08話 未知との共有
場所は変わらず森の中にある川のほとり。
まだ乾いていない服を仕方なく着たナツキ。
着替えの間、当たり前だがアリスは後ろを向けさせられた。
「「…………」」
ナツキはアリスを警戒しきっており、背を向けている。
両者の沈黙は続いた。
先に沈黙を破ったのはアリスだった。
「……なぁ、あんた。 さっきチート能力がどうとか言ってたよな?
俺はそれについて詳しく聞きたいんだが」
「え? そういえばそれって学ラン?
もしかして君も異世界転移してきたの?
わー! やた! 私、1人で心細かったんだ!
嫌なこともあったし!」
やはり依存癖のナツキ。味方になるかもしれない相手を見つけ、明らかにテンションがあがる。
しかし、言ってる途中でハッとする彼女。
「そ ん な 事 よ り !!! 謝るのが先でしょ!? この変態!!」
「けっ、別に見たくて見た訳じゃねえし、あんなの事故だ事故」
「事故だとぉ!? 女の子の裸見ておいて〜!?」
ナツキは全く悪びれもしないアリスに、
ダンダンと地団駄を踏みプンスカ怒った。
「まだ誰にも見せたことないのに……」
ナツキがボソッと呟いた。
「まあさ、同じ異世界転移してきた者同士仲良くしようぜ? 俺は有栖 楓。
楓って名前好きじゃないからアリスって呼んでくれ。歳は18歳の高校生だ」
アリスが爽やかな笑顔を作り、握手しようと手を差し出す。
しかし慣れてないのか張り付いた様な笑顔で気味が悪い。
「うわ……笑顔怖……。
私は夏木 裕月。19歳の大学生。
……って歳下!? ……あ、そりゃそうか学ランだし。
ふ、ふん! なんだなんだ! 歳下の癖に生意気な口聞いて!」
ばしっとアリスの腕を払うナツキ。
「プッツン」とどこからか音が聞こえた様な気がした。
「おい、姉ちゃん。 人が下手に出てりゃあいい気になりやがって」
「え、 今なんかすっごい物騒な言葉が聞こえた気が!?」
「って、あーいかんいかん癖がつい……。
な、なーんてね! これから協力して行こうよ、ボク達!
よかったら君の能力教えてくれないかな?」
青筋浮かべながらニコニコ喋るアリス。
うわぁ、こいつ不良だ……。
ナツキはそう思った。
「見くびってもらっちゃ困るけど、私強いよ?
見た感じ相当君もやるみたいだけどさ」
さっきのはいい右だった。腰もしっかり入ってたし。
格闘技はやってるだろうな。
「まあ、確かにな。あんたは中々やりそうだ。
だから協力関係を結ぼうぜ」
「協力関係?」
アリスは頷く。
「ああ。 あんたは見たところ扱いやす……ゲホゴホ! 悪い奴じゃなさそうだ。
俺の予想では他にも異世界転移者はいる。
そいつらがどんな奴で何を企むかもわからないしな。
それにこんな世界で1人で生きていくよりも助け合った方がいいだろ?」
「他にも異世界転移者が?
でも言われてみればそう考える方が自然なのかも……」
ナツキは思う。
で、でもあんたとかぁ……。顔は悪くないし頭も良さそうだけど、
なんか性根がひん曲がってそうな気が。
ナツキ、大正解である。
「ちっ、わかったよ。 俺の能力は『絶対神罰』
触れたものを問答無用で……ンに変える能力だ」
「え? なんて? 何に変える能力?」
「ああ、もう! 焼きそばパンだよ、焼きそばパン!
制限の所為で決まってんだ! これでいいだろ!
この世界じゃ自分の能力を明かすのは相当危険な行為だからな! 多分!」
……そうかもしれない。
魔法や剣術もこの世界では脅威だが、
私達のチート能力はこの世界の法則に縛られない特別な力だ。まぁ、ちょっと癖はあるけど。
それを知られるという事は中々に危険な事だ。
それにしても……
「ププークスクス! 焼きそばパンって!
あはははは!!」
「なっ! テメ、笑いやがったな!
俺は言ったんだからお前の能力も教えろよ!」
「私の能力は『百獣の巫女』人間以外の生物の力を借りられる能力だよ!
制限は……言いたくない。絶対に言わない」
「ずるいぞてめえ! 仲間ならこういうのは共有するもんだ!」
アリスはふと思う。
何で俺は自分の能力なんて教えたんだ?
あの事件以来、俺は滅多に人を信じようなんて思わなかったはずだ。
だが何だかこいつは信用できる。……気がする。
ナツキはふと思う。
何で私はこんなに心を許せてるんだろう?
兄に襲われて以来、男の子とは距離を取ってきた。ファンの人達は襲われる心配は無いから平気だったけど。この子は何だかそれとも違う気が……。
((まさか、これが))
人は異性関において、説明し難いが他の異性とは違う感情を抱く(特別な)異性を見つけてしまう事がある。
……人はそれを「恋」と呼ぶ。
唐突に、
アリスは殴られた頬の痛みを。
ナツキは肌がを見られた心の痛みを思い出す。
((でもま、こいつはねーな))
2人共、恋とかでは無かったらしい。
とにかく、アリスとナツキは行動を共にする事となった。
「たああすけてくれえええええ!!!!!」
何処からともなくそんな声が聞こえたのはそのすぐ後だった。