丁寧な仕草でうなずくと、階段を示した。

 その丁寧さに、ローゼマリアが思わず背筋を伸ばす。メガネの女性の仕草は、大店や貴族との商談の場と錯覚しそうなほど様になっていたのだ。


「それでしたら、二階になります。あちらの階段からどうぞ」

「ありがとうございます」


 見た目と言動で男っぽく見られることが多いローゼマリアだが、実家は結構な商家であり、それなりの教育を受けている為、丁寧な動作が必要な時は非常に女性っぽくなる。

 そのギャップが良いと、地元では女性からモテていた。

 そう、女性からである。ラブレターも何度か女性からもらっており、彼女の中では微妙な思い出となっている。


 さておき、ローゼマリアは案内された通りに階段を登って、二階の窓口でお金をおろした。


 目的を果たして、階段を降りて一階へと戻ると――


「いたいた。ローゼマリア・アンブロッソさんですよね?」


 艶やかに光る珍しい黒い髪に、これまた珍しい異装であるキモノを身に纏った、いかにも東方出身という見目の少女が声を掛けてきた。

 幼い見た目ながら、油断ならない立ち振る舞いの少女に、ローゼマリアは訝しみながらうなずいた。






 ユノから事情を聞き、夫婦喧嘩の仲裁を頼まれたユズリハは、ローゼマリアを探していた。


 黒に近い紺色のベリーショートに、青い瞳。それなりにあるのだが、長身なことも相まって目立たないバスト。

 それらを包む、男物のシャツと、男物のジャケット。下もスカートではなく、元々の長身をより高く、足をより細く見せるようなスリムなズボンだ。


 一見すると男性に見えるものの、女性特有の丸みや華奢さのようなものはいっさい隠していない為、しっかりと女性に見える。


 間違いなくこの人だ――と、思ってユズリハは声を掛けた。


「いたいた。ローゼマリア・アンブロッソさんですよね?」

「そう、だけど……?」


 訝しみながらも、こちらの雰囲気的に敵対するような相手ではないと思ったのだろう。ローゼマリアはうなずいた。


「フルール・ズユニック工房のユズリハ・クスノイと言います。

 ユノに頼まれて、探してたんですよ」

「うっ」


 バツの悪そうな顔をしてうめく彼女に、ユズリハは先制するように手を振った。


「連れ戻して来いって話でもないので、逃げないでくださいね」

「お、おう……」


 いたずらのバレた子供のような顔をするローゼマリアに、ユズリハは笑う。


「ちょっとお話ししたいだけですので、良かったらどこか落ち着けるお店でお茶でもしません?」

「それは構わないけど」

「……けど?」

「その、工房の人からの相談でなければ、完全にナンパなセリフだよね、それ」

「言われてみればッ!」


 ポンっと手を打って、ユズリハが大げさに声を上げる。

 その後、ローゼマリアの誤解を解くように慌てて手をパタパタと振った。


「あ、でも安心してください。私、そのケはありますけど、今回は完全に仕事なので。あと、傷心の美人には興味ありますが、人妻には興味ないです」

「セリフに微塵も安心できない言葉がいっぱい詰まってるんだけどッ!」


 ツッコミを入れつつも、ローゼマリアはこちらを疑う気はなさそうだった。





 花喫茶・ドルトー。

 ローゼマリアがユズリハに連れて来られたのは、そんな名前の喫茶店だった。


 落ち着いた内装と、嫌み無く飾られた大小数々の花鉢や観葉植物が可愛らしい。

 コーヒー特有の甘く香ばしい芳香と、飾られている花たちの香りが混ざり合い、華やかな雰囲気の店内だ。

 張り紙を見ると、気に入った花――霊花(エテルネルール)はなく全て常花(ノーマル―ル)のようだ――は買って帰れるようである。


「店長さんがこだわっててね。香りの強い花は、コーヒーの香りと混ざっても嫌にならないものだけを仕入れてるんだって。ついでにこの手のお店にしては完全禁煙なのもポイントが高い」

「なるほど。本当にこだわってるお店なんだな」


 ローゼマリアは一切吸わないが、タバコ自体は嫌いではない――何よりカプレシスが愛煙家だ――。別に隣で吸われていても特には気にするものではなかった。

 だが、タバコの香りは確かにこの店の良さを消してしまうことを思えば納得である。


 席に着いて、コーヒーとユズリハ一押しのフルーツケーキを注文した。

 しばらくは雑談をしていたが、注文の品が届き、コーヒーを一口啜ってから、ローゼマリアが切り出す。


「それで、その……お話ってなに?」

「それがねぇ……正直、責任者二人に丸投げされちゃって、私も途方に暮れてるんですよねぇ……」


 本気で困ったようにうめきながら、ケーキをフォークで軽く切って、口に運ぶ。


「それって、どういう意味?」

「ご夫婦の意見が揃ってないんじゃ、仕事が進められないそうで。

 今後ずっとつきあっていく水道花導品(アクエ・フィーロ)を、片方が気に入らないままじゃ、花導品(フィーロ)が可哀想だっていうのが、うちの店主の意見。

 水道職人(アクエヴェクス)のアスタートさんも似たようなコト言ってたんだよね。

 依頼人側が喧嘩をしていると、仲直りしたり余計に拗れたりした時、意見が変わってデザインの変更を頼まれる可能性があるから、効率が悪くなりやすい、って」

「あー……それは申し訳ない」


 実際、些細なことで喧嘩している自覚があるので、ローゼマリアは素直に詫びる。

 詫びるのだが、素直に詫びたところで、意見を覆す気は無かった。


「だけど、使う霊花(エテルネルール)がブルースターっていうのはやっぱり頂けない」

「ブルースターがダメな理由を聞いて良い?」

「理由って……だって、飲食店の厨房なんだぜ?」


 フォークで切ったケーキに、乱暴な仕草でフォーク突き立てて、ローゼマリアが口を尖らせる。

 説明なんてそれで充分だと言うかのようだ。


「そこは一応、説明してもらえると……。

 旦那さんだって、その言葉の意味に気づけなかったから、拗れちゃったんじゃないの?」

「……う」


 確かに感情的になってしまったが、指摘されてみれば、反論もできない。

 なので、ローゼマリアはどうして嫌なのか、それを口にすることにした。



     ♪



「カプレシスさん。昨日も言った気がしますし、重ねて余計なお世話かもしれないけど、純粋に経営者の視点からご指摘しても?」


 今日の午前中も軽い打ち合わせがあった。


 ユノは、フルール・ズユニック工房へ戻る道すがら、横を歩くカプレシスに問いかける。


「ええ。むしろ経営者の先達からの意見なんて嬉しいくらいよ」


 丁寧に手入れをしているらしいサラサラと輝く薄茶色の髪を揺らしながら、カプレシスはうなずく。


「依頼人からの希望なので、仕事としては気にしませんが、経営者の視点で考えると奥さんの意見に賛成です」

「ブルースターのコト?」


 うなずき、ユノは続ける。


霊花(エテルネルール)は確かにマナを大量に蓄えるコトができる上に非常に丈夫な特殊な花ですが、花によっては特徴がそのままだったりすることもあります。ブルースターはそのままのタイプですね」

「ブルースターの乳液ね」

「はい。ブルースターは俗称で、正式名称はトゥイーディアあるいはオキシペタルム。東の最果て(イーステン・ウェイ)での呼び方は、ルリトウワタ。

 ガガイモ科の植物で、ブルースターに限らずガガイモ科の植物の多くは傷口から粘性を持った乳液を出します。

 この乳液は人によっては触るだけでかぶれますし、少量ですが毒も含みます。

 霊花(エテルネルール)のブルースターなら、確かにちょっとやそっとで傷が付いたりはしませんが、それでも傷が付けば乳液を出しますし、霊花(エテルネルール)としての乳液は、その毒性が強くなっている恐れもあります」

「……あら、そうなの?」


 どうやら、乳液そのものは知っていたようだが、乳液に毒が含まれてることまでは知らなかったようだ。

 ついでに言えば、毒も強化されているかもしれないということも、未知の話だったのだろう。


 実際に強化されるかどうかという点においては、詳しく調べてみないと分からないのだが、飲食店で使うという点を考慮して、毒があるのだということを言っておくべきだろうと判断する。


「ブルースターはその花の色味から、水の精霊と相性は申し分ないんですが、飲食店に限らず、飲料水やシャワーなど、水道花導品(アクエ・フィーロ)霊花(エテルネルール)として使うには、多少の毒を持っているという本来の特性から、あまりオススメできない花なのは間違いないです」


 故にこそ、ユノは経営者としてこの花を水道花導品(アクエ・フィーロ)に使うことをオススメできない。自分のワガママが回り回ってお客さんへの悪影響の原因になるかもしれないからだ。とはいえ、依頼者の希望そのものを否定する気もない。


「奥さんは、万が一の危険性を考えて、ブルースターに反対したのでは?」

「まぁ、そうでしょうね」


 ユノがここまで説明しても、カプレシスは変更を渋る。

 それでも、どうしてもブルースターにしたかったと、カプレシスが願う理由に、ユノは検討がついている。


「このままだと、信じ合う心も、幸福な愛もなくなっちゃいますよ?」


 こういうのはユズリハの仕事だ――そう思いながらも、彼の考えを読みとった言葉を口にすると、カプレシスの表情が露骨に変わった。

 固まったというか凍ったというほが正しいかもしれない。どちらにせよ、だいぶショックを受けているようである。


 困ったように天を仰ぐカプレシスを見ながら、それでも最後に何を選ぶかなんてものは、依頼人達次第であると、まるで他人事のように――実際他人事ではある――ユノはこっそり欠伸を噛み殺すのだった。



     ♪



「――乳液のコトはわかったけど、じゃあそれは置いておくとして、旦那さんが何でブルースターにこだわったのかは、分かる?」

「あー……それは、なんでろ?」


 こてり――と、ユズリハとローゼマリアは揃って首を傾げる。


「そんなに難しいコトじゃないと思いますよ」


 二人で悩んでいると、店のウェイトレスがコーヒーのおかわりを持ってきながら、そんな微笑む。


「お姉さんは分かってるんですか?」

「ええ。ブルースターにこだわる気持ちも分からなくはないですし、素敵なコトだと思います」

「でも飲食店の水道に使うのはどうかと思いますよね?」

「それは、まぁ……」


 すかさずローゼマリアが質問を投げると、ウェイトレスもさすがに否定できないのか、苦笑しながら曖昧にうなずいた。


「それで、その……うちの旦那がブルースターにこだわる理由って何なんですかね?」


 ローゼマリアに問われて、ウェイトレスは、二人のカップにコーヒーを注ぎながら、答える。


「『信じ合う心』『幸福な愛』。ブルースターの花言葉は確か、そんな言葉だったと思います」


 ウェイトレスの言葉に、ローゼマリアはしばらく顔を伏せ、何やら考え込む。

 ややして――


「ったく、あのバカ」


 彼女はそう小さく呟くと、顔を上げた。


「ま、知ったところでブルースターは反対だけどなッ!」

「毒以外にも理由があるの?」


 ユズリハの問いかけに、ローゼマリアは軽く肩を竦める。


「大本の理由はまぁ乳液の毒で間違いないよ。

 その上でさ、カプレは自分の店を持つのが夢だったワケで――そんなあいつの夢が今まさに叶いそうってところなんだよ。

 なのにさ、わざわざその夢の途中でケチが付いちまう可能性の高い危険因子なんてものを事前に設置するなんてバカのすることだろ。

 私の為とかどうでも良くて――気持ちは嬉しいんだけど――するべきことは、夢の為、その夢に来てくれる客の為を考えるべきだろうって、私は思ってる。

 そもそも私は、あいつのプロポーズに対して、『お前の夢は私が支えてやる』って返事してるんだ。その為には反対だって喧嘩だって上等だ」


 ローゼマリアの言葉に、ユズリハは苦笑し、一緒に聞いていたウェイトレスは素敵な物語でも見たかのように手を合わせている。


「なんだろう、夫婦喧嘩の真っ直中のはずなのに、思い切りノロケられた気がする」

「思い合うからすれ違うなんてロマンスですねぇ」


 なにはともあれ、そこまで考えているのであれば――と、ユズリハは告げた。


「その言葉、そのまま旦那さんにぶつけてみたらどうですか?」




 その日の夕方――


「……と、いうワケで反対なんだ」

「うー……でもでも、せっかくマリアちゃんと一緒に開くお店よ? なんかそういう素敵なコトしたいじゃない」

「それは店内に花瓶でも飾ればいいだろ。わざわざ水道に使う理由にはならねーよ。それに……」

「それに?」

「そんな遠回しな方法で伝えてくるようなコトじゃねーだろ。ましてや自分の夢を削るような方法でさ。

 直接言葉にすりゃ良いじゃねーか。

 ロマンだなんだってのは分からなくもないけど、少なくとも今回の場合は、お前がそこまで意固地になる理由なんてないだろ。

 何より、その……遠回しだろうが直接的だろうが黙ってようが、そのあたりのコトをそこまで気づかないほど、鈍感じゃないしな……」

「マリアちゃん……ッ! 好き……ッ!」

「はいはい。私も好きですよ」


 夫婦のそんなやりとりがあったそうな。



     ♪



「それで、結局のところ水道花導品(アクエ・フィーロ)霊花(エテルネルール)はどうなったの?」

「ん、あたしに丸投げされたわ。専門家が考える相応しい花にしてくれって」


 ユノとユズリハの夕飯の席で、話題になるのは、やはりアンブロッソ夫妻の話だ。


「仲良く喧嘩してるって感じの二人だよねぇ」

「そうねぇ」


 ユズリハの作ったオムレツを口に運びながら、ユノはうなずく。

 今回の出来事に関わってないドラは、首を傾げながらも、オムレツに舌鼓を打っている。


「もう花は決めてるの?」

「まぁね。水場に使う花なんて、ハイドランジア一択でしょう。何せその名前の由来は『水の器』なワケだしね」

「ハイドランジア……えーっと、ああ――アジサイか」


 アジサイは東方式の名称だ。

 元々西側ではハイドランジアと呼ばれていたのだが、アジサイという名称が東からこちらの方へと流れてきた時、音の響きが良いとかで、その呼び方が広まり一般的となっている。


「でも、アジサイって『移り気』って花言葉を持ってるし、これからお店を開こうって夫婦に使うのもどうなの?」

「別に花言葉は、一つの花に一つってワケじゃないでしょう?」

「ほかに何かあるの?」


 ユズリハが首を傾げると、ユノはうなずきながら、コーンスープを口に入れる。

 丁寧に裏ごしでもしたのか、皮や実の食感の一切ない滑らかな口当たりの一品だ。

 オムレツもそうだが、相変わらずユズリハの料理の腕が良い――と胸中で誉めながら、ユノはアジサイの話の続きを口にする。

 

「ハイドランジアは、小さな花が密集して大きな花になってるでしょう?

 その姿から、『家族団欒(だんらん)』とか『結びつき』なんて意味も持ってるのよ」


 そもそも移り気という言葉の由来は、ハイドランジアが根を張る土壌の質によって花の色が変化するところから来ている。

 その為、その土地に染まる――という捉え方もできるのだ。


 移り気なのでなく、夫婦揃ってカイム・アウルーラに染まるのであれば、何も問題はないだろう。


「もしかして、そこまで考えてアジサイ?」

「ええ。ついでに言うと各種色合いを少数ずつ集めたようなものにする予定」

「それにも理由があるんだよね?」

「精霊の宿としてのハイドランジアは、名前の通り水の精霊やマナと相性が良いから、花の色は関係ないの。

 その上で、あたしがわざわざ複数の色を集めたのはね――」


 アジサイに限らず、花言葉は色によって変化することも多い。


 青や紫系のアジサイは、『冷淡』、『無情』、『高慢』というあまり良い意味ではない言葉が多いのだが、ユノとしては『辛抱強い愛情』という言葉から、この色を選んだつもりだ。

 あんなノリの旦那と一緒に暮らすなんて、辛抱強い愛情あってこそだろうと、わりと本気で思ったのである。


 ピンクや赤系のアジサイは、『元気な女性』だ。

 もう言うまでもなく、ローゼマリアを応援する意味がある。

 元気なオネェである旦那もこれに該当するかどうかは微妙なところではあるが。


 白系のアジサイは、『寛容』。

 辛抱強い愛情共々、ローゼマリアの寛容さには恐れ入ると思う。

 もっとも、ローゼマリアの子供っぽさを、受け入れられるだけの寛容さをカプレシスも持っているだろうが。

 ユノとしては、お互いの言い分をもっと寛容な心で聞き入れて喧嘩を控えろと言う意味で、この花なのだ。


 最後に東の最果て(イーステン・ウェイ)にある、ハイドランジアの原種とされるガクアジサイ。これは『謙虚』という言葉を持つ。

 寛容さとともに、お互いに謙虚に一歩引くことを覚えれば喧嘩も減るのではなかろうか――というユノなりの心遣いである。


「見事に、ユノの個人的な意見ばっかりだね。しかも奥さん贔屓」

「花言葉なんて解釈次第だもの。花言葉を教えてもあたしの意図を教えなければ、好きに解釈してくれるわ」


 花言葉を気に過ぎると、花なんて選びようがないことも往々してあるのだ。


「添え物で良いと思うのよ、花言葉なんてね」


 花術師(フルーラー)としても花職人としても、花言葉は軽視はできない。けれど、私生活においてはそこまで気にしすぎない方が良い。


「でも、カプレシスさんみたいに、気持ちとしてはこの花で――という人もいるでしょう?」

「もちろん、それを否定するつもりはないわ」


 ただ、花言葉に振り回されないように気をつけるべき――というだけの話である。



 何はともあれ、こうして夫婦喧嘩は解消され、ユノは楽しそうに水道花導品(アクエ・フィーロ)セットの作成を始め、アスタート達が水道工事を始めていくのだった。






 数日後――


「ユノちゃん、ユズちゃん、居るッ!?」


 乱暴にドアを開けながらローゼマリアが入ってくる。あまりの勢いにユノとユズリハは目を見開く。


「マリアさん、どうしたの?」

「まさか、また喧嘩したとか言わないでしょうね……?」


 二人が訊ねると、ローゼマリアは胸元で握り拳を作った。


「そうなんだよ。カプレの奴がさ――」


 話を聞いていると、やっぱり些細なことから発展した夫婦喧嘩。

 売り言葉買い言葉の後で、ローゼマリアがカプレシスの元から飛び出して、ここへとやってきたらしい。


 話の途中、憤った勢いの乱暴な言葉に混じってちょいちょいとノロケが混じる。


「そんなワケで匿ってもらえないかな? ちゃんと、お仕事の手伝いはするから」


 ローゼマリアの言葉にユズリハがちらりとユノを見やる。

 ユノはその視線を受けながら、軽く嘆息したあと、大きく息を吸ってから叫ぶ。


「いい加減にッ、しろォォォ――――――ッ!!」






 商業区の一角。

 大店の新人や見習いたちに、駆けだしの若手商人たちをターゲットにした食事処『フィール・グルック』がオープンする。


 値段の割に量が多く美味しいとターゲット層だけでなく、綿毛人(フラウマー)たちからも評判となった。

 そうして、しょっちゅう喧嘩している面白夫婦が経営する、カイム・アウルーラ人気のお店となるのだが……それはまだ、もう少し未来のお話――




 ユノもユズリハも何だかんだでお人好しなところをローゼマリアに気に入られており、今後フルール・ズユニック工房はマリアの駆け込み寺と化します。


 今後使うかどうかはわからない設定ですが、ローゼマリアには兄弟姉妹がいて、その名前はバジリス、ヤスーミア、双子のリモーナルとグラーシア、ティミアーノ……とかだったりするハズです。ローゼマリア共々名前の由来は名字のハーヴストから察してください。


 完全に余談ですが、実在するブルースターの乳液にはアルカロイド(ロベラニン、ロベリン)やカルデノライドなどを含んでおります。そこまで強力な毒性ではないですが、皮膚などが弱い方は、乳液のみならず乳液が溶け出しているだろう花瓶のお水などにも、お気を付けくださいませ。


 次回はカイム・アウルーラの奇人変人回の予定です。


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